M05-05

 神崎彩菜(かんざきあやな)ののるBMD-A01の前に久我透哉(くがとうや)のBMD-T07が立っていた。BMD-T07は腰にさげたさやから『ライキリ』を静かに引きぬいた。


キーン。


『ライキリ』の発する超音波音が周囲の空気を震わせる。BMD-T07は『ライキリ』の刃先をBMD-A01に向けて中段にかまえた。


「透哉」


神崎彩菜はそう一言、つぶやいた。BMD-A01はBMD-T07を見すえたまま、直立の姿勢で背中に背負った『ムラサメ』をさやから引きぬく。


キーン。


二本のランクA装備の奏でる振動音が重なり合って周囲にこだまする。BMD-A01は腰を落として『ムラサメ』を下段にかまえた。


 神崎彩菜の脳裏に久我透哉との思い出が駆け巡る。柊木(ひいらぎ)中学校ではじめて出会ってから、ずっと久我透哉は彼女にやさしかった。ひねくれた言葉をはいても、いつも彼女のことを思った行動をとってくれた。


 同じ学年であったが、神崎彩菜にとって久我透哉は兄のような存在だった。摸擬戦の時でさえ、彼の剣は彼女を傷つけないように寸止めできる距離を保っていた。


 久我道場で学んだ彼の剣の腕は本物だった。瞬時に状況を理解して力強く、的確に打ち込まれる剣と向かい合って神崎彩菜は成長した。同じ戦い方をしても強くはなれない。自分を生かす戦い方を導き出せ。体の軽さを生かせ。バネを生かせ。スピードを生かせ。久我透哉は神崎彩菜にとっての師匠でもあった。


「透哉。私、本気だよ」


神崎彩菜のBMD-A01が先に動いた。低い姿勢を保ったまま、高速道のアスファルトをける。板バネのような脚はしなやかに曲がり、反発してBMD-A01の体を加速させる。瞬時に間合いをつめ、BMD-T07の横腹に向けて下段から『ムラサメ』を振り上げた。パイロットがのる胴を狙ったのは手加減なしと言う彼女の意志だった。


ガキン。


BMD-A01のはなった『ムラサメ』がBMD-T07の腹をさく寸前に『ライキリ』がそれを受け、横へとはらう。BMD-A01はその力を利用して体をひねりながら右横後方に飛んだ。着地の反発を利用してBMD-T07の背中に向かって走りながら左手のクナイを呼吸器官に向けて射出する。BMD-T07は360度の視界を使って振り向くことなく体を半歩ずらしてそれをかわす。クナイが空を切り、ケーブルを引き連れて飛び去る。BMD-A01はケーブルを左手で握ってクナイの動きを操りながら引き戻す。クナイから後方に向けた2本の刃が飛び出した。クナイはツバメのように空を舞い、BMD-T07の首元へと向かう。同時に右手でBMD-T07の脚を狙って『ムラサメ』を低くふった。


 BMD-T07は背中を大きく後ろに倒してブリッジをするような姿勢でクナイをかわした。そのまま右足を軸に回転してBMD-A01に向かい合う形で『ライキリ』を使って『ムラサメ』を受け止める。


ガッキーン。


刀と刀がぶつかり合う衝撃が腕に響く。BMD-A01は『ムラサメ』を引いてその力を受け流し、体をひねりながらBMD-T07の頭に向けて後ろ蹴りをはなった。


キーン。


BMD-A01の剣とかした脚が超音波音を引き連れて空を舞う。MD-T07は逃げずに体を入れて、左手でBMD-A01の太ももを受け止めた。


バシュ。


MD-T07の左手からクナイが射出され、BMD-A01の太ももを射抜いた。


アグ。


衝撃と激痛が背中の神経接続子を通してBMD-A01のパイロットである神崎彩菜へと伝わった。

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