第8話
「目立ってるよ・・・それに子供ばかりだよ」
「えっ 見たくない ET」
「頭が金色だ」
「なに?」と目を細めるとそばにいるアキナに助けを求める子供。
「彼氏さんですか?」
「・・・ 彼氏さんではなくて 黄色からカ・ラ・シさん」
アキナに誘われて子供も笑い出した。
「アキナ こどもが好きなんだ 映画を見ようよ」
「まあ いいけど それより太樹 アキナって調子こいてない」
「アキナさん 学生証持ってきた?」
「なんで学生証をもってくるの?」
「学割 高校生だから」
「持ってきてない」
「そうか 親子に間違われないかな」
「アフロマン 調子こいてんだろ」
「なんですか? アフロマンって」
「ケラケラケラ・・・だってケラケラケラ・・・」
なぜか 太樹はアキナに馬鹿にされても怒りはこみ上げてこなかった。
笑いが収まると小さな声で
「そんなことないっすよ 勘弁してください
アキナ先輩 ・・・彼女というテイで話すんで 怒らないでくださいね」
「おもってくれるの? いいよ私も出すよ」
「誘ったの 自分なんで よろしく」
「かっこいいね 太樹」
太樹はケツから長財布を取り出すと学生証を見せて
「彼女 高校生二枚」
「2600円になります」
長財布に学生証をしまうと3000円を出してケツにしまった。小銭はポケットにしまうと
「はい アキナの分」
「ありがとう」
昔の映画館はだいたいおっさんが入場券をもぎっていた。そして一回観たごとに外に出されることもなかった。
何回も観る人たちがいた。ETは違っていた。一回ごとに全ての観客を出してしまう。椅子に座ったままの人はいない。
太樹はアキナの小さな華奢な手を握ると引っ張っていった。なんだよという子供の目をその親の目 大学さあやカップルの目と目 全くめに入れていなかった。
大きな身体と大きな頭 アフロ そしてキツイ目つきの太樹に誰もなにも言わなかった。
突然に手を握られ引っ張られたアキナは呆然としていた。
ひとそれぞれにリズムがある。ペースがある。周波数がある。アキナにはアキナのリズムがある。
太樹には太樹のリズムがある。アキナにはアキナのリズムがある。
ズレが時に人を動揺させ、慌てさせる。
落ち着こうとすればするほどに心臓は高鳴り、呼吸は乱れ、汗をかき、香り立たせていた。
色づくアキナに意識する太樹。
握った手を離す機会を失っていく。
相互に相手を意識するからあらゆる波
呼吸、心臓、発汗、香り、異物感から生まれる嫌悪感を薄れさせていく。
同調させていく。共鳴させていく。
共鳴 沢山のメトロノームがパラパラに動いていも時間の経過とともに同じリズムを刻むようになること。
太樹の瞳にポップコーンを食べる少年が目に入った。
ひとの想いは聞いてみないとわからないが、太樹は自分の想いを相手も同じだと考える。
太樹はすぐに言葉にする。
「お腹空かない? 喉乾かない?」
「えっ まぁ」
「ポップコーン買ってくるよ 飲み物なにがいい?」
「・・・」
「コーラとポップコーンを買ってくる いい?」
「うん」
「席を取ってて アキナ」
「はいはい・・・はやく行って来な」
グッと立ち上がるバオバブの木。太樹は右手を前に子供たちを寄り分けて行く。
コーラとポップコーン
どう考えても二人分は持てない。しょうがないと先ずアキナの分を買っていこうとポップコーンを二つ頼みコーラを太樹は一つ買った。
席に戻ると立ってアキナはコーラとポップコーンを受け取ってくれた。
先に座るアキナに
「自分の分の飲み物を買ってくる 席をとっててくれる」
「うん わかった これありがとう」
「いいって 気にしないで」
また太樹はジャリン子をかき分けていく。立ち見が出るほどにひとは益々増えていっている。
「コーラLLくれる」
「すいません 売り切れです」
「まじで・・・ならグレープのいっちゃんデカイ奴」
「いっちゃん・・・」
「NHKじゃないよ 1番大きいの? わかるぅ〜」
映画館の女子スタッフは笑って返事はしなかった。
ヤンキーではないらしい。大学生か真面目な子なんだろうと太樹は思った。
明らかに自分より年上だ。上下関係を気にしていない。太樹にはそう見えた。
映画が始まるブザーが鳴り響いた。
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