第21話 ごまかしも大事です
「取り敢えず、この何も見えないと言う状態は不味い」
とそう言いながら、ユースタスは後ろに流した前髪をぐしゃりと掻き混ぜた。
張りのある金髪が鬣みたいだなあと思うけど、残念ながら人の頭を撫でる趣味は無いんだよね。犬だったら問答無用でもふもふしてただろうけど。うん、ふっさふさなんですよ。
「ぱっと見た時にそこだけ何も無いって言うのは、かなり目立つからな」
今は私しか見てないから良いが、見る力が有る奴が見れば直ぐに気付くだろうと言う。
「えー。……じゃあ、結界消しちゃう?」
折角眷属達が張ってくれたけど、別に街中で何か有る訳も無いだろうから、勿体無いけど消しちゃおうか?と、妖精達に相談してみる。
「いや、消さなくても大丈夫だ。要は何も無いから目立つだけで、何か有るように偽装すれば良いのだ」
守りが薄くなるのは宜しく無いと、何故かユースタスが止める。
「やり方は……、教えた方が? それとも私がやっても?」
妖精達は力は有っても、有るからこそ誤魔化しなどのちょっとした技は不慣れらしい。
「今回はお願いしちゃって、次回からは私達で出来る様に教えて貰えば良いんじゃないかしら?」
水球の中でくるりと縦に円を描く様に泳いで、尾鰭を美しく煌めかせながらゾーイが返事をする。
「では、私がやろう。……結界の上に虚像を重ねて、周囲と馴染ませる。虚像はなるべく現実に即した方が、ぱっと見た時に違和感が出難いが、主殿をそのまま映すとそれはそれで興味を引く事になるだろうから、要件だけ似せれば良いだろう」
後は時間によって行動を変える様にして……。何をしているのか分かるように呟きながら、ユースタスが手のひらの上の光に力を流し込んでいき、最後にその力を保ったまま範囲を家全体まで広げた。
「よし。大体こんな感じで良いだろう」
と、結果に満足そうに頷くけど、魔力の流れとかは何となく分かるんだけど、どうなったかとかの詳細までは今一分からないんだよね。
眷属達が満足そうに頷いたから、多分大丈夫なんだろうけど。
「器用なものじゃのう。わしらは大きな力を使うのは得意なんじゃが、こういった細かい事は苦手でのう」
オスカーがぐるりと視線を巡らせて、感心した様に呟く。
「私の場合は必要だったから覚えただけだ。大した力が要る訳でも無いので、やろうと思えば直ぐに出来る様になる」
人の領域に来なければ必要の無いやり方だと、ユースタスは言う。
「さて、取り敢えず必要な処置は済ませたし、私は一旦戻るとするが。……説得にどの程度掛かるか分からないので、いつまでとは現時点では言えないが、なるべく早くとだけ……。それまで主殿、恙無くお過ごしを」
最後にすんっと家の匂いを嗅いでから、不思議な闖入者は帰って行った。
「何だったんだろうね、あの人」
いや、自分の縄張り云々言っていたから、気になる所を確認に来ただけなんだろうけど。
でも分からなくなる様にしてどうするんだろう? こちらとしては有難いんだけど、管理する方にしてみれば駄目なのでは?
何となく勢いに飲まれて流されたけど、正気に戻れば何だったんろうである。
呆然としたまま朝食の片付けを終えて、足りない物とか必要な物とかの買い出しをする。
タオル類とか宿暮らしだけど一応生活していた訳だし、十分かと思っていたけどそうでもなかった。日常の細々としたした物を買い足さなきゃならなそう。
まあ、必要になったらその都度で良いんだけど。
何ならインテリアとして壺なんて買ってみても良いだろう。
エドワードが中に詰まっていたりしそうだから、大きさはよく考えないといけないけど。
後は、ゾーイが花とか綺麗なのが好きだから、花瓶を買うかそれとも鉢植えを買うか。
「食材も買いたいから、広場の方にも行きたいな」
野菜とかは近隣の農家の人が、小遣い稼ぎに露店販売をしているから、形はちょっと悪くても値段は安目なのだ。
「では先に広場からにしますかのう。露店の方は昼前には大方の商売を終えてしまいますからのう」
肩の上のオスカーが言う事ももっとなので、先ずは食材を買いに向かう。
「野菜とか買ったら、一旦家に置きに帰らないとかなあ。嵩張るし重いしね」
この身体だから力は強いけれど、人混みの中で嵩張る荷物を持って動くのもあまりしたくない。
「では昼食も買って帰りましょう」
眷属達と楽しく食べたいから、外よりも家の方が落ち着くのだ。
「あ、キャベツも買って帰ろう」
まだどこにどんな店が出ているかとか全然分からないから、端から見て気になった物をその都度購入する事にした。
結果すでに脇には小麦の袋まで抱える羽目になっている訳なんだけど。
家にはベーコンと卵とヨーグルトとチーズとパン、それからバナナが有る。後は基本の調味料と食用油。
あんまり買い込み過ぎると傷ませてしまう事になるから、生物は食べれる分だけにしないとと思いつつ、日持ちするからと目に付いた物をつい買ってしまう。
でも小麦粉は魔法の粉だし?
米も欲しいけど、無かったら当面麦でも良い。穀物食べたい。
じゃがいもと玉ねぎはちゃんと保存すれば割と傷まないし、あればメニューを考える時に取り回しが利くし。
妖精達は果物も好きだから、りんごとかオレンジとか日持ちする奴を買って。
「主様、そろそろ止めておいた方が良いのではないでしょうか?」
あれもこれもとテンション爆上がり状態で買い漁っていたら、さすがにララから制止が入った。
オスカーもララも荷物を持つのに向いていないから、全部自分で抱えている訳で。
脇に小麦袋、丈夫な布で出来た背負い袋、財布とか色々入れている革の鞄の上に、こまごまとした食材を入れた雑嚢。
これもう、身体を揺すって歩いている様な感じになっている気が。
露店のおっちゃんは、やるな兄ちゃんって感じの目で見て来る。
こっちの人の平均より俺が小柄だからってのも有るんだけど。
もうちょっとチャレンジするだろ? みたいな感じを出すのは止めて欲しい。
「そうだね。つい買い過ぎちゃったよ」
今まで宿屋暮らしだからって我慢していた分の反動が……!
「一旦帰ろうか」
「と言う訳で、今日のお昼はお好み焼きです!」
粉物は正義!
ふんすと気合を入れる。
いや、買い物してたら山芋見つけちゃったんだよね。もう作るしかないじゃん?
鰹節っぽい物で出汁を取って、摩り下ろした山芋、卵、小麦粉を混ぜた物に、短冊切りにしたキャベツを大量に投下する。うちはネギは入れない派。
揚げ玉とか桜海老が有ると良かったんだけど、見付からなかったからまたその内に。
その代わりにチーズは削ってちょっと入れよう。
明太子とかも有れば良かったんだけど、買い物ストップされちゃったしね。
「そしてこれが疑惑の魔物肉です……!」
ででーんと取り出した塊りの肉。肉屋に行ったらどれが豚肉か分からなかったんだよね……。
おっちゃんお薦めの肉を、食べ切れそうな量だけ買って来ました。
魔物と言っても成人していれば倒せる程度の強さらしくて、ちょっとだけ固いけど流通量が多くて味もまあまあ美味しいらしい。
脂身が割としっかり有って、豚肉っぽいと言えば豚肉っぽい。見た目だけだけど。
「これを薄切りにして……と」
油を引いたフライパンに生地を円形に流し入れ、その上に疑惑肉のスライスを並べる。
後は片面が焼けたら引っくり返して、もう片面が焼けたら出来上がり。
ソースを塗って、鰹節を乗せて。青海苔は見付けられなかったので、次回でお願いします。
マヨネーズは個人の好みでと言いたい所なんだけど、作らないと無いから今回は省きました。
「熱い内に食べようか」
フライパン二つ使って焼いたけど、二枚じゃ足りないだろうともう二枚分準備をしてから、二枚を切り分ける。
ホットプレート的な物が欲しいなあと思いつつ、それもまあその内に。鉄板さえ有れば熱する部分はオスカーに頼めば何とでもなりそうだし。机の上に置いても大丈夫な様にするぐらいだから、生活雑貨を作っている鍛冶屋を探せば良いだろう。
ついでにたこ焼き用のプレートも作って貰うのも良いかな。中身を変えて作るのは結構楽しいのだ。
「ソースの味と合って美味しいですのう」
口の端にソースを付けながら、オスカーが美味しそうに目を細めたので、まあまあ成功だったようです。
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