M05-06

 神崎彩菜(かんざきあやな)はBMD-A01の太ももに刺さったクナイを抜かなかった。クナイはケーブルでBMD-T07の左腕とつながっている。BMD-T07の持つ『ライキリ』は長剣で刀身も太く、右手だけで振り回すのには重すぎることを理解していた。彼女はクナイの激しい痛みと引き換えにBMD-T07の左手の動きを封じたのだった。


 右足でアスファルトを蹴って背中を反らしながら後ろへと宙返りする。右足のブレードがBMD-T07のあごへと走る。BMD-T07は体を横に反らしてそれをかわそうとしたが、わずかにタイミングがずれる。右足のブレードがBMD-T07の左側頭をゴーグルごとそぎ取った。BMD-T07のゴーグルの部品がはじけ飛び、頭から赤い血が流れ落ちた。


 BMD-A01は『ムラサメ』を握った拳でアスファルトをたたいてバク転を繰り返して間合いを取った。2機の『バイオメタルドール』が向かい合ってお互いに刃先を向けてかまえた。神崎彩菜はBMD-A01の背中の呼吸器官を大きく膨らまして息を整えた。『ムラサメ』をゆっくりと背中のさやへと戻してから太ももに突き刺さったクナイを引きぬく。


ブシュ。


BMD-A01の太ももから鮮血が飛び出す。BMD-A01はクナイを右手に握りしめたまま、細くて強靭(きょうじん)なケーブルを手にからめとった。


「透哉(とうや)」


神崎彩菜は一言、叫ぶと同時にアスファルトを蹴った。側転からバク転、再びバク転しながら加速する。拳でアスファルトを叩き、飛び上がって頭を下にしたまま、左脚のブレードを振り下ろす。BMD-T07は右手を高くあげ『ライキリ』でそれを受け止める。その瞬間に体をひねって右足のブレードをBMD-T07の右腕へと向かわせる。


キーン。


右足のブレードが振動音を発しながらBMD-T07の右腕を切り落とす。『ライキリ』を握った腕が宙を舞う。BMD-A01は『ライキリ』がアスファルトに落ちるスピードよりも速く着地する。右足を軸にして左脚を回転させ、連続蹴りをあびせる。左脚のブレードは最初の蹴りで首を切り落とし、二度目の蹴りで胸の外殻を切り裂いた。三度目の蹴りで太ももの肉をそぎ取った。首を失い、胸を大きく切り裂かれたBMD-T07は尻もちをつくようにして後ろに倒れた。


 神崎彩菜のBMD-A01はBMD-T07に駆け寄り、パクリと開いた胸の傷に両腕を突っ込んで外殻をこじ開ける。力任せにBMD-T07の胸の外殻をはぎ取り、その下の筋肉をつかんで引きちぎる。


「透哉」


久我透哉(くがとうや)の裸の姿がそこにあった。


「透哉」


BMD-A01はBMD-T07の胸の中に手を差し入れて久我透哉の体をやさしく包んだ。背中の神経接続子を指でちぎって引き上げる。神崎彩菜はBMD-A01の胸のハッチを開き、腕を大きく伸ばして久我透哉の体をコックピットの中に招き入れた。久我透哉の胸に耳をあてる。


 久我透哉の心臓は止まっていた。ハッチを閉じて彼の体を包み込む。神崎彩菜は背中に腕を回して自分の神経接続子の半分を引きちぎり、久我透哉の背中の傷にあてた。神経接続子はゴニョゴニョとうごめいて久我透哉の背中の傷の中に潜り込んでいった。


ドクン。ドクン。ドクン。


久我透哉の心臓が動き出す。神崎彩菜は久我透哉の心音を聞きながら深い眠りに落ちた。

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