第5話 ポーションマスターに俺はなる!

 質問:王都に着いたら何がしたいですか?


 回答:お風呂に入ってさっぱりして、ふかふかの布団で寝たい。


 じゃなくて。

 いや、勿論短期的な希望としては間違っていないんだけど。

 これから先どうしたいかという事なんですよ、問題は。


「冒険者になって、富と名誉を手に入れるとかー」

「国軍に志願して、手柄を立ててゆくゆくは騎士爵を授与されるとかー」

「商人として大儲けするとか?」


 王都に行くことがゴールじゃなくて、そこから何をしたいか、何をして生活していくかなのです。


「平凡で良いです、平凡で」

 戦うのとか怖いし、商才も多分持ってない。

 冒険はお話の中だからワクワクするんであって、自分でやったら心労で禿げ上がるよ! ふさふさだけど。


「夢が無いですのう」

「大陸を二分(物理)してやるぜとかぐらい、言えばいいのにー」

 眷属が過激派です、助けて!

 多分やろうと思えば出来るんだろうなー……。絶対に思ったりしないけど、口に出したら実現されそうだから、冗談でも言わない。


「美味しい物食べて、居心地の良い家に住んで、たまーに皆で出掛けたりとか出来ればそれでいいよ」


 後、ほんとお風呂に入りたい。

 ゾーイに水を出して貰って顔や手足は小まめに洗っているし、途中耐え切れなくなって二度ほど丸洗いからの乾燥してもらうという事をやったけど、もうお湯に浸かりたい。


「そう言えば、王都に着いたとして簡単に中に入れるの?」

 着けば何とかなる的な感じで目指してるんだけど。


「身分証の確認をされるはずですわ」

「無くても犯罪歴が有るかどうかを調べて、お金をちょっと渡せば入れる筈ですわ」

 お金が無かったら現物でも確か大丈夫ですよ。


「そっか。じゃあ王都に着いたら先ず身分証を手に入れた方が良いのかな?」

 住民権とかどうなっているんだろう?


「あまり細かい事になると、わしらには分かりませんのう」

 オスカーが申し訳なさそうに言うけれど、妖精だから仕方ないよね。


「取り敢えず、王都に行って、身分証を手に入れて、最初は宿屋に泊まるなりしつつ、部屋を借りるなり家を買うなりして生活を確立するって事を目指そう」

 って事で最初に戻る訳ですよ。王都に着いたら何がしたい? って。

 全部自給自足とか無理だしやりたくないので、暮らしていこうと思ったらお金が要るのです。

 お金を稼ぐために、何をしよう。


「戦わないで済むのが良いなー」

 戦うのは最終手段にしたい。竜だから岩を割っちゃう位強いけど、血とか内臓とか苦手です。貧血起こすに決まっている。


「商売も、そもそもこっちの人に何が売れるか分からないから、成功するとは思えないし、仕入れの伝手も無いから新規参入は厳しそう……」


「製造もなあ……」

 現代知識(記憶喪失だけど)さんが活躍する余地はあるのだろうか。


 でもでもだってみたいで、何かダメな流れ……。


「助けてっ! ……って言っても、君らに何かしてって言うんじゃなくて、何かこう良さそうな仕事は無いか一緒に考えてって意味で」

 頼ってばっかりで申し訳無いけど、頼り過ぎないように気を付けるから。

 気を付けるけれど、この世界の知識が自分には足りないから。


「戦わずに済んで、商人じゃなくて、職人でもない……。難しいですのう」

「農業とか畜産業とかは、人手が要るしそもそも王都を出てってなるからねー」

「給仕や店員などの雇われ仕事では、銅級冒険者よりも稼げませんわ」

「私たちが魔物を倒して来て、その魔石とかを売るって言うのは駄目なんですの?」

 妖精たちが顔を突き合わせて相談している。


「ダメです」

 そんな搾取してるみたいなの、落ち着かないからダメ。


「デイライト様、めんどくさいー!」

 エドワードが飛び跳ねながらぶーぶー言う。


「デイライト様が程々に働いて、それなりに余裕のある暮らしが出来る仕事……。あれとかどうじゃろう? 水のがちょちょっと手助けすれば、何とかならんかのう?」

「素材とか集めるのは、お手伝いの範疇って事にしちゃえば!」

「それでしたら、私もお手伝いする事が出来ますわ」

「主を働かせるなんて、眷属としては遺憾ですけど、デイライト様がそうしたいと言われるなら仕方がありませんわね」

 話し合いは纏まった様です。仲良いね、君達。


「と言う事で、回復薬を売りましょう」

 一つ、回復薬の調合は魔力を使う事。

 一つ、多少の失敗はゾーイが調整出来る事。

 一つ、植物系の素材はララが育成出来る事。


「火加減ならわしも手伝い出来ますじゃ」

 うちの眷属は過保護です。もっと自立を促しても良いと思う。


「資金に余裕はあるから、やってみてダメだったら他の方法考えればいっか」

 そう贅沢をしなければ、一年程度は暮らせる筈だし、それでもダメだったら塒の洞窟に魔石を取りに戻ったって良いのだ。

 それに、新しい事を始めるのに、ちょっとわくわくしたのもある。

 剣と魔法は見る分には良いけど、実際に誰かや何かを傷付けるために使うには、ちょっと怖い。



「では、この辺りに自生する薬草の種類など調べながら行きますかのう」


「種も採取して行きましょう。種があれば薬草を栽培する事が出来ますわ」

 適した採取の仕方もそれぞれあるから、覚えた方が良いとララが肩に停まって囀る。


「そう言えばさー、路肩は結構草が生い茂ってるのに、道には生えて来てないよね」

 交通量の多い道なら、馬車とか人が踏み固めるから生えて来ないのも分かるけど。この道は道沿いに歩き出してから、未だに誰ともすれ違わないし、かなりの速度で歩いているにも関わらず、前を歩く人影も見えない。


「街道の脇に定期的に、そうじゃのう大体人の足で鐘一つ分程歩いた距離毎に、草の生えていない空き地がありましたじゃろ?」

 野営した場所と同じ様な場所は、どうやら態々作られた場所らしい。


 鐘一つとは、日の出、真ん中、正午、真ん中、日の入り、真ん中、深夜、そして打たない真ん中と来てまた日の出と時間を知らせる鐘を打つ事から、大体三時間を指すらしい。(一日は二十四時間、一月は三十日、一年は十二か月と元の世界と似通っているらしい)


「あの空き地に、魔物避けと街道保持の魔法が込められた、杭が打ってあるんですじゃ」

 街道をちゃんとした状態で保つ事は、国を治める者土地を治める者の、大事な責務らしい。


「整備を怠ったら、あっという間に道は消えるし、そのままにすれば魔物の棲む森の出来上がりってなっちゃうからねー」

 魔物の生息地域を押し遣り、人族の住む領域を広げるためには欠かせない役割を果たしているらしい。


 草に呑まれ、魔物に呑まれすれば、村や町や都市さえも分断されてしまうだろう。

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