第17話 呪文なんて飾りなのです

 そんな訳で有料の技能講習第二弾ですよ。

 憧れの魔法ですよ。

 初級魔法入門なんだけどね。


 そう。初級の上に入門。

 どんだけハードル下げるのよって話かと思ったら、どうやら逆らしいのですよ。

 何と、才能が無い人はどれだけ頑張ってもどうにもならない種類の技能らしく、先ずはその選別も含めての講習らしい。


 ちなみに才能なしと判断された人には、講習費用の半額が返金されるそうです。

 半額なのは、全額返金だと冷やかし目的の受講者が出て来て大変だからだそう。


 最初に概論というか、魔法の発動する仕組みについて、簡単な講義を聴く。

 と言っても、机に向かってとかじゃなくて、ギルドの訓練場に直座りなんだけど。

 勿論黒板みたいな物も無いから、教官役の冒険者が言う事を、ふんふんと分かったような顔をして頷きながら聞くだけです。


 いやね、大体眷属達に聞いていた事と変わらなかったんですよ。

 魔法を発動するためには、世界の理を表すための言葉を呪文として使うとか何とか。

 つまりその言葉を発音出来るかどうかなんだけど、どうやらこの言葉を上手く認識出来なくて、呪文を覚えられない人が居るらしい。

 何でだろうね。


 後は、属性の相性なんかも有るみたいで、それによっては発動しても弱かったり、発動しなかったりするらしい。


 まあそんな訳なので、基本四属性の一番簡単な呪文を習って、発動するか練習してみようっていうのが今日の講習の目的だそうです。

 それ以上の呪文は誰かに弟子入りするなり、学校に通うなりする必要があるらしい。

 一応呪文書的な物は有るらしいんだけど、そもそも呪文が読めないらしい。

 読めないと言うか、正しく発音出来ないと言うか。


 つまり呪文の継承は口伝と言う事なのかな?

 魔法使いになるのも、結構大変そうです。


「では、火の呪文から教えるぞ。属性的に効果のある魔物が多くて使いやすいが、森や街中など燃えやすい物が多い場所では使用が制限される事も有るから気を付けるようにな」

 当たり前と言えば当たり前の注意をしてから、教官は腰に下げていた短い杖を手に取った。


 杖は魔法の威力とか、精度とか、消費魔力の軽減何かを補助してくれるらしい。

 長くて立派な杖の方が性能が良い事も多いけれど、これもやっぱり素材に依存する部分の方が大きいらしい。

 ただ、一般的な冒険者は、迷宮に潜ったり辺境を旅したりと、身軽である方が有利な事が多いのと、長々と呪文を詠唱するような大魔法を使う事が少ないので、短杖を好んで使うらしい。

 反対に軍に所属している魔法使いなどは、都市の防衛戦などで主砲の役割をする事が多いので、長杖を使うんだとか。

 ちなみに杖はどちらかと言うと魔道具なので、やっぱり魔法陣とか魔力回路とか色々仕込まれているらしい。


「『いと尊き力有る者よ、我が願いこの魔力と引き換えに叶え賜え。弱き炎の力にて目の前の敵を打ち倒させ賜え。』ファイアボール」

 歌う様に高低を付けた言葉を唱えて、杖に魔力が流したら、拳大位の炎の塊が真っ直ぐに飛んで的に当たって弾けた。


「おお~」

 一緒に講習を受けている冒険者達もざわざわっという感じで、感心したような声を上げる。

 魔法を覚えたくて来ているんだから、感動するのも当たり前と言えばそうか。


 しかし、呪文の詠唱部分がなんだけど、歌う様に音階を奏でている言葉には聞き覚えが無い筈なのに、不思議と意味が分かるのはどうしてなんだろう。

 それと、呪文が言葉の意味通りだったとしたら、これ自分で魔法を使っているんじゃなくて、精霊に魔力を渡して魔法を使って貰っているんじゃないだろうか。


「どういう事だろう? オスカー」

 他の人に聞かれない様に、小声でこそこそと肩に居るオスカーに話し掛ける。

「言葉の意味を分からぬまま、呪文として唱えている様ですのう」

 言葉の意味が分からないから、音としてなぞっても世界の理に干渉出来ない。

 世界の理に干渉出来ないから、魔法として発動されない。

 魔法が発動されなくなったから、魔法として成立する様に、理に干渉できる存在に魔力を譲渡してお願いしているんじゃないか。オスカーの推測はそんな感じだった。


「えー、じゃあ俺も精霊に頼んで魔法使わないといけないのかな?」

 それだと眷属達に頼んで魔法使って貰うのとあんまり変わらないと言うか。

 それよりも、意味が分かっているだけに、あの呪文はちょっと恥ずかしいんだけど。


「頼めば精霊どもは喜んで手を貸すと思いますじゃが。……言葉の意味が分かりなさるなら、精霊を介さなくても魔法が発動するように言葉を選べば良いだけですじゃ」

 精霊に頼むなら、あらかじめ決めておけば、魔法の名前を唱えるだけで力を使ってくれるだろうし、魔力の譲渡は先払いでも後払いでも可能だろうとオスカーは言う。

 精霊も割と適当だな?


「それって、俺以外も適用されるの?」

 魔力の先払いと後払いが自分以外にも可能なら、例えば余裕のある時に魔力を渡しておいて、魔力が無くなった時に魔法が必要でも使えたり、魔力が無くなった時に魔法を使って、後から魔力を渡したり出来るのではないだろうか。

「そうじゃのう、頻繁に使っていて魔力の消費が少なくなるぐらい得意属性になっていれば、精霊の方も多少の融通は利かせてくれるんじゃないかのう」

 人の方は精霊を認識していなくとも、精霊の方は好んで手を貸す相手を決めていたりするらしい。

「うーん。この事を教えてあげた方が多分良いんだろうけど、何でそんな事知っているのかっていう話になると、説明が難しいよね……」

 他の人がどれだけ魔力を持っていて、魔法が使える回数がどれぐらいか知らないけど、一回二回でも余分が出来ればその分楽になる筈だし。

 でもその事を説明しようとすれば、呪文の意味が分かる事と精霊に魔力を譲渡している事まで言わなければならない。


「よし、黙っていよう!」

 君子危うきに近寄らずですよ。面倒くさいとも言うね。

 だって、一人に教えたとして、そこから魔法使い全員にちゃんと正確に伝わるかと言うと、そうは思えない。

 どこかで伝言ゲーム宜しく間違って伝わって、間違って失敗した責任を求められたとしたら、困ってしまう。

 どこかで誰かにこっそり教える事はあるかもしれないけど、それは今じゃないと思うんだ。


「それよりも魔法ですよ。えーっと、精霊に魔力をあげる必要はないから……」

「何を、どれだけ、何に、どうすればが分かれば良いんですじゃよ」

 恥ずかしい呪文回避のために、勝手に呪文を改変してしまおう。って事で、オスカーの助言を受けつつ、さっき教官が使っていた呪文から単語を拾って再構築する。


「『弱い炎よ、敵を倒せ』ファイアーボール」

 これ弱いって入れるのがポイントらしいです。

 入れないと聞きつけた精霊が、ここぞとばかりに勝手に底上げしてくるそうで。(俺限定らしいけど)

 教官と同じぐらいの大きさの炎が的に当たって弾ける。


「おお、出来た!」

 呪文を唱えた時に、気を付けないと分からない程度の魔力が、指先からすっと抜けるのも分かった。


「おー、もう魔法が発動したのか。優秀だなあ」

 他の受講生を教えていた教官が近寄って来て、笑顔でそう言った。

 大体他の人は、一度聞いただけでは呪文を覚える事が出来ないから、教官が回りながら覚えた呪文を訂正している所だった。

「他の属性の呪文も一応覚えておくか?」

 初級の呪文は大体同じだから、一つ覚えれば覚えやすいんだ。と言って、風・土・水とそれぞれ呪文を使って見せてくれる。

 風と土は炎より小さく、水は更にそれらよりも小さかった。

 教官は炎が得意属性で水が不得意属性らしい。

 それでも四属性使えるのは珍しいらしく、だから教官として話が回って来るのだとか。

 ちなみに俺はどの属性も同じ様に使えました。

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