4-74 指令本部での攻防3










――カ……チャ



入り口ではないもう一つの扉が、ゆっくりと開いて行く。

そこには、この場にはまるで似合わない者が姿を見せた。





「クリみオさまぁ……はやく……つづきぉ……はやくぅ……おねがぃしますぅ……だれでも……いいからぁ」





現れたのは、その身に何も纏っていない全裸の女性の姿があった。

内股には自分のものか他人のものかわからないぬめりけのある体液の跡があり、目は虚ろで口元は拭うこともされない涎が流れている。

それよりもその身体は、痩せ細ってこの世界では一般的な健康女性らしさもなく、肋骨のが浮き出て骨盤内臓器がわかるような細さが見てとれる。

この体形は、長い間拘束されて食事も碌に与えられていないような体つきだった。

この女性はその状況を苦に感じている様子はなく、表情は恍惚とした表情で快楽の欲求を満たすことのみ求めている。



クリミオは、その様子をグラムたちに見せても慌てる様子はない。

横に並ぶ男の一人に顎で指示をし、女を扉の向こうへ連れて行った。

男はそのまま、戻ってくることはなかった。





「失礼した……あの女は私に惚れていてな……ある日突然声を掛けてきたんで、こうして”面倒”を見てあげてるわけで。あの女にはこの町の”警備兵”と付き合ていたと聞いていたが、女はやはり権力に弱い……確かあいつの男は、今日の夜番だったか?」





クリミオの問いかけに、隣に立つ男が間違っていないと頷いて見せた。

その顔には、下種な笑い顔が浮かび上がっている。





「おっと……話を元に戻そうか。さぁグラム、私と……」




グラムは手を出して、クリミオの言葉を遮る。




「クリミオ……お前は、あの娘に使ったのか?……”クラッシュアイス”を」




鋭い視線で射抜かれたクリミオは、冷たい汗が流れていくのを背中に感じた。

周りの警備兵たちも、一瞬その気合にひるんでしまった。

この男のどこにこれだけのオーラがあるのかと……




「あ?……あぁ。で、でも勘違いするなよ!女の方から要求してきたんだからな!?」



「そうか……だが、どうしてお前がその薬物を持っている?そう簡単に手に入る代物ではない、もしかして……どこからかお前のところに集まってきているのか?」





――ガタッ!


壁に沿って並んでいた警備兵たちは、クリミオの合図でグラムたちを取り囲むように包囲する。




「そういう詮索は……あんまり好きじゃないんだ……グラム。お前たちはただ、黙って言うことを聞いていればよかったんだよ……お前たちやれ!」





クリミオはこの場に居る者たちに、グラムに襲い掛かる命令をした。

グラムはゆっくりと椅子から立ち上がり、クリミオに指を指す。





「なぁ、クリミオ……お前もソイランドの警備兵なら知っているだろ?……お前に”一騎打ち”を申しこむ!」





クリミオはグラムからの申し出に驚いた様子を見せ、その驚きは次第に笑いへと変わっていった。





「クハハハハハハ!!!……バカか、お前は!?一騎打ちは同じ警備兵に所属する者同士でしか行われないはずだ!お前みたいな、警備兵くずれの者に副司令官である俺に挑むなど……そんな資格はないわ!!!」



「何がそんなに面白いのか、俺には判らんな。……クリミオ、そんなことは当然知っている。本来はべラルドに叩きつけてやるつもりだったんだがな」





グラムは腰に付けた小さな入れ物から、折りたたまれた一枚の紙を持ち出した。

それを広げて、クリミオにその内容を見せつける。





「もちろん、お前でも文字は読めるだろ?……これはステイビル王子から頂いた、ソイランドにおける特別任務の命令書だ。もちろん、所属は王国警備兵を命じられたものだ。王国警備兵は、地方警備兵よりもより強い効力があるが、俺の賜った役目は一般兵だ。副司令官である上長がこれを拒否できないのは知っているな?」



「……な、なんだと!?……に、偽物じゃないのか!!!」



「よく見ろ……ここに王子の署名とその横にある血判。王家の者が血判を使う重要性、知らぬわけではなかろう?」






王家のものが使う血判時は、この内容に嘘偽りがないという証明で使われる。

この命令によって生じた不利益は全て王家が責任を持ち、何かあった場合は首をはねられても構わないという決意の表れで用いられる。





「……ぐっ!?」



「さて、クリミオ……王国警備兵一般兵のグラム・チェリー。改めてお前に、一騎打ちを申し込む!!」










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