第18話 昇級しました

 無詠唱とか憧れますよね。

 出来るかなと思ったけど、結論から言うと出来ませんでした。

 何か詠唱しないと、最初にやったみたいに力技になっちゃうみたいで、妖精達に駄目出しされました。

 難しいね。


 そんな訳だけど、必要な分だけ『弱き炎よ』って唱えて、纏めて『敵を討て』で行ける事が分かりました。理さん割と緩めなの?

 おかげで薬草を採取しつつ、出て来た小鬼ゴブリンをファイアボールで倒す事が可能になって、依頼達成が捗る様に。ありがたい。

 つまり昇級条件を満たした訳で。




「はい、今日の依頼分で必要件数に達しましたので、鉄級に昇格になりますね。おめでとうございます。ギルドカードを交換しますので、現在使用されている物の提出をお願いします」

 はみ出た分の件数は、銅級の依頼のため繰り越し処理はされません。と、少しだけ申し訳なさそうな感じで、受付のお姉さんは付け足した。


 鞄からギルドカードを取り出して、カウンターの上に滑らせると、最初に登録した時に使っていた刻印機に新旧のカードをそれぞれセットしてから、上部の石に同じ様に魔力を流すように指示される。

 レバーを押し下げてガシャンと刻印されたカードが新たに渡された。昇級するとギルドカードの素材が換わるらしい。


「鉄級から銀級への昇級は、達成依頼件数が増える事もありますが、面接と実技の昇級試験があります。また、あまり素行か良くない場合は、試験自体受ける事が出来ません。デイライトさんはその点は大丈夫な様ですが。……該当する場合はギルド職員よりその旨通知が有りますので、そんな事が有ったな程度の認識で構いませんが……」

 上がったばかりなのに、もう次の話をされてもって奴ですよ。

 そもそも俺は、冒険者をやりたい訳じゃなくて、薬でも作ってのんびりしたい。

 薬師としての身分が保証されるまでは、冒険者として身分証代わりにギルドカードが要るから、資格を失わない程度には仕事をするつもりだけど。


 それよりも!

 昇級ですよ昇級!

 ギルドカードが銅から鉄(魔力を登録したり、偽造防止にもにょもにょしたりするので、特殊な加工を施してあるって聞いたけど、詳しい事は教えてくれなかった)になったから、個人的にはちょっとがっかりとかしたけど。

 銅って綺麗な色してるよね。


 ともかくもこれで、部屋を借りたり図書館を利用したりする事が出来る訳で。

 やっとスタート地点に着けたって事なんだよなあ。

 急いでいる訳では無いけど、先は長いなあ。




「そんな訳で第百五十二回家族会議です」

 宿の部屋に戻って、買い込んだ夕飯をテーブルに広げながら、キリッとした表情で言ってみる。当社比です。


「主様、いつの間に百五十一回も会議をしたのでしょうか? 私は殆ど呼ばれていないのですが、主様の信頼に足る程では無いと言うことなのでしょうか……」

 悲しげな声音でララが言い、


「そもそも家族でも無いよね~」

 と、エドワードが跳び跳ねる。


 うん、通常営業ですね。


「フレーバー的なあれですよ。枕詞?」

 つまりは適当に言ってみただけです。

 ララ以外は分かっていそうなので、そのままにして先に進もう。

 ララは生真面目な所が可愛いので、敢えて教えない。

 きっと後でオスカーかゾーイがフォローしてくれる筈だ。


 それはそうとですね、何と鍋とか容器を持っていけば、汁物のテイクアウトが可能だという事を、宿のおばさんに教えて貰ったんですよ。

 まあ、食堂に入って鍋を出すとか、最初勇気が要ったんだけど。だって、席にどうぞ~って流れになってるじゃないですか。

 ジョンさんは教えてくれなかったって言ったら、使用後の食器や器を洗うようなまめさが無いからじゃないかって。何だよジョンさん使えないな!


 テーブルの上に置いた鍋の蓋を捲れば、干した白身魚と卵と玉ねぎと青菜のスープ。鶏ガラスープっぽいのがベースになっていて、優しい味がする。

 大きな葉っぱで包んで売っている、焼き飯みたいなやつ。羊っぽい大きめに切った肉と人参と玉ねぎと干し葡萄が入っていて、炊いて作ってあるから肉の出汁と塩と胡椒の味なんだけど、ちょっとだけ入っている香辛料でスパイシーな風味がする。

 さつま芋っぽい甘い野菜を蒸かして潰したのを丸めて、胡麻をまぶして揚げた奴。甘い味のおかずは苦手って言う人も居るけど、俺は結構好き。

 デザートなのかおかずなのか意見の分かれる所だけど、俺的にはおかずです。

 パンっぽい薄い生地でチーズを包んで揚げた奴。揚げ立てだとチーズが蕩けて口の中を火傷しそうになるけど、チーズがとろとろの方が美味しいよね。


 並べた食事をそれぞれ取り分けながら、同じ様に見えてちょっとだけそれぞれの好みを反映させた配膳をする。

 と言っても、オスカーとエドワードは肉類が多目とか、ララは干し葡萄が多目とかそんな程度だけど。

 ゾーイは内容より見た目が綺麗なのが好きらしい。適当によそうと注意される。


「えーと、やっと冒険者のランクが上がったんで、前から言っていた様に家を借りるか買うかしたいと思うんだけど、取り扱ってる店に行く前に、条件を洗い出しておこうと思って。……必要な条件と、必要じゃないけど有った方が良い条件と、無くても良い条件と、有ると困る条件ね。書き出すから、思い付いたら端から言ってくれるかな」

 更紙を取り出して上にそれぞれの項目を書き込む。

 こういうのは思い付いたのを総当たりで列挙するのが良いのだ。思い付いた本人は下らない意見だと思っても、他の人からしたら思ってもみなかった角度の視点かもしれないからだ。


「店と一緒になっている方が良いかな。後はお風呂とトイレが必要!」

「畑が有った方が薬草が栽培出来て良いのですが、王都だと庭の有る家自体が少ないので難しそうですわね」

「寝心地の良い暖炉が欲しいですのう」

「人前でも出ていられる様に、素敵な水槽が欲しいわぁ」

「日向ぼっこ出来る素敵な窓が欲しいな~」

「わ、私も掴まりやすい素敵な止まり木が欲しいですわ!」

「回復薬を作るための部屋と、材料を保存しておくための倉庫も必要だね」


 などなど。全てを満たそうと思えばとんだ豪邸になりそうな条件が次々と出され、話し合いは夜半まで続いたのだった。

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