5-152 割り込み







サヤは一人、薄暗い空間の中にいた。

剣を目の前にして正座し、ただ静かにその場所にいた。


サヤは幼い頃、祖母の勧めで武術を習っていたが、小学生に上がる前に辞めてしまった。

そこで覚えたのは練習の始まりと終わり、そして練習のペアの相手に礼儀正しくすることだった。


そんなことを思い出して、サヤは剣を前に姿勢を正して心を静めていた。

この世界に来て、このような行いをしたのは初めてだった。


そんな中、この空間の中に再び自分が知る存在が姿を現した。




「おや?ヴェスティーユ……ずいぶんと早かったんだねぇ……で、何か見つかったのかい?」




その言葉に対し、話しかけられたヴェスティーユは何も声を返さない。


普段ならば絶対に何も返事をしないことはないが、ヴェスティーユはサヤに怒られるようなことをしたくはないため、気難しいサヤの怒りの火を点さないように日々気を付けていた。


その感情はサヤにも伝わってきており、二人が自分に対しそういう行動をとることはないと知っていた。

しかし、この態度はいつものサヤが知るものではなかったが、サヤはその行動に対して普段通りに接した。




「……おい、何とか言ったらどうだ?こっちが話しかけてるんだろ?」





そんなに怒ってはいないが、少々強めの口調で無反応のヴェスティーユに話しかけた。

その言葉に反応したのは、ヴェスティーユではなく別の声がサヤの背中に届いてきた。






『ここにいらしたのですね……』



「お前……どうして」



『あの時、私はオスロガルム様に助けていただきました……私もこの世界が崩壊することを本当は望んではいないのです。だから……』



「……だからアタシを裏切って、オスロガルムと組んだ……そういうことだね?」






ヴァスティーユは、そのサヤの問いかけに答えない。

下腹部の前で両手を重ね、背筋を伸ばしてサヤの顔を見ているだけだった。





「ところで、なんでそいつは何も話さないんだ?」




サヤは、顎でヴァスティーユの斜め前にいる妹のことを指した。





『この子はずっとお母様に怯えていましたからね……寝返ったその恐怖で何も言えないんでしょう』





そう告げてヴァスティーユは、ヴェスティーユを自分の後ろに下げて前に出る。






『お母様は、気が短くていらっしゃるから……無駄な問答は不要ですわね。ですので、最後にもう一度だけ伺います。”世界の崩壊”を……諦めてはいただけませんか?』



「……ふーん。まだ、そんなこと言うつもりかい?どうかしたんじゃないか?……まぁいいさ。その答えは”No”だよ。この世界をぶっ潰すことに、変わりはないよ」



『そうですか、ならば仕方がありませんね。……サヤ。お前にはこの世界から消えてもらいます!』







今までに無いほどの瘴気が、ヴァスティーユからあふれ出す。

だが、サヤはそれに対して何も感じてはいない。

ゆっくりと剣を腰に付けて、迎え撃つ準備をする。




「馬鹿だね……黙って奇襲をかければアタシを倒せたかもしれないのに……すぐに楽にしてやるよ、ヴァスティーユ!」






サヤも同じく瘴気を纏い、ヴァスティーユとの闘いに備える。







「サヤちゃん!!!ヴァスティーユはオスロガルムよ!!!」







そう叫びながらこの空間に、モイスに乗ったハルナが現れた。







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