M05-04

「ワクワク」


宮本修(みやもとしゅう)は首をかしげた。


「そうだ。ワクワクするだろ」


山村光一(やまむらこういち)はもう一度たずねた。


「・・・。わかった。やろう」


宮本修は笑みを浮かべて続けた。


「こちらは僕と久我透哉(くがとうや)君。そちらは神崎彩菜(かんざきあやな)さんと陣野修(じんのしゅう)君だ」


「了解した。聞こえてますか。彩菜さん、修君。君たちの出番だ。思いっきり戦って来い」


山村光一(やまむらこういち)はマイクに向かって叫んだ。


「A01。了解」


神崎彩菜(かんざきあやな)の返事が返ってくる。


『Z13。了解』


陣野修(じんのしゅう)の返事がモニターに打ち込まれた。


 その瞬間、調査船は『モノリス』の外にいた。白く輝く空間は消え失せて、海に飲み込まれたグアム島の街の中にあった。


朽ちかけた海岸沿いのリゾートホテルがいくつも立ちならび、波に洗われていた。100メートルほど上空に銀色に輝く『モノリス』が浮かんでいる。ホテル群をぬうようにつくられた高速道路の高架が見て取れた。


 街の中心にあるホテルの屋上に黄金色の『カイラギ』と久我透哉のBMD-T07が立っていた。神崎彩菜のBMD-A01と陣野修のBMD-Z13は、高速道路に隣接するホテルに向けて、それぞれ左手のクナイを射出した。引き出されるワイヤーの音が空を切り、クナイがビルに突き刺さる。


ヒュルルルル。バシュ。


2機は調査船の甲板を蹴って、ワイヤーを引き戻しながら飛び、高速道路の高架に立った。


 調査船のクルーは時間が止まったかのようにぼう然と、ことの成り行きを見守っていた。山村光一が園部志穂(そのべしほ)の肩をたたく。その一瞬、魔法が解けたかのようにクルーたちは我に返った。


「さあ。園部さん。最後の戦いですよ。二人が無事に帰ってくるようにサポートを頼みます」


山村光一は後ろに立つ陣野真由(じんのまゆ)に語った。


「宮本修君のご遺体は燃やされたのではなく、秘密裏にアメリカ軍によってグアムの研究施設に運ばれていたそうです。だから、陣野教授。あなたに罪はありません。『カイラギ』は最初に宮本修君の思いを取り込んで生まれたのです。昨日、これをハトが運んできました」


山村光一は小さな紙きれを陣野真由に見せた。そこには野島源三(のじまげんぞう)から陣野真由にあてたメッセージがつづられていた。彼女の目から涙が零れ落ちる。


「今どき、伝書バトですか。あなたたちって本当にやることが奇抜ね」


「人間が『いつくしむ』心を獲得したように、宮本修君の思いを取り込んだ『カイラギ』はただの兵器ではない。宮本修君はもっと楽しみたかったんですよ。人生を。彼はまだ14歳ですから。でも、そろそろ終わりにしましょう。あなたには陣野修君がいます。宮本修君は死にました。彼の思いが『カイラギ』の中にあるだけです」


二人が操舵室の窓の外をながめると、一羽のハトが飛び立つところだった。ハトの脚には赤いケースがむすばれていた。

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