第22話 知識は大事だけど、勉強は大変です

 買い物楽しい~とか、引っ越しハイになっていたんじゃなかろうか。危ない危ない。

 まあ別に世界を救う! とか言うような使命が有る訳でも無いし、面白おかしく暮らしたって良いんだけど。

 でも目標を決めて何かした方が、達成感が有って良いんじゃないかな。多分だけど。


「当初の目標通り、薬師を目指さねば」

 大分迷走した気がするけど。スタート地点に立つために必要な過程だったんだ。


「薬を作るためには薬草と知識と道具が必要で、道具を揃えるにも知識が必要だから、先ずは図書館に行こうかな」

 勉強は好きでも嫌いでも無いんだけど、幸い記憶力も良くなっているみたいで、入れた情報はほぼ忘れる事がない。

 情報を整理するために、書き出せるように筆記用具と紙を持って。

 それから、一応お弁当も持って行こう。




 やって来ました図書館です。

 でかくて立派です。

 神殿とかじゃないんだろうかと思う位、どーんとした柱が入り口に建っているんです。凄い。

 ちなみに図書館に入るには保証金銀貨五枚と、入館料半銀貨五枚が要るそうです。結構お高い。そしてまた銀貨五枚かよ!

 本を汚損すると弁償させられるらしいんだけど、目の玉が飛び出る様な金額だそうです。

 ちなみに盗むと手首から先を切り落とされるとか何とか。怖い!

 まあそれだけ知識も本も大事だと言う事なんだけど。

 盗難防止の魔法も掛かっているそうです。


 立派な入り口を通って受付で荷物を預ける。鞄などの類いは持ち込み不可らしい。

 折角お弁当持ってきたのにと言うか、昼食を取るために一旦外に出たら入館料がまた必要なんだろうかと思ったら、外出時は魔術的な処理のされている印を手の甲に押して貰うそうで、その日一日は再入館可能なんだとか。


 中は小部屋毎に一応ジャンル分けはされているらしいんだけど、増えた分についてはまた適当に小部屋を作ったりと無秩序に増設されたりするそうで、つまりは読みたい本があったら司書さんに聞かないと分からないらしい。

 司書さんがまめな人だと、蔵書を分類分けして目録を作って、部屋の入れ換えをしてとするんだけど、日々増え続ける蔵書に常に対応する事は難しくて、任期中一度か二度すれば良い方らしい。


 と言う事で薬学関係の部屋です。基礎的な事はこの部屋に納められているとの事。

 最新のとかちょっと複雑な事が書いてある本は、未分類だったり別の部屋に納められたりしているのだとか。


「薬草図鑑から見るべきか、初級調合から見るべきか」

 六畳程の小さな部屋とはいえ、入り口側以外の壁は全て本棚になっていて、さすがにこれらを総当たりで読むのは無理そうだから、司書さんに頼んで幾つか最初に読むべき本を選んで貰っていた。

 持ち出し禁止だけあって、部屋の中央には六人掛け程度のテーブルセットが用意されている。


 手を伸ばして掴んだのが薬草図鑑だったので、先ずはそちらから。

 図鑑というから最初から挿画と解説なのかと思ったら、薬草の大まかな植生分布についての概論からだった。

 薬草名も地域名も馴染みが薄いから、目が泳ぐ泳ぐ……。

 でもまあ、採取しようと思った時に必要になる事だから、ちゃんと紙に控えておく。

 でも書き写している名前が何に使われるのかも分からないものだから、ただただ丸写ししているだけなので、一文字抜けても分からなかったりしそうで、後で見返した方が良いのかもしれない。


 幸い植生分布については数頁で終わって、図鑑の図鑑らしい部分というか、各薬草の挿画と解説の頁になった。

 これは名前順に並んでいるらしく、いきなり毒草だったり、霊薬に使う様な有るかどうかも分からない、挿画も無いような物まであった。


「これはこれで面白いんだけど、何に使うか分からないから見るだけで覚えられなさそう……」

 葉脈まで丁寧に描かれていて、挿画を見るだけでも結構楽しい。

 でも何にも紐付けされない記憶は、正直留めておくのが大変なのだ。


「回復薬のレシピ集でも見ながら、それと対応させて見た方が、時間は掛かるけど頭に入るのかな?」

 回復薬の作り方をメモして、それから必要な薬草と採取場所を書き込む様にすれば、後々使えるだろうか?


「あーでも、作り方の詳しいやり方が分からないと、メモを取っても無駄になる気もするし……」

 基礎が全く無いから、どこから手を付けて良い物やらである。


「うーん、うーん。上手くやろうとか、一番良い方法でやろうとか、そんな事考えてたら駄目かも……。要領悪くても良いから、自分で理解出来るやり方で調べないとだな」

 大きく一つ深呼吸して、気持ちを落ち着けて。

 試験勉強とかじゃないんだから、焦らなくても大丈夫。


 薬草図鑑と回復薬のレシピと初級調合の本を机の上に並べる。

 こっちの本は一冊一冊が大き目で、三冊も並べると机の上の大半を使ってしまう事になるのだが、幸いこの部屋は他の利用者が居ないから好きに使わせてもらおう。


「初級調合を読んで、レシピの確認と薬草の確認と、その都度していくって感じでやってみるかな」

 あれもこれも全部頭に入れてしまおうと欲張っても仕方ない。

 少しずつ出来る事を増やしていけば、その分理解も深まる筈。


 初級という割に立派な革の表紙の本は、大きくてずっしりと重い。

 開いて頁を捲ってみれば、文字ばかりでほとんど挿画がない。


「初級とか入門とかなんだから、もっと取っ付きやすい感じにすればいいのに」

 文字ばっかりで専門用語を並べられても、呪文も良い所である。辛い。


「うう……、先ず使用する器具の説明とかから書いてくれれば良いのに」

 何なのこれ不親切すぎでは。と、ついつい不満が口を衝いて出てしまう。


 下級回復薬については、主効能となる薬草……ずっと薬草薬草と言っていたけど、パウ草と言うらしいと、蒸留水とメル茸が材料らしい。パウ草もメル茸もどちらもそれ程深くない森に自生していて、パウ草は日向をメル茸は日陰を好んで生える。

 素材はそのまま使用する場合と、一旦乾燥させてから使用する場合があって、そのまま使用した方が効能は上がるが、乾燥させた方が安定した品質の物を作りやすい。

 そのまま使用する場合は、パウ草は洗浄後葉のみを使用し、なるべく主脈を丁寧に取り除く。メル茸は汚れを落として薄くスライスする。常温の蒸留水に投入し、そのまま沸騰しない様にしながら鐘半分煮出す。出来上がった物をろ過して冷ませば下級回復薬の出来上がりという事らしい。

 乾燥させた場合は葉の部分を葉脈から漉し取って薬研で粉にし、メル茸はスライスしたものを乾燥させて使う。同様に蒸留水に投入し煮出すが、煮込む時間は三分の一で良いらしい。


「先ずこれが出来るようにならないと、先を勉強しても意味が無いかも?」

 いやでも、入館料も結構するから、今日一杯は分からなくても調べて帰らないと勿体ないし。


「うう……挫けそう」

 こう、系統だって教えてくれる人で、さっさと独立させてくれるような面倒じゃない人どこかに居ないかな……。

 文章で読んでも、今一分かった様な分からない様なって感じなんだよね。

 必要な器具とかも書いてなくて、分かっている事前提で書いてあるし。

 多分、蒸留器と薬研とろ過器……学校だと漏斗と濾紙を使っていたけど、作る分量的に布巾とザルとかの方が良いのかな……。道具屋で聞いた方が良いかも?薬さじとか、加熱用の竈とか、鍋とか。

 下級回復薬を作るだけでも必要な器具は沢山有って、回復薬を詰める瓶も必要だし。

 安い道具を買って、それから徐々に良い奴にしていけば良いのかとか、もう色々独学でやるのは無理があるよね。


「なんで魔法が有るのに動画が無いんだろう……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る