21
充ても無く森を彷徨う二人だが、同じ道を歩まぬよう
レティスは彼の後ろから、ぶつぶつと文句を言いながら歩いていた。
「なんっっって失礼な奴らでしょう! 女をなんだと思っているんですか!? 迷宮で女を見れば襲ってもいいなんて、思っているんじゃないでしょうね。だいたい、あいつらだって女から産まれたんですよ! もっと敬え。大事にしろ!!
誰に……とでもなく、レティスは暫くあの冒険者に対する愚痴を溢す。
やれやれと思いながらも、クロドも同じような意見であった。
迷宮は生きるか死ぬかの場所であって、遊びの場ではない。
自分はあんな冒険者にはなるまいという典型的なお手本。
だがそれも、この試験に合格して初めて出来るお手本だ。
「レティ、グチグチ言ってないで、早く水晶を探すぞ」
「わかってますよ。うぅー」
わかってはいるが、やはり腹は立つ。
しばらく小さな声でぶつぶつと言っていたレティスは、時間が経つにつれ、モンスターとの戦闘を繰り返すにつれ、少しずつあの男たちへの愚痴も減っていった。
やがて歩き疲れて二人は休憩を取る。
キューブを取り出し、その光の中で本日二度目の食事を摂った。
「たぶん二日目のお昼ごろですね」
「あと丸一日も無いのか」
時間を見るため取り出された魔法の砂時計は、既に半分以上の砂が流れ落ちていた。
「どのくらい歩きましたかね?」
「うぅーん……半分……と言いたいが、実際は階段小屋と壁の中間ぐらいを、ぐるっと一周しているだけだもんな」
「ギルドのお姉さんは、目立つところに台座があるって言ってましたね」
「出現って言わなかったか? でも出現ってのもおかしな言い方だよな」
二人は首を傾げ、今日は森の中で目立つ所というのを意識して探すことにする。
慌てず、されど素早く食事を終え、荷物を鞄に直しこみながら――レティスはふと、森の方へと視線を向けた。
何かがこちらを見ている。
そんな気がして。
「どうした?」
「はい……モンスターでしょうか? 何かが僕たちを見ているような、そんな気がいて」
「んー? 何も見えないぜ」
この付近にモンスターの姿は無く、それ故選んだ休憩所だ。
「そう……ですね。ずっと警戒していたから、ピリピリしてて勘違いしたのかな」
「そうだな。いつどこでモンスターと出会うかわからないし、警戒しない訳にもいかないもんな」
「はい。早く済ませてゆっくり頭を休ませたいです」
二人はキューブを鞄にしまい込むと足早に歩きだした。
目立つ所――それを求めて。
「ふぅ……気づかれたかと思ったぜ」
クロドたちが居た場所から、200メートル以上離れた茂みのか。
そこには
「まぁだあの二人は水晶を見つけてないようだな」
「まだってロイ。まだ一日ぐらいだろ? そんなに早く見つけられないだろ」
「そうか? 俺は反日でクリアしたぜ」
「……マジかよ。アディー、お前どのくらいでクリアした?」
「……一日半」
「だろ? 俺もそんぐらい。ロイ、お前がラッキーなだけだったんだよっ」
「ふーん」
興味なさげに前方を見つめる男は、その背に弓を背負っていた。
「で、どうするジャクソン? 移動し始めたけど、追うか?」
「うーん……」
パーティーのリーダーでもある男、ジャクソンは腕を組んで悩む。
「心配……ではあるけど……俺たちがどうこうしてやれるもんじゃないしなぁ」
「そうだな。教えられることは教えてやったし、あとは二人の問題だ。そもそも水晶を見つけたところで、我々がそれを手にすることは出来ないんだ。水晶は初めて迷宮入りした者だけが触れられる魔法のアイテムだからな」
「まぁね。水晶を台座から取れないんじゃあ、持って行って渡してやることも出来ないし」
「その台座だってどこにあるか……あ……あぁ! ――」
「「しーっ声がでかい!」」
弓使いのロイと魔術師のアディーがジャクソンの口を塞ぐ。
慌ててロイが前方を見るが、二人の姿は既に見えなくなっていた。
「見失った。もういいだろう。あとは二人に運があることを祈ろう」
「そうだな」
ロイとアディーが茂みから立ち上がり、踵を返して立ち去ろうとする。
三人も冒険者だ。この迷宮で稼がねば食っていけない。
「運か……あるんじゃないかなー」
ジャクソンはひとり、ニヤリと笑って立ち上がる。
その笑みに首を傾げた二人は、やがてジャクソンの後ろについて歩き出す。
もう一度ジャクソンは後ろを振り返った。
その先にあるであろう、彼の知る場所に二人がたどり着くことを祈って。
だがそこに見えたのは――。
「あぁん? なんだ、あいつら――」
そこには身を潜め、二人が消えた方向へと向かう男たちの姿があった。
突然森が開けた。
クロドたちの目の前には、森を両断するように流れる川があった。
「昨日見た川と繋がってんのかな?」
「それにしては、ここの流れは急ですね」
激流ではないが、昨日のような緩やかな川ではない。
気になるのは川の流れだけではなかった。
「クロド、上流のほう……滝があるようです」
「え?」
「僕、耳はいいんですよ。人間よりもよっぽどね」
それはそうだろうとクロドが思った。
人間よりも耳が長い分、聞こえはいいだろうと。
「目立つ所……」
「滝が目立つかどうかわかりませんが、でも周囲は木々で覆われた森です。そこだけ違う景色だというなら、他とは違うってことですし」
「あぁ。調べてみよう」
二人の声は若干上ずっていた。
目的の物がそこにあるかもしれないという、期待に胸を膨らませて。
流れる川にそって上流を目指す。
暫く進むと、目視でもわかる距離に小さな滝があった。
大きな木々の裂くようにして、高さ10メートルほどの崖がそそり立つ。その崖は階層の壁でもある山へと伸びている。周囲の木々のほうが高く、それ故遠くからでは見えないようになっていた。
そんな崖のてっぺんからしぶきを上げ流れ落ちる水。
見たところどこにも台座など無い。
一瞬落胆したクロドたちだったが――。
「ギルドの人は、変わった所を見つけたらしっかり探せって言ってたな」
「はい。すぐに見える場所ではないのかもしれませんね」
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