M05-11

 第一研究特殊部隊、通称『一特(いちとく)』の調査船の操舵室に宮本修(みやもとしゅう)の姿が浮かび上がる。最新のホログラフィーでもまねできない精巧な姿がそこにあった。


「約束だから『モノリス』は破壊するよ。人類の遺伝子の中に戦いを欲するものがある限り、戦争はなくならない。力を得た以上、遠からず人類は滅びの道をたどることになる」


山村光一(やまむらこういち)は宮本修を見つめる。


「ああ。わかっている」


山村光一は笑顔をつくる。


「ワクワクしたか」


宮本修は山村光一の質問に笑顔で答える。


「うん。ワクワクした。負けたけどね」


山村光一は大きくうなずく。


「そうだな」


宮本修は陣野真由(じんのまゆ)を見る。


「母さん。心配ばかりかけてごめんなさい」


陣野真由は黙って宮本修を抱きとめる。両手が彼の体をすり抜けてしまう。宮本修はやさしく微笑んだ。


「母さんらしくないよ。僕の体は陣野修(じんのしゅう)君のものだ。彼をお願いします」


陣野真由はうつ向いたまま宮本修の前に崩れ落ちる。涙がポタポタと床にこぼれた。


「もう一人、謝らなければならない人がいるんじゃないか」


山村光一の言葉に宮本修は向き直る。


「麻宮五鈴(あさみやいすず)さんは、まだ、君のことを待っている」


「そうだね。だから記憶を消したのに。山村さん達が思い出させるから」


「そんなこともできるのか」


「はい。でも、間違いでした。彼女のことは陣野修君に託します」


「君はこれからどうするんだ」


「新しい星を探して皆(みんな)と暮らします」


「取り込んだ人間を再生できるのか」


「はい。あなた達が『カイラギ』と呼ぶものは兵器としてつくられたけど、時間をかければ肉体を再生する機能もあります」


「新しい星で暮らすか。死んだ人間が地球に戻ってきたら新しい差別が生まれる。差別は憎しみを生み、戦争を生み出すからな」


「人間はまだまだです。でも、いいところもあります」


「ワクワクできるか」


「山村さんはなんでもお見通しですね」


「当たり前だよ。僕以上のオタクはいない」


山村光一は胸をはって見せた。宮本修は園部志穂(そのべしほ)を見る。


「神崎彩菜(かんざきあやな)さんと久我透哉(くがとうや)君、そして、陣野修(じんのしゅう)君を迎えに行ってあげてください」


「はい」


宮本修は彼女の答えを聞いて安心した表情を浮かべる。彼は泣き崩れる陣野真由に再び向き直った。


「母さん。僕は行くよ。陣野修君をよろしくね。彼は僕だから」


陣野真由は顔をあげてうなづいた。


「さようなら」


宮本修の姿が空気に溶けるかのように薄れて消えた。


 調査船の外で『モノリス』が崩壊をはじめた。いつの間らかグアム島の沖合に移動したそれは、下層部から順に砂粒上の金属片となって海へと降りそそいだ。太陽光を受けてキラキラと輝くその姿はまるで南国に降る雪のようであった。調査船のクルーたちは無言でそれを見つめた。『モノリス』の中から強い光の球が現れて、雲を突き抜けて上空へと消え去った。


「ドローン発進。三人の捜索に当たります」


モニターを見つめながら園部志穂(そのべしほ)が力強く告げた。

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