4-54 ソイランドのできごと






ひんやりとした空間、地下に続いている通路は上下左右に石によって通路、天井、壁が創られていた。


一番後ろに入ってきたグラムが床の板閉じると、空気の流れが急に止まったように思えた。

地下の湿った空気の中、ビトーはランタンの明かりを掲げ先頭を進んで行き、ステイビルたちはその後を追っていく。

通路の中は、一番背の高いアルベルトの髪の毛がギリギリ当たらない高さで通り抜けれるような穴が続いていく。


しばらく歩き、ハルナの呼吸が息苦しく感じ始めた頃、どこまでも続いていた通路に壁が現れてビトーの歩みが止まる。

よく見ると天井には上に続く穴が開いており、そこから三本の鎖が下がっていた。



ビトーはそのうちの一つを手に取り、下に数回ほど引きそのまま待つ。

手を離していない鎖から、上にき上げられる感覚が数回伝わる。

残りの二本の鎖は輪になっており、片方を引き下げるともう一方が引き上げられていく。

それに合わせ、ジャラジャラと音を立てながら上に伸びて出来上がったのは鎖のハシゴだった。




「それでは、皆さん上に上がります……一人ずつお願いします、足元に注意してください」



そう告げると鎖の独特の音を響かせながら、ビトーは始めに上に向かって穴を登っていった。


縦に続く穴は人が一人入れるほどの直径で、人によってはその圧迫感が不快に感じる者もいるだろう。

だが、引き返してもどうすることもできないし人がすれ違うことすら困難な場所だ。

ここは前に進んで行くしかない。




ビトーは上に出て問題がないことを確認すると、穴から這い出て下に待つ者に声をかけ合図をする。

次に上がるのは、通路の順番から言ってステイビルだった。

そして、ハルナ、エレーナ、アルベルトと順にハシゴを上っていく。


クリアは先に行かせて、その後ろをサナが落ちても大丈夫なようにその後をついて行った。



最後にグラムが穴の中から姿を見せると、ビトーはハシゴを下に下ろして床の穴をふさいだ。

そこには左右に並べられたテーブルと椅子が用意されている。

ビトーはその席に付くようにステイビルたちにお願いをし、ステイビルたちもそれに従った。





「ビトー殿……ここは?」



「ここは、サライ様の屋敷の離れにある小屋の中です」



「コージー殿のところと……繋がっていたのか?」



「はい、このことを知る者は限られていますので、いま王子や他の方々がここにいることを知る者は誰もいないでしょう。ご安心を……」





ビトーはこの部屋で待っていた自分の部下に合図をすると、その者は一度礼をして扉の外に出ていった。

その時見えたのは、ここは建物の中の一室ということだった。




しばらくしてドアが開き部下が先に入室をして、ドアを開けて後ろの者を中に入れた。

その次にコージーが姿を見せ、最後に見たことのない小柄な男性が入ってきた。






「ステイビル王子……お待たせしました。こちらが、サライ様……ポートフ家の方です」






紹介されたサライは、ステイビルに対し深々と頭を下げる。






「頭を上げて欲しい、サライ殿……こちらこそお忙しい中、お時間を頂き誠に申し訳ない」



その言葉にサライは、急に頭を上げて顔を真っ赤にしてステイビルに言葉を返す。



「め……滅相もないことでございます、ステイビル王子!?ご足労いただいたこと、この場を設けることが遅くなりましたことこそ、責められるべきことでございます」



「いや……」






これ以上否定すれば、サライはさらに遜り自分のことを責めるだろうと判断したステイビルは、途中で言葉を区切った。

そのタイミングを見計らい、コージーがステイビルの発言のタイミングを引き継いだ。






「サライ様……今回ステイビル王子は、サライ様にお聞きしたいことがあるとのことです」




コージーはそう告げて、その後の流れをステイビルに渡した。




「そうなのだ……サライ殿に聞きたいことがあってな」



「何でございましょう?私の知っていることであればお答えいたしますので、何なりとお聞きください」




話を始める前にまず、ステイビルはコージーとサライを向いのテーブルの席に座らせた。

二人が着席したことを見届け、入り口に立っていた部下は一礼をして退室していった。





「今回、私が聞きたいことは、チェリー家のメリルのことだ。今回、王選のソイランド代表としてクリエと一緒に競い合ったと聞いている。……だが、その後に何が起きているのかわからないのだ。一度パイン殿の屋敷に招待された時も、その姿を見かけることが出来なかった。サライ殿はいまメリルがどうしているか、知っていないかと思って聞きに来た次第なのだが」





その言葉を聞き、先ほどまで気弱だったサライの顔が真剣な表情になる。

そして、苦しそうな声で自分の知っていることをステイビルに伝える。





「メリルさまはいま……べラルドに捕らえられております」



「なに!?どこに?どこに捕らえられておるのだ!!」



「その前に、ソイランドの状況から……ステイビル王子に知って頂きたいと思います」





ステイビルは先ほどとは違うサライの言葉の温度に、焦る気持ちの熱が引き冷静を取り戻す。

そしてテーブルの上で手を組んで、サライの言葉を聞く体勢をとる。




「わかった。聞かせてもらえるか?この町……ソイランドで何が起きたのかを」










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