4-55 土の町の争い
「ステイビル王子ならば、ご存じであると思いますが……」
サライは、そう切り出して言葉を語り始めた。
――『ソイランド』
東の王国を建国した際、それと合わせて作られた四つの町。
ソイランドはその中でも、一番最後に作られた町だった。
四つの町は王都を中心とし、東西南北に位置をしている。
東に火の町フレイガル、西に水の町モイスティア、北に風の町ラヴィーネ、南に土の町ソイランド。
ソイランドをさらに南へと進むと、そこには砂漠地帯が広がっている。
東の王国の領土は、西にディバイド山脈があり、北にグラキース山をはじめ高い山々がそびえている。
北からやってくる湿った空気は、この二つの山で雨を降らし落としていくため、ソイランドには届く風は乾いた空気となり、そのためソイランドは雨が滅多に降らずに水が少ない。
建国前には、この地域には三つの家が集まって暮らしていた。
水が少ない場所でも、無いなりの生活を送っていた。
三つの家は、それぞれでこのバランスを保ちながら平穏に生活をしていた。
だが、この地域が東の王国からソイランドと名付けられてからは生活が一変する。
王国は水不足の問題を解決させるために、この町に水の精霊使いを派遣した。
建国直後には精霊使いの数がそこまでそろっていないため、水の精霊使いの派遣は建国後数年経ってから実現されるようになった。
それまでの間、王都から送られてくる物資がこの町を潤していった。
砂漠地帯の周辺には、町に属さない集落がいくつか存在していた。
それらの者たちも、ソイランドが豊かになることによって自分たちの生活水準も高くなっていった。
ソイランドは王国の狙い通りに、砂漠の町のオアシスとなって発展していくようになる。
どの町でも、発展の光の裏にできる影に潜んで悪いことを企む者たちが出現し始める。
当初は警備兵が配置されていることを恐れて町の中には入らず、ソイランドを目指して往来する者たちをターゲットにしていた。
王国が主要道路の警備を始めると、一旦はその者たちも身を潜めて違う場所を”狩場”にしていく。
それ自体も、警備兵が討伐をするといった際限がない状況が繰り返されていくだけだった。
やがて、悪しき者たちは活動の場を町の外から内に移していくこと試し始めた。
ソイランドの中に入り込めたもの達は、物を盗むなど軽い犯罪から手を付け始めた。
危険な町の中で、犯罪を行おうと決めるくらい実力のある者たち。
警備兵に追いかけられても、容易に捕まることはなかった。
自信を付けた外から来た者たちは、次の狙いを定める。
ターゲットは町の中での協力者だった。
そこからある男はひらめいた”警備兵”を味方につけられないか……と。
しかも選んだ交渉相手は、ソイランド内の警備兵を指揮するクラスの役職の人物だった。
警備兵も人だった……
息のかかった警備兵たちは、町民や町の利用者を傷つけなければ良いということで自分の懐を温めながら見逃していた。
そこから、外に住まう者たちは徐々に町の中へと入り込み、殺傷以外の罪を重ねていく。
ある時期を境に増加する犯罪の発生件数に疑問を感じた王都の警備兵は、ソイランドの常駐する警備兵に現在起きている状況の原因を調査するよう命令をする。
その命令に自分の身に危機感を覚えた当時の指揮官は、悪しき者たちと組んで一芝居を打つことに決めた。
まずは討伐されるべき者たちは、町の西側の端にある建設作業員用の居住区に集合させた。
そして事前に掴んでおいた、元いたアジトを襲撃するという形を取り、若干名の”犠牲”だけで事を終わらせるという作戦だった。
しかし……お互い信用し合える関係ではなかった。
同盟のような関係ではあったが、お互いの”利益”だけで繋がり、お互いをつなぎ合わせているモノはこよりで作った鎖のようなものだ。
――作戦実行当日
隊長は相手との約束を破り、兵を居住区へ向かわせる。
それも圧倒的な兵力を用意して……
居住区に退避させた人数は、およそ五十名ほどと聞いている。
その二倍程の数を用意して、襲撃に向かわせた。
もちろん、元の場所にいる若干名の者も討伐対象とした。
指揮官の男は、怯えていた。
”ここでアイツらを始末しておかないと、自分のしてきたことがバレてしまう”と。
司令官は警備兵に壊滅を指示し、一人も逃すことのない戦力をつぎ込んだ。
だが、相手も愚かではない。
集められた場所に、交戦用の武器を大量に持ち込んでいた。
そして、ソイランド……東の王国発足してから今までにない大規模な争いが起こる。
このことは今でも大きなソイランドの歴史の中に悪名を残す争いとなった。
居住区はお互いの攻撃と放たれた火の手により、人が住める場所ではなくなってしまった。
最終的に争いは、警備兵が勝利を収める。
事前に依頼していた、王国騎士団の助けを借りることによって悪しき者たちを制圧した。
そこは廃墟となり、そこから悪しきもの達の住処となっていった。
指揮官はその地域をそのまま残すことにし、悪い者たちをその場所に閉じ込めることにしたのだった。
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