第3話 報復開始

「あははははははは!!すごい!! これはすごいわ!!」


 立ち上がり興奮したように嗤うエミリアに全員が凍り付いた。


「お、おい、あれ見ろよ!!」

「ひぃぃぃ!!」


 観客の指差す先には晒されたザルブベイル一族の首があった。その首から先程のエミリア同様に黒い靄が発せられていた。


 黒い靄は打ち棄てられていたそれぞれの体と結びつくと次々と動き出した。


「お父様、お母様、お兄様、みんな!!」


 エミリアの喜びの声に全員が呆然とその光景を眺めていた。


「おお、エミリア」

「また会えるなんて」

「ああ、本当に再会できるとは思ってもみなかったぞ」


 エミリアの家族は処刑台に上るとひしと抱きしめ合った。家族の再会であり本来であれば喜ばしい事であるがそれは通常の場合であった。ザルブベイル一族は先程まで間違いなく死んでいたのだ。


「もう、信じてくれてもいいじゃない」


 エミリアが頬を膨らませて言うとエミリアの家族達は苦笑を浮かべつつエミリアの頭を撫でる。撫でられたエミリアは嬉しそうにニコニコと笑う。


「皆の者……待たせたな」


 エミリアの父であるオルト=ルーク=ザルブベイルがすでに甦った一族、家臣達に視線を向けて言い放った。


「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」


 オルトの言葉に応えるようにザルブベイル一党は咆哮する。すでにザルブベイル一党の手には黒い武器類が握られている。剣、槍、鉞、斧槍ハルバート、戦槌など種類は様々だ。


「思い出せ、こやつらにされた事を!! 許すことが出来るか!?」

「「「「「否!!」」」」」


 オルトの檄にザルブベイル一党は簡潔に応える。


「ならばどうする? 我らを嬲り殺しにしたこやつらにどのような方法で報いる!?」

「「「「「死だ!!」」」」」

「そうだ!! 一切の情けをかけるな!! お前達の無実の訴えを踏みにじり、尊厳を蹂躙したこの者達を許すな!!」

「「「「「応!!」」」」」


 オルトの檄に少しずつザルブベイル一党の怒りのボルテージが上がっていく。対称的に観客達の顔色は青から土気色に変わっていき歯をカチカチと鳴らす音があちこちで発せられている。


「殺せ!!」


 オルトの言葉に堰を切ったようにザルブベイル一党は観客達に襲いかかった。


 この時、観客達は踏みにじる側から踏みにじられる側へと立場を一変させた。あちこちで悲鳴と絶叫が上がりザルブベイル一党の武器は容赦なく観客達に振り下ろされた。


『グォオォォォォォ!!』


 そしてザルブベイル一党とは違う咆哮が刑場に響き渡った。先程、黒い靄に覆われた執行人が身長2メートル以上の騎士へと変貌していた。黒衣の騎士の顔は生者のものではない骨に薄皮の張り付いた死者のものである。


「さぁ行きなさい」


 エミリアは艶やかに嗤うと変貌した死者の騎士の肩をポンと叩くと騎士は観客達の元に跳び込んでいった。観客の中に躍り込んだ死者の騎士はその大剣を振り回すと逃げだそうとした観客達がまとめて両断され地面に転がった。


「また会えましたわね」

「ひぃぃぃ!!」


 エミリアの母であるエルザピアが聖職者の顔面を掴むとそのまま持ち上げている光景が展開されている。あきらかに異常な膂力である。


「まぁ一日しか経っていませんがあなた様の無意味な祈りの言葉は今も不快なものとして私の心に残っておりますのよ」

「ひぃぃぃ!! 助けて助けて!!」

「怖がらないでください。あなたを神の元に送ってあげますから私の言付けを頼みます。無実の者を見捨てるような怠惰な神が偉そうにするなと伝えてくださいませ」

「お願いだ!! たしゅ……」


 ぐしゃりとエルザピアに顔面を握りつぶされた聖職者はそのまま地面に落ちると黒い靄が体を覆い先程の執行人同様に死者の騎士と変貌し容赦なく観客達にその大剣を振るっていった。


「あらあら……そのような罪を行ってしまえば神の御許にゆけませんね。まぁ他にもいることでしょうから良しとしましょう」


 エルザピアの言葉は弾んでいる。


「エルザ、神などもはや信じてはおらぬであろう?」

「ふふふ、もちろんですわ」


 オルトの言葉にエルザは嗤って応える。生前のエルザピアは聖母然とした貴婦人であり信仰心厚かったのだが死から甦った事でその信仰心を完全に捨て去ってしまっていたのだ。


「まったく、父上、母上遊んでないでこのクズ共を奴隷にする手伝いをお願いしますよ。何しろ王都のクズ共の人口は四十万ですよ」


 エミリアの兄であるクルム=リーグス=ザルブベイルの非難の声が両親に告げられる。


「すまんな」

「ごめんなさいねクルム」

「分かってくれれば良いですよ。さぁ片付けるとしましょう」


 クルムはそう言うと処刑台からぴょんと降りると散乱している死体に向かって黒い靄を放った。するとすでに絶命した者達が再び立ち上がったのだ。


「な、なんで?俺は死んだはずだ?」

「お、お前体が半分ないぞ!!」

「どうなってるんだ!!」


 甦った死者達の困惑ぶりは相当なものであるのは間違いない。先程、ようやく苦痛から解放されたと思ったら再び目覚めたのだ。しかも体の半分は黒い靄が形作っているという感じなのだ。


「さっさと仕事にかかれ。クズ共」


 クルムの言葉にクルムに困惑した視線を向ける観客達であるが次の瞬間に苦痛の声を上げた。


「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「いてぇぇっぇぇぇぇぇぇ!!」

「な、なんだよこれは!!」


 苦痛の声を受けてクルムは冷酷な視線を男たちに向けた。


「俺の意図にそぐわぬ事をすればその苦しみが続くぞ。苦痛を逃れるために俺の意図に沿うように行動するのだな。死体をお前達のようにしろ」

「で、でもどうやって?」

「死体に触れればそれで良い。いつまでも苦痛を味わいたければそのままでいるんだな」


 クルムの言葉に動く死体リビングデッドとなった者達が苦痛から逃れるために次々と死体に手を触れていく。手を触れられた死体は黒い靄が覆い動く死体リビングデッドとなり、その数は加速度的に増えていったのである。


 帝都を死が覆おうとしていた。

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