第13話 ゴブリンさんはどこの界隈でも大体雑魚扱い

 ふー。とお茶を一口飲んで、満足して息を吐き出す。

 ちまき風の奴は期待に反してコンソメっぽい味だった。そういや醤油味って有るのだろうか? 有ると信じたい。

 肉を詰めたピタっぽい奴はちょっと味が濃い目。

 と言うか露店の肉系は大体味付けが濃い。

 柑橘系の奴は、小さい夏みかんって感じだった。ちょっとかなり酸っぱかったけど。


 妖精達は食事でエネルギーを補給する必要が無くて、つまりお腹は減らないらしい。

 ただ味見をしたりするのは好きらしいから、買ったご飯は半分こしている。

 本当は竜もご飯を食べる必要は無いらしい。

 何もしなくてもエネルギーを吸収しているらしいのだが、腹は減るものという意識があるせいか、三食食べないと落ち着かないのだ。

 ご飯が美味しいのは良い事だ。生肉とかそういう動物を直接食べる方が、美味しいと感じる身体じゃなくて本当に良かった。


「お茶のお代わり要る?」

 一応聞いてみるけど、器の中身が空になっているのは俺だけだ。皆の身体の大きさに対して、器は俺のと同じサイズなんだもの。

 ララなんて縁に停まって居る。ゾーイは……、飲んでるの? 一応欲しいと言うから毎回淹れているけど。


 誰も欲しがらなかったから、地面に穴を掘って片手鍋と茶漉しの中の茶葉を捨てる。

 後はゾーイに洗って貰って、ララに乾かして貰って鞄に仕舞う。


「何か来ますわ」

 ピチチっと囀りながら、ララが肩に飛んで来る。

 エドワードも跳ねるのを止めて、すっと首を上げた。

 本当はこんなに警戒する必要なんて彼らには無くて、ただ慣れない自分に合わせてどうすれば良いのかを行動で示してくれているのだろう。


 ガサガサと茂みを掻き分けるようにして、くすんだ緑色の肌をした、背丈は俺の腹ぐらいまでしかない生き物が現れた。

 自分の移動を隠そうともしないのは、自信があるからなのか知能が足りないのか。……見るからに後者みたいだ。

 腰に小動物の皮を巻き付けて、手には木の棒を持っている。

 こめかみの少し上辺りに親指の先ぐらいの突起があって、所謂小鬼ゴブリンという奴である。

 それ程強くないから、銅級でも単独なら倒せる相手とされている。

 ただ、それは小鬼達も分かっているのか、何匹かで行動している事が多い。

 そして相手の強さが分からないのか、出会うと襲い掛かって来る。そして敵わないと思うと、蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。


「うう……。こんな時弓が欲しかった……」

 手持ちはナイフだけとか、どんな縛りプレイなんだろう。


「デイライト様は弓の技能を持っているの~?」

「いや、遠隔攻撃と言ったら、魔法か弓じゃない」

 出来るかどうかじゃなくて、思い付いただけというか。


「でしたら止めておいた方が良いですわ~。弓は当てるのが結構難しいんですのよ」

「あれは真っ直ぐ飛ぶ物ではないですからのう。軌道の予測と引く力の強弱などを擦り合わせて、狙った場所に当てるので、更に急所の狭いポイントとなると、熟練の腕が必要ですじゃよ」

 との事なので、期待していなかったけどやっぱりゲームの様に撃ったら当たるという訳にはいかないようだ。


「主様。弓の練習はまた次回に致しましょう。魔物が来ますわ」

「腕に鱗を出しておいた方が良いよ~」

 事前に、手に負えない相手じゃない限りは手を出さないで欲しいと言ってあったから、眷属達は口は出すものの見守る態勢でいる。


「ナイフに魔力を通した方がいいですわ~」

 水球から出て、代わりに身体の周りに直径三センチ位の水を、輪の様に幾重にも浮かべてゾーイが言う。

 鞘から抜いたナイフの周りをくるくるっと回って、まるでナイフが水属性を帯びているみたいに見える。

 それに合わせて腕の鱗からナイフへ。肘から切っ先へと魔力が流れるのをイメージすれば、ナイフが微かに光った。


 ギャギャともギギとも付かない様な鳴き声を上げて、小鬼が木の棒を振り上げて襲って来る。

 うん。負ける要素はどこにも無さそう。

 基本スペックが高い性か、相手の動きが凄くゆっくりに見える。


 振り上げて振り下ろして、特に軌道とか何も考えて無さそうな木の棒を、左足を側面側に踏み込む事で避ける。

 目の前に来た棒を握った腕の肘の辺りを、ナイフで撫でるように切れば、バターを切る様に大した抵抗もなくゴトンと落ちた。


 そこで一旦小鬼から離れて様子を伺うと、腕を切り落とされたのが理解できないのか、ギャ? とか鳴きながら無くなった肘の先を何度も確認している。

 相手がこちらを忘れているのを良い事に、円を描く様に後方側に近寄って、斜め上から首を切り下ろす様にナイフで撫で切りにして、またさっと後ろに引く。

 一拍置いてから滑る様に落ちた首に、この武器に魔力を纏わせるのって反則的だなあ……って思う。


 ていうか、生き物を殺してしまったんですよ。

 いや、向こうから殺意を持って襲って来た訳だから、自衛のためには仕方が無いんだけど。

 そういう世界なんだから仕方が無い。そういう世界なんだから仕方が無い。

 うん。自己暗示。

 いやでも、思ったよりはダメージを受けていないと思う。

 切ったという感触が薄いからかもしれない。


 それとも小鬼がいかにも魔物魔物している外見だから? もっふもふの動物みたいな見た目だったら、倒せるかどうか分からないな……。


 でも、やっぱり殺す事には慣れないと思う。

 小鬼は明らかに自分より弱くて、割と思った通りに動けたというのはあるけど。

 例えばもっと強い相手だったらどうなんだろう?

 命が掛かったギリギリの状態に耐えられるのか?


 って訳だから、街に戻ったら魔法を習おう。後弓も買って練習しよう。

 なるべく接近して戦いたくない。


「小鬼の魔石は胸の辺りですぞ」

 首から血を流して転がっている小鬼を、見つめたまま黙り込んだ俺を心配する様に、一旦下りていたオスカーがまたするすると肩口まで登って来る。


「大体は魔力の巡る中心になる所に、魔石は出来ますんじゃよ」

 魔法を主体に戦ったりする頭の良い魔物何かは、頭に魔石が出来たりするらしい。

 反対に虫系の魔物何かだと、背中側に沿って幾つか体の大きさの割には小さ目の魔石があるらしい。


 霊銀のナイフを鞘に戻して、鉄の採取用に貰ったナイフを手に取る。

 俯せに倒れている小鬼をひっくり返して、喉元から肋骨の間を縦に切れ込みを入れる。

 直接手を突っ込む気になれなくて、ナイフの先でちょっと抉れば、あっさりと小指の爪の半分にも満たない、薄い色の魔石が出て来た。


 冒険者ギルドに提出する小鬼の討伐証明は、この小さな魔石で良いらしい。

 と言うよりも、小鬼は魔石以外使える部位が無いらしく、他の所を持って帰って貰っても、ゴミとして処理しなければならなくなるので困るらしい。


 なので小鬼の討伐報酬は、魔石代が込みになっている。

 魔石が銅貨五枚。討伐で銅貨五枚。合わせて半銀貨一枚。

 ちなみに魔石だけ購入して討伐報酬を手に入れようなんて言う輩が出て来るから、ギルドの依頼で取り扱った魔石に関しては特殊な薬品でなければ消せない印章が押されるらしい。

 ちなみに、小鬼なんかは素材がお金にならないけれども、放置すると繁殖して軍を出動させたりする必要が出て来るので、倒すと補助金が国から出るらしい。その分が討伐の銅貨五枚として上乗せされているという事だ。


 薬草も小鬼の討伐も、常設依頼として出されていて、事前に依頼を受注している必要は無い。

 成果物を報告窓口で提出すれば、ちゃんと依頼として報酬も出るし件数としてランクを上げる要件にカウントされる。


 しかし、小鬼一匹半銀貨一枚か。

 強い敵じゃないけど、銅級でコンスタントに稼ごうとするなら、群れを相手にするのはあまり宜しく無いだろう。

 一匹だけ逸れているのを見つけて、討伐して。それを生活していける目安の五匹以上と考えると、それなりに大変なんじゃなかろうか。

 薬草を採取しながら、小鬼を倒して。森まで往復二時間は歩いて。

 あまり美味しい仕事とは言えないなあ。


 街中で雑用をこなすのも、割と冒険者とは……? みたいな気分になるし。

 一度に沢山処理出来る様な種類の仕事でも無いし。


 銅級が稼ぐのって、結構大変なんじゃなかろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る