5-45 不愉快な名前
「な……に?本当か、それは!?」
グレイネスは、行動を共にしているステイビルの顔を改めてみる。
「その通りです……父上」
グレイネスはモイスがステイビルたちと行動を共にしていると聞き、各町に寄った際に王都へ戻るように伝達を出すところだった。
大竜神の力を借して頂ければ、西の王国を救える一つの戦力として期待をしていた。
グレイネスたちは、王宮の奥にある祈りの部屋の中に置いてある水晶に話しかけていたが一向に応答がない。
それは、ステイビルたちといるせいだと思っていたが、そうではないことにショックを受けていた。
「……本当にどこに行ったのか判らないのか?」
父からのその問いに、ステイビルは一度エレーナの姿に目をやる。
その視線に対して、エレーナは下を向きながら数度首を横に振った。
ステイビルが言葉を返すよりも、グレイネスは額に手を当てて深いため息をつく。
「どうしたことか……モイス様が……お隠れになられたなんてこれまでになかったはず。西側の王国も上位の魔物に襲われれているという始末……一体何が起きているというのだ!?」
「王よ……いえ、グレイネス落ち着いてください。今は未知のことに頭を悩ませるよりも、できる限りのことを行うことの方が先決ではないのですか?」
そうこの国の最高位である王に告げたのは、王妃であるローリエンだった。
その隣を見ればハイレインも口を開きかけていたが、ローリエンが同じことを告げてくれたのかその口を満足そうに閉じた。
グレイネスはその言葉に落ち着きを取り戻したのか、一度だけゆっくりと深呼吸をした。
「すまない・・・もう大丈夫だ。お前たちにも情けないところを見せてしまったな」
王の視線の先にはハルナがいて、ハルナは口元に笑みを浮かべて数回顔を横に振った。
ハルナもこの三人が、前回の王選のパーティであることは知らされていた。
王という立場の存在ではあるが、いざとなれば今のようにお互いを助けるパートナーである姿に王選の旅で越えてきた苦労の上に培われた、地位を超えた絆を見た気がした。
「それで……キャスメルは今どこに?お前たちは知らないと思うが、なにか情報はあるか?できればあの者たちにも手を貸してほしいのだが」
「我々がソイランドで聞いた時が最後です。それ以降は、なにも……」
その話はすでにフレイガルに向かう前に報告をしていたため、キャスメルたちに対して新しい情報はなかった。
ただ、どちらかの町に拠点を置くことにはなるため、各町に戻ってきた際には最速で駆けつけてくれるだろう。
そこで再びローリエンが、発言をする。
「しかし、モイス様のお力をお借りすることができないとなると……危険は高まってしまいますね。この子たちの集まった加護はまだ一つくらいでしょうから、凶悪な魔物に打ち勝つにはまだまだ」
「すみません……魔物はどのくらいの強さなのでしょうか?」
ブンデルがそう口にしたのは、エルフの村を襲われた際に撃退した力があるという経験からだった。
その言葉を聞き、王宮精霊使い長のシエラが代表して応じた。
「西の王国の肩の話によりますと、市街や城を襲ったのは大量のレッサーデーモンとのことで、その数は数百で街の空を覆いつくしていたと……」
「数百……」
その規模を聞いて、サナが小さく数を繰り返した。
エルフの村ではせいぜい数十匹が相手だった。
エルフの中では魔法も使えるものがいたため、そのくらいの数であれば対応は可能だった。
人は魔法が扱えない代わりに、精霊の力を使うことができる。
だが、ブンデルの中ではハルナたちのように戦いなれた精霊使いがそんなに多くないということもわかっていた。
「モイス様の居場所がわかれば……」
ハイレインは、悔しそうに言葉を吐いた。
いまの自分が精霊使いとして、役に立てない悔しさもその中には含まれていた。
『……さきほどから、耳障りな名前ばかり口にしおって』
この会議の中に、姿を見せない新しい声が加わってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます