第28話 落城①

「それではとどめを刺すとしようか」


 オルトの言葉にザルブベイル一党は静かに頷く。ザルブベイル一党の表情には“ついにこの時が来た”という感情が浮かんでいた。


「皆の者、それではやるとしよう。まずは皇帝であるアルトニヌス、イリヌ皇妃、アリューリス側妃、エトラ第二皇子、シュクル第三皇子の御人を最優先で捕らえろ。他の皇城の者達はゆっくりと始末しろ」


 オルトの言葉にザルブベイル一党は頷くと皇城の方を見やった。すでにバーリング軍の死体はアンデッドとなり後ろに下げられており皇城の包囲に加わっていたため皇城側とザルブベイル一党との間にはもはや何もない。


「……」


 オルトは皇城に目を向けると静かに目を閉じる。それは力をため込む仕草であり、ザルブベイル一党は当主であるオルトの命令を静かに待つ。

 オルトの目が開かれると、オルトは簡潔に命令を下した。その簡潔な命令とはたった一言であった。


「殺せ!!」


 オルトの簡潔極まる命令にザルブベイル一党は一斉に駆け出した。クルム、エミリアは正門へ直接向かい、家臣達は三手に別れた。

 一つはクルム、エミリアに続き、後の二つは城壁を昇り上にいる兵士達を蹴散らすルートであった。


「ひぃ来たぁ!!」

「矢を放てぇぇぇぇ!!」

「ひぃぃぃぃ!!」


 城壁の上の兵士達から悲鳴混じりの雄叫びが上がった。ついに来るべき時が来たと言う感じだったのだ。


 兵士達は一斉に矢を放った。バーリング軍が蹂躙されている間に休息をとった兵士達は体力を回復させることに成功していたのだ。だが、外から聞こえてくるバーリング軍の絶叫は兵士達の精神をこの上なく痛めつけていたのだ。


 城壁を昇ることを選択した家臣達は瘴気で槍を形成すると一斉に城壁に投擲した。投げられた槍が城壁に突き刺さると、家臣達はその槍に手をかけ次々と城壁を昇ってきた。


「うわぁぁぁぁ!!」

「昇らせるなぁぁぁぁ!!」


 指揮官達の命令の声も悲鳴とほぼ区別がつかない。あまりにも常識外れの攻城戦となりもはや対処不能であったのだ。


 そしてついに……


 ザルブベイルの家臣の一人が城壁の上に到着した。


「相手はたった一人だ!! しかもガキだ!! やれぇぇぇぇ!!」


 指揮官が兵士達に命令を降すと兵士達は弓を捨て腰に差した剣を抜き放った。最初に昇ったザルブベイルの家臣は十代前半の少年であった。少年は兵士達の殺気の籠もる視線を受けてニヤリと嗤った。


「見かけで判断するなよ。クズ共が!!」


 少年はそう言うと瘴気で斧槍ハルバートを形成すると兵士達の中に躍り込んだ。少年の斧槍ハルバートがうなりを上げて兵士達を襲う。


「ひぃ!!」

「そんな……」


 すぐさま兵士達の口から悲鳴が発せられた。少年の斧槍ハルバートはたった一振りで兵士を薙ぎ払ったのだ。少年の斧槍ハルバートにより両断された兵士達が転がった。


「はははははは!! 死ねぇぇぇぇ!!」


 少年は喜々として斧槍ハルバートをふるいその度に兵士達が転がった。少年が斧槍ハルバートという凶悪な武器をふるっている間に次々とザルブベイルの家臣達が城壁に昇ってきた。


「なんだリック。もう始めてたのか」

「義兄さん達が遅いから始めちゃったよ」

「ぎゃあああああああ!!」

「すまんすまん」


 青年の言葉にリックと呼ばれた最初に昇った少年が軽口を叩く。会話は穏やかだがその行為は残虐そのものである。何しろリックは足を両断した兵士の頭部に斧槍ハルバートを容赦なく振り下ろしているところだったからだ。


「ぐわぁぁぁぁぁ!!」

「あなた、リック、遊んでいる場合じゃないでしょ。侯爵様の言いつけを忘れちゃ駄目じゃない」

「ひぃぃぃ助けてくれぇぇぇぇ!!」


 そこに十七~八程の少女がリックと青年をたしなめる。少女の言葉に二人はややバツが悪そうな表情を浮かべた。まるで母親に叱られた幼子のような仕草である。


「なんだ、フィルクスはエリーの尻に敷かれてるのか」

「お願いだ!! 殺さないでくれぇぇぇぇ!!」

「いや、エリーはしっかり者だからな。フィルクスは尻に敷かれるぐらいがちょうど良いだろ」

「もう!! おじさん達なんか知らない!!」

「ははは、すまんすまん」

「ぎゃああああああああ!!」


 そこにザルブベイルの家臣が少年達をからかう。そこには敵意はなく大変穏やかなやり取りである。しかし、所々に兵士達の絶叫が発せられており、穏やかなやりとりをしているザルブベイルの家臣達はそれぞれの武器をふるい兵士達を虐殺し続けているのである。

 エリーとよばれた少女もまた背を向けて逃げる兵士の後ろから容赦なく戦槌を振り下ろし頭部を粉砕していた。


 ザルブベイルの者達は一方的に兵士達を蹂躙していたのだ。反対側から駆け上った家臣達も同様に兵士達を蹂躙していた。城壁の上でザルブベイルという憎悪の塊が死を撒き散らしていたのだ。


 一方で正門に到着したエミリアは正門前に放置され苦痛に喘いでいるリネアとレオンの頭部をむんずと掴んだ。


「助けてくださいぃぃぃ!!」

「もう許してぇぇぇぇぇ!!」


 レオンとリネアが慈悲を乞うがエミリアはまったく心を動かされる事なく正門に二人を叩きつける。


 ドゴォォォォォォ!! ドゴォォォォォ!!


 凄まじい轟音が発せられ、リネアとレオンの体が砕け散った。しかし、すぐに瘴気がアメーバーのように伸びて砕け散った体同士を繋げるとリネアとレオンの体は再生した。

 

「あ、ああ……」

「そ、そんな……」


 再び活動を開始した二人は自分の置かれている状況を把握し呆然としていたが、すぐに頭を抱えて蹲った。自分が完全に人ならざる者となっていることを思い知らされたのだ。


「まったく、頭が軽いから正門を破れなかったわね」

「はい、しかし、このような者共を使わずとも私達に任せていただければ」

「そうね。最初からこのようなクズを使うのではなく貴方達を頼るべきだったわ」


 アミスの言葉にエミリアはため息をつきながら言う。


「アミス、お願いできる?」


 エミリアの言葉にアミスは嬉しそうに微笑むと瘴気で戦槌を形成すると正門に向かって叩きつける。


 バギィ!!


 アミスの戦槌の一撃で正門に穴が開いた。アミスが戦槌を引き抜いた時に正門の向こうに兵士達がいた。

 その表情は殺される事を覚悟した者の悲痛な表情であった。


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