第20話 酔っ払いダメ!絶対!
「うーん。怠いと言えば怠いような。怠くないと言えばだるくないような?」
昨日は打ち上げと称して少し飲み過ぎてしまった様で、目か覚めたら何ともしゃっきりしない体調だった。
いい気分で酔って、そのまま片付けもしないで寝てしまったから、着替えたら先ずは居間の掃除をしなければ。
とは言え、妖精達は食べこぼしたりする様な事はしないので、使った食器を下げて洗う位だろう。
今日も一日買い物とかの雑用をするだけの予定だから、防御とか汚れには気を使わなくても良いし、楽な格好で良いかな。
汚れを気にしなくても良いと言っても、細々とした雑事をこなすのだから、動きやすい方が良い。カーキ色のワークパンツに生成りのシャツを羽織って、洗い物をしやすい様に袖口を折り返した。
二階から一階の台所に食器を持って降りるのは、何枚もになると落としそうになるし、籠か何か欲しいなあと思いながら流しに皿を持って行く。
妖精達は手伝いたがったけど、彼等の大きさだと皿一枚がやっとだし、気持ちだけ受け取っておいたら、手伝えなかったのが悔しかったのか、流しに着いた途端に洗われてしまった。
食器を仕舞って、顔を洗ったら、朝食にする。
今までは前日に適当に買っておくか、宿を出た後にギルドまでの途中で買って食べるかしていたけど、簡単な朝食位なら用意出来る。
フライパンに軽く油を引いて、薄切りにしたベーコンを人数分並べたら、卵を落として目玉焼きにする。
バナナは一人半分ずつ。ヨーグルトには苺を粒のまま煮込んで作ったジャムを一匙。
パンはスライスしてから上にチーズを乗せて、オスカーに頼んでチーズを溶かして貰う。
いつも持ち歩いているすっきりする薬草茶を煎れて朝食の出来上がりだ。
「いただきま~す」
軽く手を合わせてから食事に手を付ける。
まあ、可もなく不可もなくな朝食だけど、毎日外食は胃が疲れると言うか、あっさりした物が食べたくなるから、普段食べる物はこれぐらいが丁度良い。
偶にカフェオレとか飲みたくなるから、豆と器具を買っても良いかもなーなんて考えながら、目玉焼きを食べて、皿にこぼれてしまった黄身は、新しく切り分けたパンを一口大に千切って拭い取って食べる。
「デイライト様、わしにもパンをその半分位」
じっと手元を見ていたオスカーがパンを欲しがると、自分も自分もとエドワードとララが言い、水球の中に入れて食べているからこぼれた黄身が無いゾーイは、寂しそうに尾びれを揺らした。
こういう時に差が出来ると余りよろしく無いから、全員に同じ様にパンを切り分けてやり、ゾーイの分にはジャムを少し塗って渡した。
ヨーグルトはジャムを入れても少し酸っぱいから、割り当てのバナナをフォークで適当に切って混ぜる。
この食べ方だとジャムより蜂蜜の方が良かったかなと思いながら食べ切って、最後に飲みやすい温度まで冷めたお茶を口にする。
こんな風に寝坊せずに起きて、ちゃんとした朝食を食べて。規則正しい生活をすると、一日がちゃんと予定通りに行く気がするから案外馬鹿に出来ない。
望めるなら綺麗な庭でも見ながら食後のお茶をと行きたいところなんだけど、残念ながら庭は無いので、窓から見える風景は裏隣の家との間の人がすれ違える程度の狭い路地と、狭い場所に更に干された洗濯物ぐらいの物だった。
コンコン。
「……?」
引っ越しした。やっぱり自分の家って良いななんてまったりしていたら、裏口、つまり店の方では無く居住区の方の扉がノックされた音がして、返事をするよりも先に首を傾げた。
コンコン。
現時点でこの家を訪れる様な知り合いに心当たりが無くて、顔を見合わせていると、再度扉が叩かれる。
「はーい」
誰だろう何て思いつつ、返事をして席を立った。
「はーい、どちら様ですか?」
インターフォンなんて便利な物はここには無いし、扉にはめ込まれた採光用の磨り硝子越しには人の輪郭が朧気に見えるだけだった。
「朝早くから済まん。この辺りを縄張りにしているユースタスという者なんだが」
決して怪しい者では無いと訪問者は言うが、そう言う者に限って怪しいのだと相場は決まっているのだ。
どうしようか? 悩んだ時は相談である。後ろを振り返って妖精達に目で問い掛ける。
「あー、デイライト様。王都を縄張りにしていて名前がユースタスなら、多分開けても大丈夫ですじゃよ」
何で来たのかは分かりませんが、真っ当な相手な事は確かですじゃ。と、オスカーは頷いてみせる。
他の妖精達も同意する様に頷いたので、それならばと鍵を開けて扉を開いた。
この辺りを縄張りにしていると言うのだから、もしかして裏の界隈の人とかなんだろうか?
許可も取らずに店舗付きの家を買ったから、何かしら言いに来たのだろうか?
でもこの家を取り扱っていた商人からは何も聞いてないんだけど。
妖精達が居るから、暴力に訴えられても負ける事は無いだろうけど、引っ越し早々問題を起こすのは避けたい。
ご近所さんに厄介事を持ち込む奴だと思われたくない。
のんびりゆっくり暮らすのが目標なのだから。
「やあ、おはよう? 改めまして、ユースタスと言う。よろしく」
扉を開くと、勝手口には不似合いな、金髪金瞳の立派な体格の男が立っていた。
手を差し出されたので、つい握り返せば、大きな手で力強くぶんぶんと振られる。
「この家の事で聞きたい事があるんだが、ここで話しても?」
可愛らしく小首を傾げられても、体格の良い男がしていると思うと何とも言えない気分になるだけだ。
「デイライト様、入って貰ったら~?」
お隣さんに聞かせるような話でも無さそうだし? エドワードがベンチの上を右に左に転がりながら、のん気な声でそう言う。
台所のテーブルは、どうせ妖精達はテーブルの上に乗って食事を取るからと、片側には椅子を二つ、もう片側にはベンチを置いていたのだ。
来客中に転がるのは流石に行儀が悪過ぎると、後で注意しようと思いつつ、身体をずらして訪問者を招き入れる。
来客用の応接間など無いし、二階に上げるのも流石に会ったばかりの相手ではためらわれるしで、そのまま台所で応対する事にする。
お湯を沸かして人数分のお茶を煎れ直し、買い置きしてあった刻んだナッツを混ぜ込んだクッキーをお茶請けに添える。
クッキーを皿に盛ったら、ユースタスと名乗った男は目をキラキラと輝かせたので、悪い奴じゃ無さそうかもと思いつつ、お茶を勧める。
「で、聞きたい事って何ですか?」
昨日引っ越して来たばかりだから、特に問題など起こしていない筈で。一体どんな用が有るというのだろうか。
「ああ、そうそう。王都は私の管轄なんだが、今朝起きたら妙な空白が出来ていてな。ぽっかり何も見通せ無くなっているものだから、こうして確認しに来たという訳だ」
「空白?」
「ああ、普通は匂いとか動きとか何となく何が居るとか、自分の領域に関しては分かるものなんだが、綺麗さっぱり分から無くなっているんだが、何かしたかな?」
「何かって言っても、昨日引っ越したばかりだし……。昨日は荷物を片づけて、夜は皆で飲んでたぐらいだけど……」
お酒が美味しくて、色々やるぞーって気になって。
「酔っぱらって、家に色々防御系の魔法を掛けた事とか……?」
何だっけ、耐久と耐火と防音と防水と。それから結界も掛けてたような?
「それだな。妖精が四属性も集まって結界何ぞ掛ければ、そりゃ何も見えなくなるな……」
うーん。と考え込む様にユースタスは顎を撫でながら唸る。
どうするかなーなんて言っているけど、どうにかしないといけない案件なの? これって。
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