第3話 魔族の服

さて、クヨもどうやらお腹を満たせて満足気のようであったし、私も嬉しいのだが……

 いかんせん、クヨは裸体のままであるし、性的なこころは無いとはいえ、年頃の少女(ツノと尻尾が生えているのだが)の裸体をいつまでも眺めている訳にもいかないため、私は何かクヨに着せる事が出来る服が無いか探してみる事にした。

 私は時々来る助手以外は人と関わらない。

 研究に必要な素材などを購入、収集する為に外出する事はあるのだが、積極的に人関わる事はしなかった。

 ふむ、服か……

 クヨに着せる事が出来る服なんて、ここにあっただろうか?

 私は自身の部屋を漁ってみる。

 すると、研究用に王族から譲り受けた、勇者の仲間である”魔法使い"と呼ばれる人物が来ていたとされる、ローブがあった。

 それとブーツに帽子も。


 これならば、クヨも着れるであろうか。

 私はそれらを持って再び実験室へと戻った。


「それなに?」


 クヨがおっとりとした口調で、聞いてくる。


「これは服ってやつだ。私がクヨの為に持ってきたんだ、是非着てくれたまえ」




 失礼……と私はクヨに持ってきたローブを着せる。

 クヨは抵抗する事無く、素直にローブを着てくれた。

 ふむ、中々似合うじゃないか。

 やはり私の天才的センスが光っているな。


「これが……ふく?」


 クヨが不思議そうな表情をしている。

 魔族には服という感覚が無いのだろうか?

 だが、例の歴史書を見ても、魔族はいかにも魔族という感じの服装で描かれていた為、その辺りはよく分からないのだが。


「ああ、服だ。実に似合っているぞ」


「……にあってる。えへへ……ありがとう」


 クヨが照れ臭そうに喜んでいる。

 言葉の意味を理解したのか、思い出したのか、私の”似合っている”という言葉をそう解釈してくれたようだ。


 さて、これで服の問題は解決したし、これからどうすべきか考えないといけないな。


「ミズミはかせ、おなかすいた」


「これはこれは……まだ足りなかったか」


 まあ数百年間も眠っていたのだ。

 お腹が空くのは当然だろう。


「くだものでいいか?」


「うん、くだものがいい」


「分かったじゃあ買ってくるから、ここで大人しく待っているんだよ」


「おとなしく?」


「さっきみたいな、魔族の技は使っちゃ駄目だ。わかるな?」


「……分かった。つかわない」


「よし、偉いぞ。しっかりここで待っているんだ」


 私は研究所を出ると、久しぶりに太陽の日光を体に浴びた。

 ここ数週間は、ずっと例の歴史書を読んでいたので、ずっと研究所に引き篭もっていた。

 とりあえず、近所の果物屋に行くか。

 私は体を大きく伸ばすと、果物屋に向かった。


「いらっしゃい、おや、ミズミはかせ。久しぶりだね」


 果物屋の婆さんが声をかけてくる。


「うむ、この店で一番安い果物をくれたまえ」


「一番安い……ね。本当に良いのかい?後悔しないかい?」


「何を言っているのだ婆さん。とうとうボケ始めたか?後悔なんてする訳が無いだろう。早く持ってきたまえ」


「…分かったよ」


 果物屋の婆さんは店の奥へといってしまう。

 うん?

 私は何か間違った事言っただろうか?


 しばらくすると、婆さんがカゴいっぱいに入った果物を持って、出てきた。


「はいよミズミはかせ。持ってきてやったよ」


「いや、婆さん何だこれは。いやいや、何だこれは!」


「何って…ミズミはかせが言ってただろ?一番安い果物を持って来いって。だから持ってきたんだよ、ほら買いなよ」


「いやいやこれは…」


 果物屋の婆さんが持ってきたのは、果物に似ている”何か”であった。

 ドス黒いダークな色をしており、とても人間が食べるものとは思えない。


「約束だろ?買いなよ」


 婆さんが笑顔で聞いてくるのだが、目が笑っていない。

 これはガチなやつだ。


「わ、分かったよ…」


 私は婆さんの主張を認める事にした。


「えへへ、毎度あり」


 婆さんが嬉しそうに笑いながら言う。

 やれやれ……婆さんの策にまんまとハマってしまったようだ。

 何だか疲れてしまった……


 私の手に残ったのは、婆さんに買わされたよく分からない果物だけである。


「帰るか……」



 ***



 私は果物屋の婆さんから貰った(不味そうな)果物を持って、私の研究所へと戻った。


「クヨ、帰ったぞ」


 私は研究所の中の実験室にいるクヨの元へ戻る。


「わあ、みずみはかせ。おかえり」


「ほら、お前の為に果物屋の婆さんから(不味そうな)果物を買ってきたぞ」


「わあ!うれしい、ありがと、みずみはかせ」


 クヨに買ってきた果物を渡すと、クヨが嬉しそうに食べている。

 うむ、魔族のクヨならばどんな味でも、きっと食べてくれるであろうが、少し罪悪感があるな。

 人間とは感覚が違うとはいえ、どうみても不味そうな果物を美味しそうに食べるクヨをみて、何とも言えない気持ちになってしまう。

 今度はしっかりと、ちゃんとしたものを買ってこよう、そう思った。


「おいしい、これさっきのやつよりおいしいよぉ」


「そ、そうか……それは良かったな。私も嬉しいぞ」


 うむ、クヨが喜ぶたびに、罪悪感が生まれてしまう。

 やれやれ……私もまだまだだなぁ。


 しばらくすると、クヨは与えた果物を食べ終わった。


「すっごくおいしかった、ミズミはかせ、ありがと」


「私も嬉しいぞ、クヨ」


 クヨが可愛らしい笑顔で笑う。

 少しは心を開いてくれただろうか?

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