4-75 指令本部での攻防4







「クリミオ……グラム・チェリーが王国警備兵一般兵として改めて、お前に一騎打ちを申し込む!!」




ソイランドの警備兵の中だけに設けられた、特別なルール……”一騎打ち”。


下部の実力者が、隊にいる中で一度だけ行使できる権利だ。

仮に上官の者が、様々な理由でその職に”ふさわしくない”と判断した場合に一騎打ちを申し込み、その地位を奪い取ることができるというものだ。


人の上に立つ者は、様々な面で強くなくてはならない……武力や知力、カリスマ性も必要になってくる。

中には自分の欲だけで挑む者もいたが、そういう輩はすぐに他の者にその地位を引きずり降ろされている。

カリスマ性が高ければ、その者を引きずり降ろそうと考える者もいない。

下の者はより上を、上の者は自分についてくる下の者たちのために。

技、知、力を鍛え、己を高めるために努力を惜しまなかった。



一騎打ちを受けた者は、どんな条件を付けても良いことになっていた。

武器、対決方法……もちろん自分が戦わずに、代理で戦わせることも可能だ。

その際には、相手を納得させるだけの理由がなければ、一騎打ちを受けた者の名に穢れが付くことになる。



しかし、クリミオは恥も外聞もなくその条件を付きつけてきた。





「わかった!?……そ、その代わり、対戦する相手はこちらで選ばせてもらうぞ……いいな?」



「ということは、お前と俺がやり合うわけではない……ということか?」



「その通りだ!一騎打ちを受けた者は断らない、その代わりに、”どんな条件を付けてもいい”というはずだろう?」





確かに問題はない……だが、自分の価値を下げるという結果になることはわかっているだろうとグラムはその先の言葉を飲み込んだ。




「あぁ、そうだな。で、誰と誰がやり合えばいいんだ?」





クリミオは、グラムの問題にならないという態度が気に入らなかった。


相手で、まともに戦えるのはグラムだけ。

ロースト家の私設警備兵など、大した武術も持ち合わせていない。

もしそういう戦力を持っていたなら、ソイランドの反逆する団体として粛清対象となっていただろう。

自分たちの資源を守るだけの範囲で、大きな戦力を持たないという理由とべラルドに対し多大な寄付を行い、私設警備兵の存在を許されていたのだから。





「そうだな……こっちは誰が……おい、お前!」




指をさされた男は、軽くお辞儀をして一歩前に踏み出す。

その容姿は他の者よりも筋肉の量は少ないが、引き締まった細身の身体つきをしている。

腰にはレイピアが下げられており、スピード系で刺突に特化した人物であることが伺えた。


クリミオは、”どうだ!”と言わんばかりにグラムの悔しがる顔を期待して伺う。

それでもグラムは、驚くことも怯えた様子も見せない。




(……ちっ!)




クリミオは次の手を打つ……この者に戦わせる相手。

それについては目星が既についていた……いや。

逆にその相手の正体を知っていたからこそ、クリミオはこの男を選んでいたのだった。




「フンっ!……まあいい。この男の相手は、そちらの”女”にしてもらおうか……悪いが、たっぷりと遊ばせてもらうとするしよう!!」





またしても、クリミオは人を不快にさせる下種な笑いを浮かべる。

もう、自分の正体も隠すつもりは、とっくに失せているようだ。



クリミオはこの町で廃墟をできるきかっけとなった、あの騒動の生き残りで元々は町の外から来た人種だった。

あの争いも得意の”嗅覚”でいち早く察知し、べラルド側についていた。

自分に有利になると思う時は、今まで仲間だった者も平然と裏切り、許しを請う命の炎を消すことにも何ひとつためらいはない。



その冷徹さと、自分が上を目指そうとする貪欲さをべラルドは気に入っていた。

貪欲ゆえに、クリミオが考えていることは判りやすい。

問題が起きた際の時々の判断も、クリミオの鼻の良さはべラルドを幾度となく良い結果に導いていた。


更にはクリミオは、べラルドと約束を交わしている。

”もし、べラルドの身に何かが起きた場合は、自分に司令官の地位を譲ってもらう”と。


だからと言って、クリミオはべラルドが危うくなるように偽の情報を流したり、自らがべラルドを狙ったりするということはなしなかった。気付かれて自分の身が危うくなるリスクの方が高いと判断していた。

それに、いつかはこの男が働いたもしくは、その直下で行われてきた悪事のすべてがべラルドの身に降りかかると信じていた為だった。

クリミオは、近いうちにその日が訪れると考えていた。


べラルドはとある女に執着し過ぎていた、クリミオはそのことが気に入らない。


女という存在は、自分たちの玩具でただの道具としてしか見ていなかった。

そんな道具よりも自分のことを気に掛けるべきだと進言したことがあったが、初めてクリミオは本気でべラルドに怒鳴られた。

この作戦はべラルドの方が正しいのだが、そういう認識でいるクリミオには理解できなかった。



だからこそ、今回の相手に鎧の隙間から女の匂いのする相手を選んだ。

女なんかに、俺たちが負けるはずはない。


行商人を襲ったときも、武装している女でもその抵抗はまるで無意味なものだった。





――そう、今までの経験の中だけでは





グラムの右後ろに立っていた者は、クリミオの指定を受け一歩前に進む。

口元からは、小さなため息が漏れていた。











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