第二章 開店準備

第19話 新しい環境

 と言う訳でマイホームです。

 思ったよりも安く済みました。

 と言うのも、基本的に土地はそこを治めている人の持ち物だからだそうです。

 ここは王都だから王様の土地って事。

 最初に建物を建てたり農地として占有したりする場合には、役場に届け出をして許可をもらう必要がある。

 その後は、建物の所有者が代わったり農地の使用者が代わったりした場合は届け出るって感じらしい。

 勿論何かあって立ち退きを要求された場合には、拒否権何て無いのだとか。封建社会怖い。

 とは言え立ち退く場合にはお金だったり次の土地の提供だったりで、損をすると言う訳でも無いのでそれ程困るわけでも無い。


 それから、魔物の襲撃が有ったりするような世界なので、建物は防御と火災防止を兼ねて外側は石造りな事が多く、大体は内装の変更や改修をして使っていくものらしい。


 つまり上物だけ、しかも中古を多少改修してと言うことなので、思った程は掛からなかったと言う訳だ。


 薬を取り扱うのだから、本当は余り日の当たらない作りの方が良いのだろうけれど、何となくお店は明るくて入りやすい方が良いと思ったから、入り口の扉は上半分位がガラスの嵌め込みになっているのにして貰った。

 嵌め込まれたガラスは分厚くて、厚さもちょっと均等じゃないから、覗き込むと歪んで見えるのが面白い。


 店舗部分はそれ程広くなくて、窓に近い場所に四人掛けのテーブルセットを置いた。

 基本的な造りはシンプルなんだけど、椅子の背凭れにはちょっとした植物柄が彫り込んであったり、テーブルの天板の中央部分は色タイルが嵌め込まれていたりしている。

 これだとテーブルに鍋なんかを直接置けるのだ。(鍋敷きを使えば良いだけの事だけど)

 横の窓には眩し過ぎない様に、カーテンを買ってこなければとメモに書き込む。

 普通は布を買ってきて、自分で縫ってしまうらしいのだが、指を刺す気しかしないので、お店でお願いする事にする。


 テーブルセットと反対側、カウンターに近い場所には商品の陳列棚。

 と言っても、棚が満杯になる所はちょっと想像出来ない。

 そもそも回復薬にそれ程種類がある訳じゃないし、そこそこ良いお値段のするものだから、じゃぶじゃぶ売れる様な物でもないのだ。

 まあ、そんな心配をする前に先ずは薬師ギルドに所属して、販売資格を取らなければならないし、もっと言うなら、ちゃんとした回復薬を作れるようにならなければなのだ。

 成分くらいは調整出来ますわとか言う、ゾーイチートが居たとしても。


 それから入り口正面にカウンター。座ったまま応対出来る様にカウンターは低目にして貰った。

 のんびり楽しく暮らしたいから、そんなずっと立ちっぱなしなんて事はしたくない。


 カウンターの上には睡蓮鉢。安定しやすい様にちょっとぽってりとした形で外側が深い青。内側が緑の色合いになっている。

 花の咲く浮草や水草や流木や石などを、ゾーイの好みで配置してある。

 必要無いと言えば無いんだけど、これなら側に居てもおかしくないからと言う事らしい。


 カウンターの足元には編み籠に肌触りの良い膝掛けを敷き込んだ物。

 エドワードが寝床に使うらしい。


 オスカーは気分によって寝床を変えるからと、特に居場所は定めなかった。まあ、後で必要になったら増やせば良いのだ。


 ララはカウンターの後ろにある商品の在庫を入れておく棚の上に、木の実の彫刻がしてある小さな巣箱を。

 柔らかい布を細く裂いてくれと言われて用意すれば、巣箱に持ち込んで居心地が良い様に整えていた。


 店舗部分はこんな感じで、一階は後は台所と兼用の食堂、風呂、トイレ、調合用の部屋と倉庫。二階は自分用の部屋と客間が二つ、それから居間と言う間取りだった。

 正直掃除の事を考えると一部屋で十分なんだけど、店の事を考えるとこんな感じになるらしい。


 引っ越ししてどこから手を付けようか途方に暮れていたら、ゾーイとララが二人で綺麗にしてくれたので、今後もお願いしようと思う。

 後、せっかく綺麗になったので、店舗部分以外は土足厳禁の内履きに履き替える事にしよう。何かやっぱり家の中も靴って落ち着かない。


「取り敢えず寝起き出来る様に最低限の家具は入ったし、食事は追々道具を揃えるとして、今日は今まで通りに買ってくれば良いかな」

 宿屋暮らしだったから、持ち込むのに苦労する程荷物も多くなかったし、ベッドや布団何かは家を決めた時に買い物に行って注文してあったし。

 布団は奮発して柔らかい敷布団も買ったし。寝具は大事。人生の三分の一から四分の一は睡眠時間だからね。


「引っ越し祝いにお酒など飲みたいですのう」

 小さい体で大丈夫なのかと心配になるけど、酒好きのオスカーが目を細めてリクエストを出す。

 酒好きだけど弱いのはエドワードで、酔うと陽気になるらしいんだけど、普段から陽気だからあんまり変化が無いような気がする。

 ララは弱い事も弱いんだけど、泣き上戸になる。普段は余り不平不満を言わないから、偶には愚痴の一つも聞いてやらねばと、機会があれば飲ませてみるんだけど、愚痴半分俺礼讚半分みたいな感じになってこそばゆい。

 ゾーイは酒も水分と言えば水分だからなのか、全然酔わないらしくて、味やアルコール度数より色の綺麗なのが好きらしい。その内何かシロップ的な物を手に入れたら、素人のなんちゃってカクテルでも作って上げようと思っている。


 お酒を幾種類かと摘まめる物中心におかずを買い込んで、台所の食卓じゃなくて二階の居間で打ち上げ兼夕飯を開始する。

 三人掛け位の大きさのソファーにローテーブルと、偶にだけど無性に床に転がりたくなる俺のために、中綿のパッチワークのラグマットが敷いてある。


 オスカーはアルコール度数の高い方が好きだから、ブランデーみたいな蒸留酒を。ゾーイにはその蒸留酒に果物を入れた物。本当は一日位は漬け込んだ方が美味しいんだけど、引っ越ししたばかりで用意がないからそれは次の機会に。

 オレンジとか柑橘類を輪切りにスライスして入れたから、見た目もゾーイ好みになってる筈。

 俺はそれを更に炭酸水で割って飲む。


 ローテーブルの上に広げたおかずは、豚挽き肉と白菜に椎茸や筍を刻んで混ぜて、ふわむちの皮で包んだ拳大の肉まん。

 もちもちとした衣の鱈のフリッターのチリソース和え。辛いけれど中の魚は淡白だから食べやすい。

 葉野菜と蒸し鶏を細かく裂いた物を小麦粉を薄く焼いて包んだサラダ巻き。胡麻ダレが掛かっている。

 後は定番のポテトフライと、大学芋。口の中がもそもそする組み合わせだ。……買い物はよく考えてしよう。


 デザートをうっかり口直しにならない感じの物にしてしまったけど、収まらなかったら買い置きしてある柑橘類を剥けば良いかなと考える。


「皆、引っ越しお疲れさま~。これからも宜しくお願いしますカンパーイ!」

 それぞれに用意したグラスにカチンと小さな音を鳴らして当てから、少しだけ中身を口に含む。

 元々それ程飲む方でも無かった様な気がするし、今となってみればお酒は好きだけれど然程酔わない身体になってしまったらしい。

 酔わないのに大量に飲むのも勿体無い話だし、ちょっとずつ味を楽しめる程度に飲む様にしている。

 多少は酔うんだよ、身体がぽかぽかしたりとか、ちょっと意識がふわふわしたりとかぐらいは。それ以上の身体に害になるぐらいになると、アルコールが分解されてしまうだけで。


「デイライト様の家に乾杯ですじゃ~」

 いつもはおっとりしているオスカーも、ちょっとテンション上がり気味に尻尾を上げて応えてくれる。

 宿屋暮らしで、火の属性の物が周りに無い環境だったから、暖炉とかオーブンとかが有って嬉しいらしい。


「薬草畑は作れなかったですが、主様のために頑張りますわ!」

 窓際で貴重な薬草とかを栽培する予定だそうです。あんまり目立ちそうなのは避けてくれると有難いかな。観葉植物的なのでお願いします。


「こっそり地下室作っちゃおうか?」

 土関係ならお任せあれ! と、ぽむぽむ弾みながらエドワードはいたずらっぽく笑う。作っても良いけど常識の範囲内でお願いします。家の底が抜けるとかそういう心配はしていないけど。

 気が付いたら地下都市が出来上がっていたとか、管理しきれないからね?


「回復薬作りのお手伝い頑張りますわ~」

 居間に置いてある硝子の金魚鉢に、切り花を浮かべて上げたら気に入ったのか上機嫌なゾーイもそう宣言してくる。

 回復薬は自力で作れるようになりたいので、フォローでお願いします。俺も頑張って腕を上げるから。


「それはそうと、デイライト様の塒ですから防御を固めなければ~!」

 外壁も見た目はそのままに、壊れない様に素材の構成を変えて~っと。

 火事にならない様に、耐火の魔法も掛けますぞ~。

 騒音を防いで中の音も漏れないように防音魔法も掛けますわ!

 では私は防水の魔法を掛けようかしら?

 酔っぱらって口々に言ってはふわっと光っているのは、もしかして魔法を使っているから?

 酔わないと思って居たけど、やっぱりちょっとお酒が入って気が大きくなっていたのかもしれない。彼らを止め様とは思わなかったのだから。


「それから、仕上げに結界魔法~!」

 四人が顔を突き合わせて、ごにょごにょと相談した後にそう叫んで、一層強く光ったのだけれど、安全になるならまあ良いかなんて思いながら、そのままお代わりをグラスに注いでいた。

 ゾーイとララ用に買った蜂蜜酒は、俺にはちょっと甘すぎました。

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