K06-03

 神崎彩菜(かんざきあやな)のBMD-A01と陣野修(じんのしゅう)のBMD-Z13は久我透哉(くがとうや)の捜索をかねて交代で『カイラギ』の巡視をおこなっていた。どんなに待っても久我透哉が戻ってこないことは二人ともうすうす気づいていたが、あきらめきれなかった。


「A01より本部へ。『フェイクスキン』溶解まで残り半分を切りました。帰投します」


神崎彩菜の声がスピーカーから響いてきた。園部志穂(そのべしほ)はインカムのマイクのスイッチをオンにして答えた。


「本部より、A01へ。帰投してください。Z13。交代の準備をお願いします」


『Z13。了解』


陣野修の返答がモニターに打ち込まれた。園部志穂は山村光一(やまむらこういち)に尋ねた。


「私たちは彼らにどう伝えればいいのでしょうか」


「ありのままを話せばいいんじゃないかな」


山村光一の答えに園部志穂は顔をくもらせた。


「そんな。神崎(かんざき)さんは家族のかたきをとるために『カイラギ』と戦っていたのよ。『カイラギ』のもとが人間だったなんて言えない。彼女が戦った『カイラギ』が彼女のご両親や弟だった可能性だってゼロではないのよ」


「柊木中学校の本庄卓也(ほんじょうたくや)と山下愛(やましためぐ)の件は知ってますよね。例の四本腕の『カイラギ』の件です」


「ええ」


「四本腕の『カイラギ』を倒したのは、彼らのクラスメイトだったそうです」


「・・・」


「本庄卓也(ほんじょうたくや)と山下愛(やましためぐ)は『カイラギ』に取り込まれてはいたが意識があったようです。彼らのクラスの担任の前で爪で字を書いて名のりました」


「・・・」


「僕には二人が人としての死に場所を求めたとしか思えません」


「残酷ですね」


「はい。残酷な話です。『サースティーウイルス』に感染した家族を持つものは、家族の死を目の当たりにしていないと野島(のじま)刑事がいってました。もしかしたら生きて戻っくくるのではないか。そんな淡い期待を一生持ち続けて生きることが幸せでしょうか。『カイラギ』に取り込まれたものはもう人ではない。そう断言するのが大人の義務だと野島刑事に言われました。彼女は気づいていませんが、彩菜さんが『バイオメタルドール』に乗るのは家族がかえってくることを心の奥底で期待しているからだとも。戦闘中に彼女が陣野修を助けたのも、そんな思いがあったからだと」


山村光一は一息ついてから続けた。


「僕は彼女に前を向いて生きてほしいんです。だから、彼女の養子にすることに決めたのです。みんなには内緒ですよ。彼女にはタイミングをみて僕から話します。修(しゅう)君は母親である陣野(じんの)教授の務めですかね。教授はもう理解していましたよ」


「そうですか」


「家族っていいですね」


「ええ」


山村光一は短く答えた。

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