第9話
ブーとなると館内の照明が落とされ暗くなる。
幕が開き始めた。太樹を探す。
強引に両手を使って、大きな身体をつかってかき分けてくる太樹が目に入った。
暗闇の中でもはっきりとわかる。目立ってる。アキナはスクリーンに視線を戻した。
「ごめん 遅くなった」
「まだ始まってないよ そう」
「はい これ」
「ありがとう」
当時の映画館にはドリンクホルダーもましてやポップコーンホルダーというようなモノは存在していなかった。
手で持って食べるものだった。
だから普通は片手にドリンクだったらもう片方にポップコーンはしないもの。
食べれなくなるから・・・
「これじゃあ 食べれないね」
「だよね ずっとこのままだね」
太樹は眉を細めると一気にグレープを飲み干してしまう。足元にカップを置いた。
「こっちの方から食べよう アキナ
ポップコーン貸して」
「一緒に」
「ダメ? 」
「ダメじゃないけど」
太樹の言葉遣いは不思議で タイミングなのか声の質なのか 優しい眼差しからか アキナの心の中にすっと入ってくる。
左手でポップコーンを鷲掴みすると口の中に入れた。
そして太樹は「はい おいしいよ」とアキナに差し出した。
アキナは一つ二つとポップコーンを指で摘んで口に運んだ。
ドンチョがさらに開いた。映画のオープニングがはじまった。
流石注目作だけあって、場内は鎮まりかえっている。あれだけ子供がいたのに、騒いでいる子はいない。
森にUFOが着陸する。影が動くがET 地球外生命体の姿はなかなか出てこない。
ウサギがズームアップされて太樹の眼に焼きつく。
街の明かりにETの影。
車のヘッドライト 何台もの車のヘッドライト。
アキナをチラッと見ただけで太樹は映画に視点を移した。太樹は映画に その物語に没入していった。
宇宙人な姿 ETが現れると可愛いくないと印象を思った。
「アキナ 可愛くないね ET」
「・・・」
「はい 食べる?」
「・・・確かに可愛くない」
映画ではそれを裏付けるかのように
エリオット少年に続いて
E.Tとの初対面でドリューバリモアが悲鳴を上げていた。
映画を見続けて行くとE.Tのユーモラスな顔 カタチも見慣れて可愛いく、愛おしい存在に見えて来る。不思議さを感じていた。
どんどん映画の中に太樹は没入していく。
仲間に取り残されていったE.Tの心境が自分の今と重なって涙腺が緩みそうになった。
男は人前で涙を流すものではない。そう祖父が言った言葉が頭の中を走った。
苦虫を潰すように口を動かし、一旦空を天井を見上げた。空調 三重丸 薔薇が目に入った。
空調である。よく見かける昔のカタチの空調である。
上を見ていたチラッと見るとアキナは視点を画面に切り替えてた。
アフロマンに届かなかったようだ。
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