4-4 悪い流れ






「賭けの勝敗の内容は?」


「なぁに、簡単な話です。今現在行われている”王選”についてです」



「……」



マーホンはその言葉に対し何も告げず、男からの次の言葉を待つ。



「いま、ステイビル王子の傍に付いている精霊使いで、”ハルナ”という女がいるはずです。その者が大精霊と大竜神の加護を問題なく受けることができるか……という賭けです」



「なぜ、あなたがそんなことを気にする必要があるのかしら?」


「これは一般的な賭けですよ。右が正解か、左が正解か?男は女を落とせるか、落とせないか?そんなよくあるたわいのない賭けと同じ”お遊び”ですよ」



「あなたのような人物を今までいろいろとみてきたけど、その賭けの裏には自信があってのことなのでしょ?その情報をどうやって手に入れたのかしら?」





「ククク……私たちの人種をよくわかっていらっしゃる。ですがその答えは、”とある場所から”とでも申しておきましょう。私はその情報を仕入れてきたのですが、その内容もあくまで”可能性が高い”というレベルの話ですよ。私が負ける可能性も充分にあるということです」


「だけどあなたはほぼ勝てる勝負しかしない……そういう性格のようね」



マーホンの見立てが間違っていないと、男は口角を上げて笑みを作るだけだった。




「さて、どうされますか?この勝負、乗りますか?それとも尻尾を巻いて逃げますか?」



男はいちいちマーホンの神経を逆なでするようなものの言い方をするが、マーホンはそんな幼稚な駆け引きに引っ掛かるような真似はしない。

こんな交渉なら、何度も乗り越えてものにしてきた。




今回の情報はマーホンが探している目当ての集団との関わり合いのある可能性が高い。

どこにもその情報が上がれていないため、餌をばら撒いたのだから。


だが、本来ならばこんな重要な話を商人であるのマーホンが勝手に決めていい話ではない。

今、ステイビルたちはエルフの村で交渉をしていると聞いている。

このタイミングでなければこの話は消えてしまうだろう……何故ならこの話を持ち出した時点でこの男は自分をターゲットにしているはず。

この男は、現在自分がステイビルたちと連絡が取れないことを知っているからとマーホンは踏んだ。

ここは、自分の責任においてこの賭けに乗らなければ、この件の情報収集について任された使命を果たすべきと決断する。




「分かったわ……この賭け、乗りましょう」



「ホッホッホッホッ!それでこそ、王国ギルド一番の商人、エフェドーラ家のマーホン様だ!では、これにて賭けは成立しました。結果が楽しみですなー」



結果は、次回マーホンが王国に戻ってきた時に確認することになった。



そして今、現状の確認をするためまたあの男と面会をしていた。






「それで……結果はいつ発表されるので?」



「いま、確認の作業が行われているはずよ。それが終わったら国民に向けて通知があるはずだけど」



「わかりました……それまで待ちましょう。もちろんお互いの報酬はそれが終わってからということで」



「えぇ、それで問題ないわ」



「……情報は偽りが無いようにお願いしますよ。まぁ、結果はすぐにわかると思いますけどね」



「そちらも……ね。あなたが負けたからって逃げることはないでしょうけど」



「ホッホッホッ……あなたのような強気の方が負けて絶望する姿を見るのが、いまの私の楽しみなんですよ。それでは」




男は、自分の言いたいことだけを言ってこの場を去っていった。

マーホンは男が店を出ていくのを確認し、自分の座っていた椅子から腰を上げると張り付いた椅子から剥がれるような感覚がある。

そのまま城に向かうことにしようとしたが、一度帰り臭いと汚れた服を着替えることにした。






身なりを整え城に向かう足取りはあの店の床のようにベタベタとして重く、マーホンの鼻の中には店の中の腐ったような匂いがいつまでも残っていた。



(ふぅ……どうしよう……このことをいつ話すべきか……よし決めた!)




マーホンは、憧れているハルナに相談しようと決めた。

初めはハルナのことだったので、気にして伝えない様にした方がいいと思っていた。

しかし、加護を受けているように進みそうなのでもう伝えてもいいだろうと判断をした。



そう決めると、マーホンの足の裏に付いていたベタベタとしたものはスッキリとしてハルナの部屋に向かう足取りが軽くなった。

扉の前で数回深呼吸をし、マーホンは扉をノックした。






――コンコン




……

…………

………………






扉の中から、何の反応もない。

もう一度、先ほどよりも大きな音で扉をノックする。





――コン!コン!






「あの、ハルナ様はラヴィーネに向けて出発されております」





通りかかったメイドが、扉の前で返答を待つマーホンに伝えた。








「え!?……そうなのね、それでいつお戻りになると?」



「はい、三日後には戻られるようです」



「三日……あ、王選の今の状況いつ頃発表になるかご存じですか?」



「あ……マーホン様ならお伝えしてもよいかと思います。明日、各町に公表される予定となっており準備が進んでおります」



「――明日ぁ!?」







マーホンの変な声に驚いたメイドは、後退りをして距離をとった。












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