第27話 皇城攻防戦⑨

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

「うるさい……」


 絶叫を放つ幕僚の腕で無造作に幕僚の顔面を殴りつけると幕僚の頭部が砕け散りその破片が周辺にばらまかれた。


「あらあら……旦那様ったらそんなにはやく壊したらもったいないですよ」


 エルザピアも逃げ出した幕僚の一人を捕まえると両腕、両足を一本ずつもいでゆく。


「ぎゃあああああ!! 止めてくれぇぇぇぇ!!」


 少しずつ手足をもがれていく幕僚は絶叫を放った。四肢をもいだエルザピアはしばらくその様子を眺めてにっこりと微笑むと幕僚の顔面を鷲づかみにすると城壁に投げつけた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 城壁に投げつけられた幕僚はそのまま凄まじい速度で城壁に直撃し壁に紅い彩りを描き出していた。


「しっかり見ていろ。バーリング、お前の好きな虐殺だ」


 クルムがバーリングの顔を細心の注意殺さないようにをして蹴りつける。ただ、殺さないように手加減をしているがそれは優しく蹴ったというわけではない。実際にバーリングの口から血と歯が数本飛び散ったのだ。


「お前の家族もとっくに死んでいるから後の事を気にする必要はないぞ」


 クルムの言葉にバーリングは呆然としてクルムを見やった。その視線を受けてクルムは呆れた様に言葉を続ける。


「なんだ? ひょっとしてお前は自分の家族がまだ生きていると本気で思っていたのか?」

「我らがお前達のために役に立てば……領を蹂躙しないと……」

「ああ、我ら・・は確かにな」

「どういうことだ?」

「他領を制圧しているのは甦ったザルブベイルの領民達だ。お前達の行った蛮行の被害者達だからな。それこそ容赦なくこの国の者達を殺してくれることだろうさ」

「貴様ぁぁぁぁ!!」


 バーリングの激高にクルムは涼しげな顔を浮かべている。


「いやいや、領民のみんなには我々の指示が未だに届かないのだ。この帝都にいてくれれば止める事が出来たのだが不幸な事故だな」


 クルムの言葉にはまったくバーリングへの配慮というものはない。むしろバーリングを精神的に嬲ることが出来て嬉しくて仕方がないという様子だ。


「お前の娘は確か赤ん坊を生んだばかりだったな。初孫は可愛かっただろうな」

「……まさか」


 クルムの言葉にバーリングは顔を青くしていく。


「さっきも言っただろう? バーリング、貴様らが我が領で行った蛮行で赤ん坊も殺したよな? しかも母親の前で」


 クルムの言葉には明確すぎる憎悪があった。先程よりも強い憎悪の念がクルムの体から発せられた。


「なぁバーリング、我が領にそれほどの地獄を展開したお前だ。当然、自分がそのような地獄を味わう事も想定していたよな?」

「……」

「お前らの蛮行の報いはお前らだけが対象なわけないだろう。実際に殺した者達の名や家族が分からない以上、全員同じようにやるしかないじゃないか。当然、名前の知られているお前とその家族が対象から外されるわけないよな? 我々の命令が無くても領民達は独自に行動してお前の家族を嬲り殺したさ」


 クルムの言葉を受けたバーリングは堰を切ったようにクルムへ呪詛の言葉を叩きつけた。


「巫山戯るな!! この外道共が!! 貴様らは化け者だ!! この怨みは永遠に忘れん!! 許さんぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 バーリングの罵詈雑言をクルムはまったく気にしてない。


「その激高ぶり、我々への憎悪をぶつける姿勢……我々のやった事がいかにお前にとって苦痛であったかわかる。効果があって嬉しいよ」


 クルムはそういうとものすごく意地悪く嗤った。そこにエミリアが兄に向かって言う。


「お兄様の言うとおりですが少しばかり煩いので黙らせましょう」


 エミリアはそう言うとバーリングの右耳を掴むとそのまま引きちぎった。新たに発した苦痛の為にバーリングは罵詈雑言を吐くのを一旦収める。


「もう片方も……」


 エミリアはそう言うともう片方の耳を掴む。その瞬間にバーリングが身構えるのを感じた。歴戦の武人であるバーリングであっても苦痛に接するにはそれなりの覚悟が必要であった。

 エミリアはそれを見て、耳を引きちぎるのではなく戦槌で左腕を叩きつぶしたのである。


「ぎぃぃぃぃ!!」


 バーリングの口から苦痛の声が発せられた。耳に感じるはずの苦痛とは異なる苦痛にバーリングは驚きと共に苦痛の声をあげたのだ。エミリアは転がっている死体をアンデッド化すると横たわるバーリングをその場に立たせる。

 当然自力で立つ事は出来ないので、アンデッドがそのまま両脇を抱える形となったが、苦痛はまったく和らぐことはない。


「あ……ああ……」


 バーリングの目から涙が溢れ出した。自分の部下達が次々とザルブベイルの者達に殺されていく姿を目の当たりにしたからだ。

 ザルブベイルの者達が喜々としてバーリング軍の兵士達を殺している姿はかつて自分達がザルブベイル領で行った事である。


「あの時の涙の意味を理解したか?」


 クルムはバーリングに冷たく言い放つ。クルムもバーリングに降伏したところに領民が虐殺する姿を見せつけられ涙を流していたのだ。


「皇帝の命令であった……など何の免罪符にもならん。憎しみを晴らすのに正義などというお題目は必要ない。必要なのは“憎悪”だ」


 クルムの言葉にバーリングは何も言い返せない。圧倒的な憎悪の前に慈悲を乞う言葉も正義を問う言葉も無力である事を今更ながらに思い知らされたのだ。


 ザルブベイル一党のバーリング軍への蹂躙劇はそれから三時間程続いた。バーリング軍は一人残らず捕まりそして地獄の苦しみを受けて殺されていった。バーリングはその光景を光の灯らぬ目で呆然として見つめていた。


 そして、兵士達を皆殺しにしたザルブベイル一党はバーリング軍最後の一人となったバーリングに襲いかかった。


 ザルブベイル一党のバーリングへ与える拷問の時間は二時間にも及び、バーリングは息も絶え絶えになりながら「殺してくれ」とくり返していた。


 バーリングは死という安寧が訪れた事を神に感謝しつつその生を終えることになったが、クルムがすぐさまアンデッドとして甦らせ自分の地獄が始まったばかりである事に気づくと絶叫を放つ事になったのであった。


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