第41話 裁く者、裁かれる者⑥
オルトの言葉を受けて、証人が入室してくる。年齢性別は様々であり、数は六人である。
(誰だ?こいつら……?)
アルトニヌスはこころの中で首を傾げる。皇城で働く者のすべての名を覚えているわけではないのだが、それでも皇城で働く者の顔ぐらいは認識できるというものだ。
しかし、この証人として現れた者達をアルトニヌスはまったく知らないのだ。
「さて、それでは証人は名を名乗っていただこう」
検察役の家臣が証人達に告げると証人達は一列に並んでザルブベイル一家から見て右側から名乗り始めた。
「ジェスターと申します」
「ウェンディと言います」
「ジィードです」
「ウェルゲンです」
「アンネです」
「キューグルと申します」
六人は淡々と名乗る。この辺りの展開はまったく淀みなく進んでいた。六人が名乗ると検察は手で着席を促した。
「それでは被告人が我々ザルブベイルの虐殺に関わっているという事は確かかな?」
検察が優しく証人達に問いかけると六人は一斉に頷いた。
「間違いないです」
「
「出来るだけ苦しめて殺せと命じていました」
「殺せと命じました」
「特にザルブベイル侯爵家は苦しめて殺せと」
「家臣達も家族も容赦無く殺せと申しておりました」
証人達の証言を聞きアルトニヌスは狼狽した。確かに見せしめにせよという指示は出したが、侯爵家の者達を苦しめて殺せなどと命令した覚えは無い。それとなく匂わせたが明言した覚えは一切ない。
「巫山戯るな!! 余はそのような事を明言した覚えなどない!!」
アルトニヌスの激昂が法廷内に響き渡ったが、ザルブベイル一党はアルトニヌスの激昂を完全に無視した。
「なんという事だ。アルトニヌスはなぜそこまでザルブベイルを目の敵にしたのですか?」
検察がただ棒読みで証人達に問いかけた。
「そうですな。オルト様の領地経営の手腕が妬ましいと常日頃から申しておりました。それが原因で間違いないでしょう」
ジェスターの口調は抑揚が一切なくまるであらかじめ書かれた事を思い出しながら発言しているような印象であった。
「巫山戯るな!! 余はそのような事を発言したことなど一度もない!!」
アルトニヌスはまたも激昂するがザルブベイル達は当然のごとく無視する。
「つまりザルブベイルが帝都よりも栄えていたためにアルトニヌスはそのような愚かな事を行なったというわけですな」
検察はうんうんと頷きながら自論を展開していく。
「弁護人は何か反論する事はあるかな?」
「これだけ信憑性のある証言が出てきている以上、何も申し上げる事は出来ません」
「巫山戯るな!! 巫山戯るな!! このような証言などまったく信憑性はないだろうが!! この者たちの証言はいつどこで聞いたのだ!!」
茶番ともいうべきやりとりにアルトニヌスの激昂は一切衰える事はない。それを見て法廷内にいるザルブベイル関係者達の中から笑い声が発せられ始めた、
「な……」
法廷内で起こった笑い声にアルトニヌスは呆然とした。
「アルトニヌス、これは茶番なのだが、そこまで笑わせなくとも良いではないか」
オルトも笑いをこらえながら言い放った。アルトニヌスは思考が追いつかないのか惚けた表情のまま固まった。
「当然だが、この六人はザルブベイルの家臣達だ」
「え?」
「証言自体は完全に捏造したものだがこの捏造した証言を証拠として我らは採用するつもりだ」
オルトはニヤリと嗤う。溜まりに溜まった鬱憤が晴れる時にこのような表情をするのだろう。アルトニヌスは呆然として周囲に視線を動かすとオルト同様の晴れ晴れとした表情が見て取れた。
「あ、あ……」
アルトニヌスは自分が遊ばれていた事にようやく気付いた。そして同時に絶望が彼の心を覆い尽くしていく。
「いい顔だな。アルトニヌス」
オルトが楽しそうに言う。
「お前のその顔が見たくて我々はこのような茶番を演じていたのだよ。元々お前の死刑は決まっている。それに気づかないでお前は助かるために色々と頑張っていたな」
オルトの言葉はアルトニヌスの心を抉りに抉った。
「もともとお前達を誰一人として生かしておくつもりはないと何度も言っておいたが人は自分に都合良く解釈してくれるものだ」
オルトがそう言ったところでエルザピアも口を開く。
「ご安心ください。ご家族もご一緒に死刑にしてあげます。そのあとは永遠にアンデッドとして我々の奴隷、いえ家畜にしてあげます」
「すでにエトラ、シュクルはアンデッド化しておりますのですぐにお前もアンデッド化してやろう」
ザルブベイル夫婦の言葉にアルトニヌスは顔を青くしているが何も答える事は出来ないようであった。
「ああ、もちろん皇族としての責任からのがれるような事をしなかったエトラ、シュクルにはそれなりの対応をしてやろう。だが、お前達にはそのような配慮など期待するなよ」
クルムがそこで口を挟むと全員が納得とばかりに頷いた。
「巫山戯るな!! ザルブベイル!! 貴様らは正義を!!公平公正を忘れたか!!」
アルトニヌスの言葉にオルトは冷笑を浮かべると鋭く言い放った。
「我らがそのようなものにこだわっていたからこそ我らは地獄を見ることになった。そしてその報復を貴様らが受けることになった。それだけのことだ」
オルトの言葉にアルトニヌスは沈黙する。いや、言葉によって沈黙したのではなく憎悪の念に体の奥底から震えが止まらなくなり、それにより言葉を発することができなくなったのだ。
「それでは判決を言いわたす」
オルトは冷たい声で告げる。
「アルトニヌス貴様には我らの怒り全てを請け負ってもらう」
「え?」
「貴様は一ヶ月の拷問を受けた後に両手両足を砕きザルブベイル領へと連行しそこで火刑とする」
オルトの言葉にアルトニヌスはヘナヘナと座り込んだ。もはや反論するだけの精神力は残っていないのだろう。
「なお、
オルトの言葉にザルブベイルの面々は納得したように頷いた。
「これにて閉廷する!!」
オルトの宣言によりすべての裁判が終了した。
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