5-46 援軍












『黙って聞いておれば……さきほどから、耳障りな名前ばかり口にしおって』




「「――!?」」



ヴェクターとシエラは王の前に立ち、その身を護る様に構えをとる。



「ま、待て!……こ、この声は!?」



グレイネスは身を護ってくれた二人に、警戒を解く様に命令をする。

それと同時に、この様な声の伝わり方をする存在は、王が知る中でも八つしか知らない。




王妃もハイレインも、同じくその声に思い当たるところがあった。

それと同時に三人はすぐに床に膝を付けて、行為な存在に対して敬意を示す態度を取る。

身を護っていた二人も王達の姿に倣い、同じ姿勢をとった。



ハルナ達はそのまま立っていたが、自分に対してではないとわかっていても、こちらに向かって王に跪かれている状況にむず痒い気持ちになる。



『ふむ、久しぶりよのう。グレイネスよ……』



「はい、シュナイド様におかれましてもお変わりのないご様子で……」




(お変わりのない――か)



その言葉が引っかかったシュナイドは、サナにしか聞こえない程度に鼻で笑った。

そしてシュナイドは、小さい姿のままサナの肩の上に乗りその姿をグレイネス達の前に現した。




『サナも困っているようだし……ワシがあいつに変わって、力を貸してもよいぞ』



「え!?良いのですか、シュナイド様」



サナが驚いたことに、シュナイドはダメージを受ける。



『サナよ……ワシはお前が命令してくれれば、この世界の全てを灰にしてやることもできるぞ!』


「そんなこと絶対にお願いしません!!!」




シュナイドは四つの大竜神の中でも、元素の保有量ほかの同族の誰よりも突出していた。

モイスに負けたことのは、属性の相性と作戦によるものだった。

油断さえなければ、属性の相性を覆すほどの力がシュナイドにはあった。




グレイネス達、はシュナイドの申し出に己の耳を疑った。

それは、自分たちの知る火の大竜神とはかけ離れた対応のためだった。


この申し出には何か条件を付けられるのではないかと心配していたが、目の前のドワーフの女性であれば命令を聞くという事実はわかった。

何かドワーフ秘術を用いて火の大竜神を従わせたのではないかという考えも浮かんだが、そんなものがこの世に存在するのならば今まで使われなかったことがおかしいと、グレイネスはその考えはすぐに否定した。

だが、できればこの状況でできる限りの神々の協力を得たいのは確かだった。

グレイネスは自分の息子に目をやり、この申し出に対しうまくまとめるように合図を送る。

ステイビルも、その意図を感じ取り父親に小さくうなずいて応答してみせた。





「シュナイド様、ぜひそのお力を我々にお貸しいただけませんでしょうか?……サナ、お願いしていただけないだろうか?」



「え?もちろんですよ。ただ、町を灰にするのはちょっと……」



『サナよ、灰は例え話しだ。ワシはサナの力になりたいだけなのだ。それに、あの国の支配が終わったら次はこの国なのだろうよ。この国が滅びてしまうのはいい気がしない。それに……』




「……それに?なんですか?」



『それに……な。ワシをあがめる者たちの国を、どこの馬の骨かわからん奴らにどうにかされるのは面白くないのでな。こんな時に手を貸さぬモイスの奴に、これで恩を売ることができるだろうしなぁ!』




「……ということです。ステイビルさん」




「シュナイド様、感謝いたします!……ありがとう、サナ」




『では早速……と言いたいところだが、もう少し時間が欲しいのぉ』



サナたちは、シュナイドのその言葉を聞き状況を理解した。

シュナイドは、サナのヒールによって傷口は塞がってはいるが、漏れ出ていた元素が元に戻るにはもう少し時間がかかるということだろうと。



ステイビルはシュナイドの回復の時間を移動する時間に充てて、ディバイド山脈を越える計画を立てた。

第二陣が西の国に向かうにはもう少し時間がかかるため、その間にステイビルたちが向かう案だった。


グレイネスもその案に賛同し、できる限りの準備を行うようにヴェクターとシエラに命じた。














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