5-90 ヴァスティーユ2






ヴェスティーユは嫌いな父親に腕を掴まれ、家の外に引きずり出された。




ヴェスティーユは”怖い、怖い”と泣き叫ぶが、他の大人たちも含めて父親の行為を止めることは出来なかった。


必死に助けを呼ぶ声に、姉のヴァスティーユに助けを求める声が含まれ始めた。

そこから何度も何度も、大好きな姉の名を呼んで助けを求める。

だが、ヴァスティーユは固く目を閉じて膝の上でこぶしを握り締めているだけだった。



ヴェスティーユの声は、次第に遠ざかっていく。

途中、人の身体を殴打する音が数回聞こえ、そこからその声は聞こえなくなった。



ヴァスティーユは目を開けて、その場に立ち上がった。

そして外に出ようとしたが、他の女性にその行動を止められた。


誰もがあの男に対し良い印象は持っていない、むしろ悪意しか抱いていない。

口には出すことはないが、この集落の全ての者が抱いている感情だった。

それをしないのは、あの男がこの集落の長であったためだ。


ヴァスティーユは過去にも、同じ状況を見たことがある。

そして、一度だけはあの男に歯向かった男がいた、その男は妹を助けるために父親に歯向かったのだ。

次の日、その男は集落から姿を消した。

父親は食料も武器も何も持たせずに、その男を集落から追放した。

うまくいけば、他の集落で生き延びることができるだろうが、その場所がどこにあるかも判らない。

途中で魔物や野獣に襲われることもある中で、生き延びる可能性はかなり低い。



だが、これまで追放されたものは父親に復讐することはなかった。





ヴァスティーユは、そのことを他の大人たちからも聞いていたが、もう我慢ができなかった。




ヴァスティーユは外に飛び出し、ヴェスティーユが連れていかれた場所を探した。

本当は自分が身代わりになりたかったが、そんなことは出来はしない。

すべては、あの男の気分次第だった。



森の茂みに、人が通った跡を見つける。

その茂みの中を音を立てずに、息を殺しながら進んでいった。

その手には、途中で拾った掌よりも大きな尖った石を片手に持って。



(お願い……間に合って)




ヴァスティーユはそう願いながら、茂みをかき分けながらさらに奥へと進んでいく。

そして、目的の人物を見つけた。

ヴェスティーユは全ての身に着けたものをはぎ取られ、地面の上に横たわっている。

そこにある表情は一切感情が見られず、これから起こる恐怖に対して必死に防御していた。

男は自分の身に着けていたものを脱いで、自分の身体を刺激してその時の準備をしていた。




(……!!)



ヴァスティーユはその姿を見て、男に対して呪いの言葉を頭の中で投げかけた。



そのまま男の背後に回るため、ゆっくりと音を立てないように移動を始めた。

だが、緊張か狩りを習っていないせいか、足元にある枝を踏んで音を立ててしまった。



「――誰だ!?」




男は興奮していた赤くなった顔を、音がした方へ向ける。

ヴァスティーユは、男の手が自分の身体から離していないことを見つけ、この機会を逃さないように攻撃を仕掛けた。

手にした石を茂みの中から投げつけると、その石は真っすぐに男の側頭部に命中した。



「ぐぉっ!?」


男は一声だけ、短い声をあげて意思をぶつけれた場所を手で押さえしゃがみ込む。



「ヴェスティーユ!!」


「お姉ちゃん!?」



ヴァスティーユは妹の手を取り、必死に今来た道を走った。

集落に戻り、ヴァスティーユは少しだけ溜めた食料の入った袋を掴んだ。





(もう、ここにはいられない)




ヴァスティーユは妹と二人でこの集落を離れる決意をした。









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