第9話 依頼を受けよう
おはようございます、デイライトです。
爽やかな目覚めです。
念願のベッド。快適な寝心地……と言う訳では無く。
当たり前だけど、マットレスなんて無かった。
藁を押し固めたブロックを幾つか並べた上にシーツが掛かっているだけでした。
藁がね……チクチクするんだよ。
竜さんなのに藁に負ける肌……。謎だ。本当にどうなっているんだろうね?
その内綿か羊毛みたいな物が入った敷布団を作ろうと思います。
まあ、そんな訳でチクチクするので、道中使っていた毛皮をゾーイに洗って貰って敷きました。
なので結果的には爽やかな目覚めと言う訳なのです。
「みんなおはようー」
挨拶をしながらもぞもぞとベッドから降りて、洗面台で顔を洗ったり歯を磨いたりする。
着替えて一階に下りると、奥のテーブルが幾つか並んだ部屋に案内されて、ちょっと固めのパンと野菜とベーコンを煮込んだスープを出される。
麦が入っていて、ちょっとプチプチした食感が面白い。
今日やらないといけない事は、南門まで行って仮証の返却と保証金の払い戻し。それからギルドに行って依頼を受けて、なるべく早目にギルドランクを上げる様に頑張る。
門に行くのを先にするのが良いのか、ギルドで依頼を受けてから門に行くのが良いのか。
移動が徒歩だからそこそこ時間が掛かる訳で、どちらに先に向かうのが無駄が無いのか。
「ギルドの依頼が街中だけで済むなら門に行った方が良いし、街の外に出掛ける用事ならギルドからの方が良いし」
結局は不確定のギルドの依頼に左右されると言う事で。
「そう言う時は、やらなければならない順番に処理するのが良い筈」
と言う訳で、南門に向かっています。
宿屋の有る辺りは、それでも割と城壁寄りなので、ギルドに行ってから向かうよりは近いんだけど。
幸い距離を歩いても疲れにくい身体になったから、肩にオスカーとララを乗せて通り沿いの店は何が有るか確認しつつ進む。
「おはようございます。仮証の返却に来ましたー」
ジョンさんに言った方が早いかもと思って、門の所の兵士さん達を確認したら、もう既に入都審査に付いていたので、適当にフリーそうな人に声を掛けた。
「はーい。じゃあ、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
ジョンさんに比べたら大分若い、背の高い爽やかな感じの兵士さんに呼ばれて、示されて椅子に腰を掛ける。
「じゃあ、仮証の返却と身分証を見せて貰っても良いかな?」
奥から薄い木の板を表紙にして綴じ直された受付簿を持って来ると、頁を捲りながらそう言って来る。
「ん。番号良し。身分証と受付時の情報の整合性も良し。はい、問題なしですよ」
仮証とギルドカードを手渡せば、指差し確認をしてにこりと兵士さんは笑った。
「後は保証金の返却かな。受付手数料が半銀貨一枚必要だから、戻しは銀貨四枚と半銀貨九枚だね」
「ありがとうございます」
テーブルの上に乗せられた硬貨を回収して礼を言う。
「あ、そうだ。ジョンさんがさ、君の事気にしてたみたいだから、ちゃんと冒険者ギルドで登録出来たみたいですよって伝えておくね。良かったらまた声を掛けてあげてね」
小さい子が一人で田舎から出て来たみたいだって、心配してたんだよ。と教えてくれる。
そんなに心配されないといけない程小さいつもりはないんだけど。
「はーい。何度も門を通る事になると思うんで、その時はよろしくお願いします」
兵士のお兄さんも良い人そうだなあと思いながら、手を振って門を後にした。
朝食は食べたけど門まで歩いたしで、途中屋台の匂いの誘惑に負けて、肉の焼き串を買ってしまった。
軽く塩胡椒を振っただけだというのに、焼き立てと言うのもあってとても美味しかった。
でもオスカーは良いとして、ララが焼き串を突いているのって、割とおぉうって感じだ。鳥は果物とか木の実を食べるって思ってしまうからだろうか。
「受けれるのは自分の級までの依頼だから、銅級のしか受けれないんだけど、どれを受けるのが良いんだろうね」
張り出されている依頼の文字は、見覚えが無いというのに何故か読めた。
銅級は見習い扱いなので、王都近辺で出来る簡単な採取や、王都内で出来る簡単な雑用、それから成人であれば特別なスキルが無くても倒せる程度の簡単な討伐などが依頼として出ているらしい。
なるべく戦いたくないと思うのは、自分には生き物を殺す覚悟が足りないと思うからだ。
でも、もしいざという時になったら? 戦えないと殺されるつもりも無いのだ。自分がどれだけ出来るのかは、把握しておく必要があるのではないだろうか。
「今日は初日だし、無理せずに街中の依頼にしておこうかな」
昨日王都に来たばかりで、どこに何があるのかも分からないし、ちゃんとした知り合いも居ないのだ。
「これとか、良いと思うんだよね」
足を痛めた従業員の代わりに食料品店の配達。十件程度。増える場合はその都度相談。一件に付き銅貨三枚。そう書かれた依頼票を掲示板から剥がす。
土地勘の無い場所での配達とか、決して割の良い仕事とは思えないけれど、自分では通らない場所をへ行く事を期待する。
受付にギルドカードと共に依頼票を出して、依頼の受注処理をして貰う。
「あら、あなた見ない顔ね」
時間帯で替わるからなのか、昨日の登録時には居なかった若い女性の職員が、そう言ってカードに目を走らせる。
「昨日から登録したのね。……はい、受け付けました。期限内に達成できなかった場合は罰金などのペナルティが課せられるので気を付けてね。……このお店の人はちゃんとした人だから、依頼もそれ程難しい事を言われないと思うわ」
ギルドカードを魔道具に乗せて何やら処理をして、依頼人の場所を簡単な地図を広げて教えてくれる。
「あまり割の良い依頼じゃないから、中々受け手が居なくて困っていたの。受けてくれてありがとう」
初依頼頑張ってね。と笑顔で送り出される。
「何かすっごいあの店から、歓迎されてる感じがする」
依頼を受けた食料品店に向かう途中で、理由は分からないのに凄く引かれる鍛冶屋がある。金床にハンマーと言うごく普通の看板が軒に下げられていて、店構えも周りの店と違っている様には見えないのに。
「精霊が呼んでいますなあ」
火の精霊ですな。と肩口のオスカーが教えてくれた。
「何だろうね?」
精霊の知り合いはまだ居ない筈なんだけどな。と思いながらも、呼んでいるならと店に近付く。
「そういや、武器はともかくナイフの一本ぐらいは持っておかないと駄目だよね」
店の中は客も店員も居なくて、入って良いのだろうかと躊躇われる。
何のために呼ばれたのか分からないけれど、呼ばれたのは確からしいので出て行く訳にもいかない。
そんな訳で手持無沙汰を感じつつ、展示されている武器を眺めて回る。
「あのねー、僕のお薦めはそこの奴だよ」
足元にしゅるりと現れたエドワードが、こそこそっと囁いて来る。
「鉄のナイフだけど、丁寧に鍛えてあるから、使いやすいと思うよ」
「あっ、他の人に見られたらどうするんだよ……」
さっと掬い上げて、中身を宿に置いて来た革鞄にエドワードを押し込む。
「デイライト様は心配性だなあ。大丈夫、見間違いとか勝手に思ってくれるよ」
鼻先をちょろっと革鞄の隙間から覗かせながら、お気楽な言葉が返って来る。
「ふむふむ……。ははあ。うーむ、わしの一存では何とも」
肩口でうむうむと唸っていたオスカーが、つと顔を上げる。
「デイライト様。どうやらこの店の主と契約している精霊が、力を分けて欲しいらしいのですじゃ」
「力を分けるって言っても、やり方分からないよ?」
「それは、こうぐぐっと手で包んだ中に力を込めると言うか。鱗を出すみたいに、力をそこに寄せれば良いのですじゃ」
どうやら力を分けて欲しくて精霊が呼んでいたらしく、俺は姿も見えないのでオスカーに交渉していたらしい。
「それだけでいいなら、別にやっても良いけど。契約主に勝手にやっても良いものなの?」
勝手に力を分けて、今までやっていた事の勝手が変わったりしたら、言葉も通じなかったりしたら困ると思うんだけど。
「ですなあ。デイライト様、店主を呼んでくださらんかのう」
「うん」
「何だ」
店舗の奥の扉に向かってすみませーんと呼び掛ければ、しばらくして如何にもと言う風体の、ずんぐりむっくりとした不愛想な男が現れた。
髭は長くないんだなあなどと思いながら、ぺこりと頭を下げてこんにちはと挨拶をする。
「えっと、俺も詳しく分からないんですけど。こちらで契約している精霊に、力を分けて欲しいって呼ばれたので来ました。分けても大丈夫ですか?」
分けたらどうなるか分からないんですけど。と言っている自分が既に怪しいと思いつつ、それ以外に言い様がないのでそのまま伝える。
「よく分からんが、精霊が分けて欲しいと言っているんだな?」
「はい。何かそんな感じです」
頷いて、そんな感じがするのだと答える。
「分かった。精霊の好きにしてやってくれ」
少し考えてから、店主はそう答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます