K06-04
「『カイラギ』には仲間も、家族もいない。究極の幸せなんて案外つまらないと思いませんか」
山村光一(やまむらこういち)の言葉に園部志穂(そのべしほ)は同意した。
「そうですね。私、なんだか別れた彼に会いたくなったわ」
「そうですよ。ケンカしたって、気持ちが行き違ったって、人間ならやり直せる。なんたって『いつくしむ』心があるんだから」
「そうですよね。私、元気がでてきました」
二人は調査船の窓からしばらく海を眺めていた。巡視に向かう陣野修(じんのしゅう)のBMD-Z13が海の中からはねた。
「おっ。『バイオメタルドール』だ。やっぱりかっこいいな。僕もいつか乗れる日がくるかな」
山村光一はあこがれを口にした。
「そうですね。山村刑事は見かけによらず子供みたいですから」
園部志穂はクスリと笑った。
「子供みたいが余計です」
山村光一も笑って答えた。
『Z13より本部へ。前方に巨大な物体を確認』
陣野修のからのメッセージがモニターに打ち込まれてくる。山村光一と園部志穂は同時に船首の先に目をやる。山村光一が声をあげる。
「おいおい。あれがグアム島なのか。ずいぶんと巨大なものをつくったものだ。資源が必要なのも納得だな」
「ドローンを飛ばすのには遠すぎるわね」
船室で休んでいたはずの陣野真由(じんのまゆ)がいつの間にか戻って、二人の後ろに立っていた。
「Z13を戻して。陣野修と神崎彩菜(かんざきあやな)は船上にて待機」
「了解です」
園部志穂はインカムをセットして二人に指示を出した。
「ところであれはなにかしら」
陣野真由は山村光一に意見を求めた。
「アニメだと、中に都市がすっぽり入るような巨大な宇宙船と言ったところでしょうか」
園部志穂はモニターを覗き込んだ。
「そんな。島、一つ分の大きさです」
陣野真由が告げる。
「十分にあり得るわね。陣野修(じんのしゅう)は数学の天才よ。『カイラギ』が宇宙船を造っていても不思議じゃないわ」
園部志穂が質問する。
「巨大な宇宙船で地球を丸ごと破壊するとかですか」
「『カイラギ』が兵器だと言うのならそれもありうるわね。ほかの星を侵略に向かうとこも考えられるわ」
陣野真由の意見に山村光一が水をさす。
「陣野教授。古いですよ。20世紀初頭のアニメです。人類を根絶やしにするためなら、そんなことをしなくても今の『カイラギ』の兵力があれば十分です。『カイラギ』の姿は海の生物と言うより陸に適した形だって野島(のじま)刑事も言ってました。まして、地球を破壊する動機がまるでありません。僕も一応、刑事なので動機にはこだわります。20世紀初頭のアニメは動機がちょっと弱いんですよね」
山村光一は自分の言葉に納得して続ける。
「ほかの星を侵略に向かうと言うのはわかりますが、『カイラギ』が『胚』として地球に送り込まれたのなら、あんな巨大な宇宙船を造る必要もありません。その方が合理的です。僕は『カイラギ』の残した言葉が気になります。『この星のみなもととして』と言うのはどういう意味なのでしょうか。人間が兵器としてつくられたにもかかわらず時の流れの中で『いつくしむ』心を獲得したのなら、その人間から生まれた『カイラギ』の中にも兵器ではないなにかが芽生えていてもおかしくない。それを聞きに行きましょう」
「『カイラギ』がそんなこと教えてくれるかしら。それこそ教える動機がないと思うわ」
「襲ってくるならとっくに襲ってきているでしょう。それに『カイラギ』にその気があるなら引き返したところで途中でやられます。少なくとも『カイラギ』はわれわれに対して言葉を発した。われわれを招待していると僕は思います」
「それなら白旗をつくらないとですね」
園部志穂が言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます