第3話

河岸を歩いている。

河岸には桜が咲いていた。

その桜並木を太樹は抜けながら、

太樹は道を間違えたと失敗したと感じていた。もっと朝早く学校に迎えばよかったと後悔していた。


前も後ろも家族連れである。太樹は祖父母の申し出を断っていた。


両親は仕事の関係で行けないと随分前に太樹に断りをいれてきていた。実際に会うことなく、電話で済まされた。太樹は父の申し出を気のない返事でそれを承諾した。


親子で歩く中をひとりで歩くのは居場所を見つからない感じに圧迫感を感じていた。


太樹は道の隙間を見つけて彼らを抜き去っていく。ニコニコして期待して入学式に行くわけではない。だからか

「祖父から そろそろ出かけないと4・・・太樹」と言われて腰を上げた。


太樹はそんな朝早く学校を出たわけではなかった。



いち早く周囲の状況から離脱 回避しようと太樹の脚は次第にはやくなっていった。


ひとの目や耳 五感は不思議なもので見たくないもの、聴きたくないものはノイズになり、見たいもの聴きたいものは素敵な音に調べに聴こえてきて、見たいものだけに焦点が当たる。

そして周りのものには紗がかかる。


長い髪を一纏めにした少女に太樹の目が止まった。50m先を歩いている。彼女のことを知っている。


あの河原で会った彼女だ。確か名前は「・・・アキナ」と、太樹は思わず思考が音になっていた。


その音に声に先に反応したのはアキナではなく、その側にいたアキナの妹だった。

「どこ見てるの 転ぶよ」

「わかった でもお姉ちゃん あのひと知り合い?」


2人の脚が止まった。太樹は脚が止まることなく2人に近づいていった。

「アキナ」とはっきりと声をかけた。


アキナはニコッと笑うこともなく、キツイ眼差しで太樹は見返された。


その怪訝な雰囲気に

「同じ学年だね」

「そうか アキナさんと言わないと 先輩 よろしくお願いします」


「誰だっけ? 急いでいるんで」

「言い方酷くない お姉ちゃん」


「太樹です。・・・太い樹木の樹と書いて太樹です」

「はいはい 大きいよ声 太樹くん」


ただアキナは振り返って前に進み出すと右手 人差し指と中指で折り曲げてクィックィッ動かしていた。(Air quotes)



アキナのその仕草に、・・・自然と微笑む太樹。夢の中にいるような雰囲気に包まれて、周囲の状況を気にしなくなっていた。


知り合いがあるという安心感か、

好きな人がいるワクワク感か、

両方が入り混じって自然と顔が火照り、微笑んでしまう。


居場所がないと感じていた太樹にはアキナは女神のように眩く輝いて見えた。


大きく息を吸うとゆっくり息を吐いて、ゆっくり大きく脚を前に出して歩き出した。


太いズボンが地面を桜舞う中をはためかせながら颯爽と太樹は歩く。そして歩く。


とても目立っていることを太樹本人はわかっていない。



人の流れについていく太樹。


ピンクの紙で出来た薔薇に囲まれた看板に入学式会場と書かれている看板を横目で見て体育館に入っていく。


革靴を履き替え体育館靴に、

太樹はその場に立っているとナレーションのように母親が子供に「新入生の席はあっち 手前は両親の席」と指差している。


"そうなんだ"と従って演壇の前の席 ブロックに向かった。


1年10組だったとカバンから入学式の資料の入った封筒を出すことなくスタスタと歩き出した。


席に着く。通路を跨いで隣に見覚えのある顔があった。

「ねぇ ねぇ 太樹くん10組なんだ」

「おっ妹さん」


「妹さんって わたしの名前は

ミホだよ」

「そう」


「そうって」

「じゃあ ゾウ」


「ふざけてんの?」

「ところでお姉ちゃんどこにいるの?」


「えっ ・・・・あそこ」

「本当だ」 

手を振る太樹に

両手で

指二本をくいくいと動か(Air quotes)してから 校長の方を指差した。行動がお姉さんだ。

もちろん太樹とアキナは血は繋がっていない。


入学式が終わりに新入生の両親と在校生が体育館から出て行き、新入生のみと先生だけになった。


パイプ椅子を体育館の脇に置き、クラス別に男女分かれて立つ。視界の左端に影が見えて咄嗟に体を交わした。


型をこれでもかとしたせいか、避けると同時に相手に打撃を与えた。


飛び蹴りをされそうになった。もちろん的(マト)太樹である。


打撃を与えられた相手はバランスを崩して変な型で床に落ちた。


駆け寄ってくる男に

「なんだよ なんなんだよ クソがよ」

「・・・」

太樹を見ていた視線を床に落ちた男に

「石井 大丈夫か?」

「ああ」


すぐに石井は立ち上がるとツカツカと太樹に近づいてきた。

「どこの中学だよ」

「ならお前は?」


「羽衣だよ おまえは?」

「引っ越して来たから この辺じゃない」


「ねぇ 太樹くん 学会だよ」

「なにそれ?」


「学生会 縮めて学会 不良の集まり」

「そうなんだ」

ミホはそういうと視線を太樹から外した。


「はい 列を作って 教室に向かいます」

先生の声になにもなかったように太樹は彼らと列になった。


後ろに飛び蹴りをして来た石井 前に松嶋が立っていた。横にはミホがいる。

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