第12話 頑張って依頼を消化しているのですよ

 取り敢えず冒険者として、少なくとも鉄級までランクを上げなければ。

 鉄級にならなければ、部屋を借りる事も出来ない。

 そりゃあ余所者ですから、信用なんて無い。

 宿屋暮らしは、王都(ここ)が仮初の居場所なんだという気がして、どうにも落ち着かない。

 銅級から鉄級に昇格するには、冒険者ギルドで依頼を五十件以上こなす必要がある。それから一件以上の討伐依頼も。


 そんな訳で、冒険者ギルドに通って依頼をこなす毎日なのです。

 専ら街中で雑用ばかりだけどね。

 いやだって、武器を未だ持っていないから、外に出るのは危険じゃないですか。

 怖い訳じゃないよ。火竜の山から王都まで来た事ある訳だし。


「あら、デイライトちゃん。今日もお使いかい?」

 頑張ってて偉いわねー。

 通りを歩いていると、露店のおばちゃんが揚げ菓子を一つ、更紙の様なちょっと目の粗い紙で包んでくれる。

 小麦粉と卵の生地を油で揚げて、砂糖でまぶしたり、きな粉みたいなのでまぶしたり、蜂蜜を掛けたりして売っている。一個一個はそんなに大きくなくて、二口ぐらいで食べれてしまうお菓子だ。

 この前おばちゃんが可愛がっていた小鳥が逃げてしまって、それを見つける依頼を受けてからというもの、こうやってお菓子をくれるのだ。


 それはそうと、おばちゃん達の距離感が無さ過ぎる。

 何かすぐ物を食べさせようとするし、ちゃん付けで呼ぶし。

 俺は成人男性なんだけど……。

 まあ、こっちの人って筋肉もりもりで大柄な人が多いから、それと比べるとどうしても見劣りしてしまうのは仕方が無いんだ……。


「いや、今日は作って貰ってた武器が出来上がる筈だから、王都の外に出て採取依頼でもやろうかなーって」

 受け取ったお菓子は半分に割って、半分は口に入れる。残りの半分は鞄に仕舞う。後でオスカー達にもお裾分けしよう。

 うん。砂糖はまぶしてないけど、生地自体に黒糖の味がして素朴て美味しい。


「そうかい。王都の近くならそれ程危険じゃないと思うけど、それでも魔物が出る事もあるから、気を付けて行くんだよ」


「はーい。ありがとねー」

 おばちゃんには手を振って別れて、エイデンさんの店に向かって歩く。


 銅級の仕事が大体一件半銀貨二枚から三枚ぐらいで、一日二件こなせば大体宿代と食事代に使ってもちょっと残る。

 街の中だけのお使いでも、案外仕事は有るし、武器も特別な道具も必要無いから、生活するだけならこれでも全然出来る。


 でも宿暮らしは落ち着かない。気に入った小物だとか、家具だとか食器だとか。そういった物を集めて暮らしたい。

 なのでもうちょっと頑張らないと。




「おはようございまーす」

 今日も精霊さんは大歓迎しているっぽい。入り口からそんな気配がしている。

 姿が見えないのは、現れたり消えたりの切り替えが出来るって事なのかな。


 図々しくも一週間(六日)経ったので、ナイフを受け取りに来ましたよ。

 折角作ってくれると言うのに、そのまま放置するのは流石に悪いしね。


「おう、いらっしゃい。出来てるぜ」

 精霊が教えたのか、今日は呼ぶ前から店主のおっちゃんが店に出ていた。

 前回貰ったナイフより手の幅分ぐらいだけ長いナイフを、すっとカウンターの上に出して来る。


「霊銀(ミスリル)製のナイフだ。硬度的には普通の銀より気持ち硬い程度だから、使い方には気を付けてくれ。大体鉄製の武器と同じぐらいだと思って良い。あんたは魔力の扱いが出来るみたいだから、霊銀にしたんだ。魔力を纏わせれば、固い物でも切れる筈だ」

 この前の鉄製のナイフが有るから、こっちはちょっとした戦闘でも使えるように、心持ち長めに作ってみた。とエイデンさんは更に、この前貰ったベルトに下げれる様に斜め三角になった剣帯もおまけでくれた。

 右利きなので左側に霊銀製のナイフ。右の腰の背中側に鉄製のナイフと装備して、見た目だけなら割と冒険者してる様な気がする。


 まあノー防具なんですけど。

 なんせ街の外に出ていなかったので。それに、自前の鱗を超える防具って幾らするのか分からない……。そんな怖い買い物したくない。

 とは言え、何も防具を付けずに外に出るのも、門の所で何か言われそうだから、適当な革装備でも見繕ってから出掛けよう。


 そんな訳で、エイデンさんにお礼を言って、ついでに防具屋を紹介して貰って、革の胸当てと脛当てを購入する。銀貨三枚と半銀貨五枚なり。

 当たり前だけど、全部手作りだから何の変哲もない防具でも良い値段がする。




 薬草採取程度安全に出来るって言ったな。

 そんな訳無かった。嘘でした。

 いや、別に現在危機にとかそんな訳ではないけど。

 まず、遠い。薬草がそれなりに生えている場所とか、まあ森の中なんだけど、大体王都の門を出てから一時間ぐらい掛かる。

 何かあっても走って逃げるにはちょっと遠過ぎない?

 近い所なんて、そりゃ小遣い稼ぎとばかりに採り尽くされるに決まってるけど。

 てな訳でてくてく歩いて辿り着いた森は、それでも人の手は入っているのか、間伐が程々にされていて、森としては割りと明るめだった。

 でもまあ、銅級くらいしか来ないから、人の気配はしなかった。

 つまり、助けを求めても誰も来ない。

 眷族が居るから俺は助けを呼ぶ事も無いんだけど。


「薬草採取ですよ」

 既に王都に移動する道中で、ララに習いながら採取しているから、どれが回服薬に使う薬草かは良く分かっている。

 道中で採取した薬草は、取り敢えず見付けたら根っこを残してポキッと折り採っていた。後は根元を括ってぶら下げて乾燥させていた。

 でも今回は依頼なので、先ず葉は五枚以上有るもので、新鮮なものが良いらしい。茎を地面から掌分くらい残して採ると、再び採取出来るまでに育つ期間が短くて済むから、根元を残してナイフで刈り取る。

 刈り取ったら、エドワードに作って貰ったバケツっぽい容器に切り口を下にして入れる。底十センチぐらいに水が張ってあるのだ。

 重さは苦にならないし、状態の良い物を持って行くと、ギルドの受付の人の心証が良くなるっぽいのだ。


 薬草は十本で大体半銀貨一枚。つまり一本銅貨一枚。大体なのは納品するものの状態に寄って、結構金額が変わるからだ。

 薬草採取は子供でも出来るぐらい、技術も要らないしどこにでも生えている。

 但し、これで生活して行こうと思ったら、一時間で十本前後採り続けて五時間と、森まで往復で二時間。それで街で暮らしている人と同じぐらいの日銭になる。

 つまり大体の冒険者は、労力の割に実入りが少ないから割に合わないと思っている。


 俺の場合は眷属達が手伝ってくれるから、一時間もしない内に一日分集まってしまうけれど。


「お昼ご飯食べようか」

 何本採取したかまだ数えていないけれど、バケツ(仮)も程良く一杯になっているし、ここらで休憩しても良いだろう。


 往きに歩いて来たのは、大体の時間を測るためだ。走った方が早いけど、早過ぎておかしい速度だという事は分かっている。

 だから歩いた場合に掛かる時間を予め測っておかないと、その事で話をした時に、食い違ってしまうからだ。


 倒木が出来て少し風通しが良くなった空き地を見つけて、倒木に腰を下ろす。


 ピタみたいな薄く焼いたパンの中に、焼いた固まり肉を削ぎ切りにして詰めた物。葉野菜と玉ねぎみたいなののスライスが入って、甘辛いソースが掛けてある物。

 大きな植物の葉で、ちまきみたいに蒸した穀物とか茸とか野菜を握って包んだ物。

 ちょっと小ぶりで皮が厚めの柑橘系の実。

 それから、露店のおばちゃんがくれた揚げ菓子が美味しかったから、きな粉のと蜂蜜が練り込んであるの。

 露店で買っておいたそれらを取り出して、ついでに小さな片手鍋も取り出す。


 片手鍋にゾーイにお願いして水を出して貰ってから、仕方ないなーなんて溜息でも付きそうな顔をしているオスカーの背中に乗っける。


「オスカー、お願い」

 頼めば、あっという間に鍋の中の水が沸騰する。

 別に背中に乗せる必要は無いらしいんだけど、つい接触面積が広い方が良いような気がしてやり出したら、癖になってしまっただけだ。


 口がさっぱりする薬草茶の一回分ずつ丸めて固めた物を鍋に入れ、葉が開くまでしばらく待つ。

 鞄から取り出した、ちょっと広口のお椀みたいな器に、お茶を注ぎ分けてそれぞれの目の前に置いてやる。


「よし、じゃあいただきます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る