第11話 魔族と二人の仲間

私とクヨは2つの約束をした。

 ・人を絶対に傷つけない

 ・私はクヨを絶対に裏切らない


 この2つの約束を私達は守り続ける。

 そうする事で私達は一緒に過ごす事が出来る、クヨにそう伝えた。

 クヨはもう過去の事はあまり思い出したくないようで、詳しくは伝えなかったが、クヨは長い眠りについていて、私が目覚めさせた。

 そういう事にしておいた。

 クヨは納得してくれたようだが、私は真実を知らない方がお互いの為だと思った。

 クヨにとっても、私にとっても。


「ミズミはかせ〜クヨちゃんと仲直りしたんですか?」


 助手が部屋の外から覗きながら訊いてくる。


「別に喧嘩した訳じゃないんだが……」


「クヨとミズミはかせは”約束”したから仲良しだよ!じょしゅもやる?」


「いや、助手は良いよ。私が保証する、彼女がクヨを傷つけたり、裏切ったりする事は無い。私達は”仲間”だからな」


「なかまならいいや!クヨとミズミはかせとじょしゅがなかま〜」


 クヨが嬉しそうに言う。

 どうやら機嫌も戻って来たようである。


「助手、ちょっと来てくれないか?」


「え?あ、はい。分かりました」


 私はクヨを部屋に残し、助手を私の部屋に呼ぶ。


「ミズミ博士、どうかされましたか?」


「クヨの事だが……」


「はい……クヨちゃんがどうかしましたか?」


「君は研究室には来ない方が良い」


「え?どう言う事ですか?やっぱりクヨちゃんが人を襲った件ですか?」


「ああ、やはり私の考えは甘かった。クヨは私の想像を遥かに超える力を持っている。今はまだ断片的な記憶しか持っていないが、直に記憶を取り戻すだろう……いや、もう取り戻し始めているか」


「つまり、魔王軍時代の魔族としての記憶や能力を取り戻したら私やミズミ博士の身が危険になると言う事ですか?」


「いや、クヨは魔族としての能力は取り戻している、いや取り戻しているというより、目覚めた時から記憶は消失していた様子だったが、衝撃波を放っていたし、能力は初めから持っていたのかもしれないな」


 クヨは今も未知なる魔族としての能力を持っているし、いつでも使用出来る。

 本人はまだ気付いていないし、自覚していないだけかもしれないが、人類を滅ぼせるだけの力を持っている筈だ。

 今回のミグさんの件の様に、何かの弾みでクヨの能力が暴走してしまう可能性は十分ある。

 それに助手を巻き込む訳にはいかない。


「もしかして、ミズミ博士は私の事心配してくれているんですか?」


「もしかしなくても心配しているつもりだったんだが……」


「心配ご無用です。私もクヨちゃんと同じく、この先どんな事があっても、ミズミ博士と運命を共にするって決めてますから」


「……」


 私は何も言い返せなかった。


「これはクヨちゃんの言う”仲間”や”約束”じゃなくて、私自身が決めた事です。ミズミ博士には死んでも返しきれない恩がありますから」


「……あの事はもう忘れたかと思っていたよ」


「ミズミ博士が忘れても私は一生忘れません。ミズミ博士から受けた恩を。私が今生きていられるのも、あの時、ミズミ博士が私を救ってくれたからです」


「……君がそういうなら…な。だが本当に何が起こるか分からないぞ」


「分かってますよ。分かっているからこそ、私がそばに居ないと」


「やれやれ…本当に君には敵わないよ……」


「ミズミ博士、不安なんですよね?ずっと夢見ていた実験の第一歩なんですから。私もミズミ博士の夢にお供させて下さいよ」


 助手が笑顔で言う。

 助手も覚悟を決めたらしい。

 私も覚悟を決めなくてはな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る