4-56 べラルドの思惑








「……そこから三十年余りが過ぎ、今のソイランドがあるというわけです」



サライの言葉に、ハルナとエレーナは言葉を失う。

王国の町で、これ程の争いが起きたとは思ってもみなかった。

実際に見て回った廃墟の中のあの景色は、戦闘によるものだと知った。






「その警備兵の指揮官……どうなったのですか?何もお咎めはなかったのですか?」


ハルナが、サライに問いかける。



「はい……何の罰を受けることは事はありませんでした。それに、今ではそのことを口にするものもいません」



「まさか……」



ハルナはある一つの仮説を立て、言葉を詰まらせる。

サライはハルナがそのことに気付いたと判断し、さらに話を続けた。




「そのご様子ですと、既にお気付きだと思います。このソイランドの現状はべラルドの父、”アブダル”が引き起こしたものなのです」



「やっぱり……!?」



ハルナは自分の仮説が、当たっていたことに関して何の感情も湧かない。

それよりも王国が何故、このような状況のまま放っておいたのかということが気になっていた。

その答えは、またしてもサライの口から聞かされることになる。




「アブダルという男は廃墟の管理を行うことを盾に、王都に自分の息のかかったものが管理していくように進言していたのです」



アブダルの進言通りソイランドの犯罪発生率は、落ち着きを見せていた。

その結果は当然と言えば当然だった……今まで自由にさせていた犯罪を犯す側のものを討伐し抑制しただけなのだから。


その通りとなった王都の警備兵は、アブダルのことを信用してしまう。

そのことに気を良くしたアブダルは、次に狙ったのはこの町の大臣の座だった。

大臣ともなれば町の運営のすべてを任され、王国とのパイプも強くなるとの算段だった。




だが、大臣は王国内において”王選に関与した精霊使い”か、”それに近い精霊使い”もしくは”その家族”から選ばれることが慣習となっていた。

そのため、男性であるアブダル自分自身ではその地位に就くことはできなかった。


そうして取った次の行動は、”精霊使いの確保”だった。

べラルドは何とかして、ソイランドに派遣される精霊使いに”協力”を求めるがそれらは失敗に終わる。


アブダルがソイランドに来た精霊使い達に求婚を申し込んでも、ことごとく断られていった。

時には、ソイランドの実質的な支配を行っていることを挙げたとしても、それまでの精霊使いはアブダルの誘いに乗ることはなかった。

最終的には、アブダルは非合法的な手段を用いて、精霊使いではないものと結婚をしべラルドという息子を手に入れた。

噂話では、女児をもうけて精霊使いにさせるという計画のようだった。

しかし、結果的にはべラルド以外の子を授かることはなかった。



そこから、アブダルは精霊使いという存在を毛嫌いするようになった。



更には自分の権力を維持するため、荒れたこの土地に必要な水を自分の思い通りにすべく精霊使いの……特に水の精霊使いに対してはこの町への制限を裏で強めてていった。

それは、アブダルの息子であるべラルドにも引き継がれていた。






「水の精霊使いですって?確か、カルディさんも……」



「そうです。我が娘カルディも水の精霊と契約をしております。ですから、王選のお供を外れてからクリエはソイランドには戻ってきておりません」



「あぁキャスメルさんと一緒と思っていましたが、王選について行ける精霊使いの人数は制限されていたのでしたね……」





ハルナの指摘に対し、コージーはそのことが間違っていないと返答する。

エレーナもそのことに関して、気付いたことを口にした。





「確か、メリルさんという方も……水の精霊使いでしたよね?もしかしていま、ソイランドに居ないのは」



「はい、べラルドによってソイランドから外に出されております。それは今までの水の精霊使いをこの町に入れないという理由の他に……」



「何か理由があると?」



「べラルドは……メリルに婚姻を迫っておりました」



「「――!?」」





その事実に動揺を隠せないグラムと、ステイビルだった。





「で、では……いま、メリルは……べラルド……と!?」



「落ち着いてください、グラム殿。べラルドは、この町の住人……帳簿を見る限りは、婚姻の届け出は”まだ”出されていないようです」





サライは町の住民台帳――費用を払えばだれでも閲覧可能――でメリルのことを調べていた。

いくらべラルドでも、当初の予定の通りこの町の大臣を狙うにはしっかりとした身元でなければならないと考え、実費でべラルドの身辺情報を調べていたとのことだった。





「そうか……メリルはまだ……無事か」



「とはいえ、書類上のお話しでございますので実際の安全については保障しかねますが……」



「まずは、メリルさんの安全を何とか確認したいところですね」





エレーナの言葉にステイビルが頷くと、サライが自身のもつ情報を付け足した。





「最後に確認できたのは、王選が始まった直後までです。それ以降はお姿を見かけておりません」



「町の外に出た可能性も……あるか」




ステイビルはそうつぶやき、次の段階の行動計画を頭のあ中で組み立てていった。
















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