第6話

一本立ての看板の映画。1983 当時ブームになった映画である。


その映画の名前は「E.T」

「アキナちゃん E.Tを見に行こう。観た?」

「まだ」


「ならいいじゃん」

「・・・」


「今度の日曜日 9:00に初めて会った河原で待ち合わせ」



「デートなの?」と保健室の先生が口を挟む。


「ならいいけど ダチだからね アキナちゃん」

「そう ダチ」


「ダチは死ぬまでダチ だっけ 伝説の総長いとうくんの名言」

「いいよ 太樹」


「なにが?」

「映画」


「本当に」

「しつこいよ ダチだろう 信用しろよ」


「かっこいい アキナ 男前」

「男じゃないよ 太樹・・・調子こいてない」


「・・・アキナさん 感謝してます」

「またね」指二本でお別れの挨拶をして、アキナハはドア開けて出て行った。



寝つけない。太樹は両手をあげて 連動させて大きく深呼吸した。


太樹の部屋 8畳の和室には和机が置いてある。その上には雑誌が積み重なっている。眠れない日はいつも雑誌を見開いて太樹は読み漁っていた。


何度も何度も同じ雑誌を読む。いまや彼の 太樹のスタイルになっていた。



それだけ 何が書いてあるか最初の頃はわからなかったということだ。ただ知りたいという強い欲求が何度も同じところを読ませる。


そして自分なりに太樹 

理解しようとした。自分なりに噛み砕いてわかるところまで掘り下げてから、積み木を組み上げていく。


だからあっという間に時間が過ぎていった。枕の側に置いた腕時計を掴むと時間を見た。


「えっマジ・・・2時 」寝ないと映画館で寝てしまう。太樹は読んでいたところがわかるように裏返しにした。


すぐさま太樹は布団の中に入った。電気をつけたまま瞳を閉じる。


アキナのことは考えないように考えないようにするために星の話を考える。無機質な星のメカニズムを考えようとする。



太樹はゆっくりと眠りについた。


起きれるように南向きのカーテンを大きく開けていた。南向きの庭に面した窓から朝日を浴びてゆっくりと太樹は瞳を開けた。



今日着ていくためにかけてある。太樹はドカンと呼ばれる太い黒いスラータックズボンに着替えるとアクアマリンのボウリングシャツを羽織った。


ボタンをささっと二つ三つ止めると興奮する自分を押さえ込むようにその場でジャンプして回し蹴りをする。


太いズボンはバサバサと音を立てて風を切り、円を描く右脚。この音がするから太樹は好んで太いズボンを履く。


アフロマンの完成である。


障子を開けて祖母の待つ台所と繋がった和室に向かった。


祖父が散歩を終えて帰ってきていた。

縁側に座り盆栽をいじっている。ハサミの音が消えると

「太樹 お出かけか 友達ができたのか」

「うん 映画を見に行く」


「そうかい ダチは死ぬまでダチだ ひとは記憶と想いでできている それは太樹の人生で巡り合った人たちの記憶だからな 大切にしないと 自分もそういう自分になる 私はそう思っている」

「ああ わかってる 何度も聞いた」


「そうだったかな 忘れちまうんだよな 最近のことは 昔のことははっきりと覚えているのに」

「帰ってきたら 映画の話をするよ 爺ちゃん 聞いてくれるかい」


「いいとも」


「出来たよ 太樹 友達を待たせちゃいけないだろう 爺ちゃんはいつでもいるから」

「ありがとう」


話はまわる自分が話した話がいつのまにかひとの記憶にすり替わったりする。太樹はそれをよく体験する。自分が言った話を言った本人から聞かされることが多い。


まだ幼い頃はそれこの前僕が話した話だと言ったこともあったが、そういうものなんだと今はなにもいわなず、聞いている。



太樹が立ち上がると「デート楽しんで来な」とおばあちゃんが声をかけた。

「えっ・・・ダチだよ」

「そうかい そうかい 気をつけて」


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

玄関の引き戸が閉まる鈴がなると祖父が祖母に小さな声で問いかけた

「なんでデートだと思うんだい」

「太樹 友達は いつも迎えにくる もの凄い音を立てて」


「ああ そうだな」

というと祖父はハサミを掴んで剪定をはじめた。祖母はお茶を入れて祖父の背中を見つめていた。







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