第5話

太樹は河岸を歩きながら空を見上げた。桜は花は散って、緑に染まっていた。


脚を止める。祖父にもらったautomaticの腕時計を見つめた。


『はやい 早すぎる 祖母が心配する』どうして暇をつぶすか、先ず座ろうと太樹は河原の芝の上に腰を下ろした。


座ってるのが疲れて芝に寝転がる。空を見上げた。

雲を見つめているとふと先日のことを思い出した。


ナンパした時にいた奴らだ。太樹は思い出したが、ヘナチョコだとそんなことを気にすることもないと立ち上がる。


『気分悪い』と気分を変えるかとタバコ屋に向かった。


制服で買う姿にそういうことしそうな子と視線を外された。大きな頭 その頃太樹はアフロにしていた。


大きな身体 太いズボン 短い裾の短ランを着てアフロの頭である。


どう見ても目立つ。アキナでなくても目立つというだろう。タバコを加えて駅前に、視界に本屋が見えた。販売日より早く週間漫画を売ってくれる店だ。


祖父母は早く寝るので夜中家を抜け出してここに来たことがある。当時はコンビニも夜遅くまでやっていたなかった。


夜中にやってる店はそうなく、スナックやバーならまだしも普通の店で開いている店は珍しかった。


そこで立ち読みした時にあれ1日はやく置いてあると気づいたことを思い出した。


太樹はタバコを黒いアスファルトに落とす、タップのついた革靴のかかとで消した。


カチャカチャとなる靴。タップでタバコを押し消すように捻りを入れるとタップ(金属)とアスファルトなのでタバコは粉々になってしまう。


太樹はゆっくりとドアを開けた。2時間から3時間 お昼を過ぎたあたりに帰ろうと太樹は漫画を物色した。


当時ヤングマガジンが出てまもないころのはなしである。


分厚い少年ジャンプ 少年マガジンではなく、週刊誌の厚さの漫画雑誌が増えた頃。

漫画といえば子供が読むものというイメージが薄れていた。


厚みがないということはあっという間に読めてしまうということ。


次々と読破すると太樹は漫画コーナー以外に足を伸ばす。学洋書 そして月刊紙 ムーやニュートン

スカイウォッチヤー 月刊天文

航空機 戦闘機 戦艦と言った。マニア向けの雑誌のコーナーがあった。


男の子らしく。太樹は最初に戦闘機、そして戦艦へ


何度も視界を跨ぎるスカイウォッチャーを手に取った。


とてもマニアックな本だが、わからないことですら逃げることなく、端から端まで舐めるように読み始める。何度も何度も読見返すので、時間はあっという間に過ぎていった。


本は次第に読みやすいように馴染んでいく。それだけ商品ではなくなっていった。


誰もいなかった本屋にはサラリーマンのお客が増えてきていた。太樹がいるところにも次第にお客が増えている。


大気もそれに気づいた。店主と目があう。そして店主の目は太樹が持つスカイウォッチャーに目がいく。


太樹もその目線に誘導されてスカイウォッチャーを見つめた。

太樹はニコッと笑ってから

「これください?」

紙袋に入れようとする店主に

「そのままでいいです」


「随分熱心に読んでましたね 

あなたがいい本と巡り会えた よかった」

「あっ ・・・はい」

お金を渡すと太樹は恥ずかしそうに店を出て行った。


すっかりアキナからの忠告を太樹は忘れていた。

空には少ないが星がいくつか見えている。


すっかり夜になっていた。

「ただいま」

「お帰り」


和室に太樹の分だけの食事が用意されている。祖母が太樹が帰って来たと料理を温め直してくれている。


電子レンジではなく、コンロに火をつけて焦げないように注意して温め直してくれている。


太樹はそのゆっくり流れる時間の中で星の話を読んでいる。とてもゆっくり流れる星の話 恒星の話を読んでいる。



目覚ましを消して時計を見つめ、あと15分は眠れそうと瞳を閉じた。もう一度目覚ましではなく、瞳を開くとあっという間に30分が過ぎていた。


よくあることだ。


慌てることなく、太樹は起き上がる。

制服にパッパッパと着替えて、祖母が朝飯の支度をしている和室に向かった。



いつもこの時間なので、祖母もそういうモノだと思っている。


昔ながらの朝食 納豆にお味噌汁にキュウリのキュウちゃんとご飯が置かれている。


納豆をかき混ぜ、ご飯にのせてパッパッと食べると口をさっぱりさせるようにキュウリのキュウちゃんを食べる。お味噌汁は少し残す。

「行ってきます」

「いってらっしゃい」


祖父はいつもいない。お散歩に出かけている。

いつものことだ。


遅刻電車 走らないと登校時間に間に合わない。


その電車を見送る太樹。


走るのが嫌いなんだ。と自分にいい。ホームにあるベンチに座った。


ふと思い出した。予感なのか、先日のことを

この電車は満員電車ではない。この前の電車とは違って乗客はそんなに乗っていない。


不良が好きな電車だ。あの時も同じで

電車には乗客はまばらで電車内を見通せた。目の悪い太樹は遠くに綺麗な女性を見かけて、これは運命と近づいていった。


その周りに誰がいるかのなど関係なく、目の悪いものが目を細めて焦点を合わせるように、背の高い、頭がデカいアフロの太樹は吊革に当たらないように屈んで目を細めて綺麗なひとに近づいていった。 


「おい なんだよ 文句あるのかよ」

「えっ」太樹は視線をずらした。パンチパーマとゴールデンヘッドが立っている。


小さい、そして細い2人 明らかにヘナチョコだ。

言葉が出る前に太樹は左に跳ねてから右に体当たりする。斜めに並んだピンが二つ弾け飛ぶ。


誰もいないドアに向かって弾け飛んでいく。スペアである。


そして女子に声をかけることなく

次の駅に着く。太樹が通う学校の駅だ。

「邪魔だ」とひと蹴りして

「すいません」と言った横をすり抜けていった。


あいつらのことかなと次の電車に乗り込んだ。

でもボコボコにはしていないと太樹は電車内を見渡した。


学ランを着たものは見当たらない。そんな漫画や映画じゃないんだから、ありえないよな。


待ち伏せなんてとイメージを変えたいのか大きく瞳を閉じた。


高校の最寄り駅に着くとアナウンスが入る。


太樹はなにも考えずホームに降りた。改札は一つで上りホームではなく、下りホームにある。


太樹は会談をあがっていく。前に1人学生が上がって行く。


女子だ紺色のブレザーを着ている。すぐそばにある別の高校の制服である。


改札が一つでほとんど使う乗降客は朝と夕方しかいないからか、学生の通学時間に合わせて駅員がいる感じの駅である。


改札にもう駅員はいない。そしてその後ろに大量の学ランを着た生徒たちがいるのが見えた。


3.40人はいる。太樹は自分に絡むことではないと、決めつけている。彼の性格だ。

何事も大したことにはならないと考えている。


彼の性分だ。


階段を下って行くと改札に前に出てくる左手にギブスをはめて三角巾をつけたゴールデンヘッドが立っている。

太樹を見つけると「あいつだ」と指を指した。

「だいたいこんな昼間に待ち伏せかよ」までにとどめ、「やる気がないだろう・・・夜討 朝駆けでなく」とつづけなかった。


「まぁ落ち着けよ ちょっと会ってもらいたい人がいる」

「だれ?」


「大原さん 知ってるか?」

「おおはら」


「おおはら 三兄弟 二番目」

「知らない」

まるでビビらない太樹。自分より遥かに小さい奴ばかり。 

そして太樹の近くにいない。


距離を置いている。毎日こんなことをされても困るし、「いいよ どこ?」

「こっちだ」怪我をしている2人は本当に怪我をしているかはわからないが、後ろから2人してついてくる。


通学路を歩く。ここを左に曲がると高校に通じる道とは真逆の方を

「その角を右に」指さす。

「こんなところに住んでるんだ おおはらさん」


「知ってるのか?」

「知らない」


後ろからついてくる2人が

「今に・・・」そういうと足を止めて振り向き

「なんだこら はっきり喋ろや」


「なぁ 静かに行こうや 警察がくる」

「そうなの? 面倒くさいな」


なんて安心安全な族なんだよと太樹は思った。汚い木造のアパート その二階に通じる階段を先頭のやつが上がっていく。


逃げることなく、堂々と跡をついていく太樹。

先頭を歩いていたジャージをきた男がドアを大きく開けて

「大原さん 連れてきました」

そのあと太樹は靴を脱ぐことなく覗き込む。どんな奴だと、

「お前 知ってる」そういうと革靴を脱ぐことなく部屋に上がっていく。

「集会であったことあるよな 覚えてるか?」


「はい」

「俺になにか用事があるのかよ」


「知らなかったんで」返事をすることなく太樹は振り向くと2人が部屋の前に立っている。


「邪魔だ こらどけよ」

「・・・」


「だけって言ってんだよ わからないか」握り拳をつくると腕をギブスを殴りつけた。


悲鳴を上げる。

「うるせぇよ 警察が来るだろう」

「はい」


「あの時間帯の電車に二度と乗るな 自分を見かけたら、どっかに行け わかった?」

「はい」


「なら どけよ」


忘れ物とばかりに

「何かあったら相談して 大原くん 合同集会で

マッサンに言っとくよ とても優しくされたって

お お は らくんにと」

「勘弁してくださいよ」


階段を駆け下りると

頭の通学路まで駆け足でいった。もちろん遅刻するから急いだわけではない。


この空気感から抜け出したかったのだ。族は当時連合を組んでいて それぞれの族にもヘッド 頭がいた。 総長は連合の総長である。



最近はこの時間にも

学年主任の片平が立っている。生活指導の担当だ。

「こんな時間に来るなら 太樹 来なくていいぞ

学校を辞めてもいいぞ そしたら

毎日朝早く来なくてもいいのだから」

「はい 考えときます」

そういって太樹は 片平の横を通り過ぎて行った。


多分この高校を卒業できたのは毎日言われたこの嫌味があったからだろう。


太樹はまたはやくこの空気感を抜け出したいと小走りになった。


下駄箱の前に立つと大きく息を吐いた。ため息をついた。

「おはよう 太樹」

「おはよう アキナちゃん」


「何かあったの?」

「ないよ ほら無傷」


「なに なにもないと言って無傷って」

「今日も素敵だね」


「誰にでも言ってるんでしょ」

「そんなことないよ」


「それにしても 頭デカくない 先が見えないよ」

「笑わせてくれる ケッケッケッケ」


「なんでそんな笑い方するの? 本当 なにもかも目立ってるよね」

「ありがとう」


「じゃあ 行くね」

「もう話ついたから 心配しないで」


「心配なんてしてないよ」

「・・・」


「・・・」

「アキナ 今度映画を観にいかない?」

「えっなに?あなたと一緒に目立つよ」


「後ろに隠れたら見えないよ 頭デカイから」

「かもね」


「行こう 今度あった時に詳しいことを決めてさぁ

ごめん 1時間目が始まる」

「・・・」アキナに返事を待つことなく

すぐに上履きに履き替えていた太樹は駆け足で


太樹は一段外しで 二段外しで駆け上がっていった。







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