3-227 東の王国31






二人は腕をつかみ合い、ヒートアップする気持ちが行動に現れていた。

エンテリアとブランビートは、慌てて喧嘩になりそうな雰囲気の二人を止めに入った。





ボロ……ボロ……ズサァ……




四人の動きが止まり、音のする方へ視線を移動させる。

そこにはトライアだった炭の塊が、剥がれ落ちていく様子が見えた。

その炭はそのまま形を保つことが出来ず崩れ落ち、粉が舞い上がったあと灰の山が出来ていた。





「終わった……のかな?」


「あそこから復活するなんて見たことがないんだが」


「今回の相手は、”人”ではないんだ。油断はできないぞ」


「ちょっと……エンテリアさん、怖いこと言わないでください!」




四人は、その姿を見てそれぞれの思いを口にした。





「とにかく、アレを土の中に埋めてしまおう」





エンテリアの村では、稀にアンデットの魔物……人の形をしたものではなく動物がアンデットとなり、数匹で村を襲うことが十数年に一度の頻度で起きていた。

うまく撃退した際に、その死骸を燃やし灰を土の中に埋めていた。

そのあと、それぞれが復活をしない様に数個の穴を用意し、バラバラにして埋めていくことが俗習となっていた。

そこには、村ができ始めた頃にいた占い師と呼ばれる自然の法則をもとに村の行動や催事に関してその日取りや内容を助言する役割の者がいた。

その者が初めてアンデットを見た際に、自然の理を乱す者としてその者たちを火によって死者の世界へ誘い、自然の中に還すために土の中に埋めることを提案した。

その際には、燃した灰をバラバラにして復活を遂げない様にしたことから、現在もその慣習が受け継がれていた。



エイミとセイラは、初めてその話を聞いた。

自分の住む村では、オオカミなどの野獣に襲われることはあってもアンデットという存在に遭遇したことはなかった。





「それじゃあ、私が穴を”作る”わ!」



(――作る?……こちらの村では掘ることを作るというんだな)



エイミの発言に違和感を感じたがそれは頭の中で都合よく処理され、ブランビートは穴掘りを手伝うことを申し出る。





「我々も手伝います。それに死者たちが再び上がってこれない様に結構深く掘るのが、私たちの村のやり方ですから。道具をお借りしても?」



装備を外し袖と裾をまくりながら、エンテリアとブランビートは掘り起こす場所の指示を待つ。






「え?……いえ、私だけで大丈夫ですので。どのくらいの深さが必要ですか?」



「深さは……そうですね。私の腰のあたりの深さで。場所は村の端の方がいいかと」




ブランビートは、村の端の山側を指す。

村の中心部に掘れば、復活した際(過去一度もないが)に大きな被害となりえるため、村の生活圏からは遠ざけた方がいいとアドバイスをする。

その助言に納得したエイミは”それもそうね”といい、セイラと共に村の端に向かって歩き始めた。





「お、おい!道具は……」





ブランビートは声を掛けるも、二人は先ほどとは違いすっかり仲が良くなりいつもの二人に戻っていた。

そのため、声を掛けることができず二人の後姿に見とれてしまっていた。

そんなブランビートの背中をやや強く叩いたエンテリアは、にっこりと笑い一緒に後を追うことを促した。






「……この辺りでいいかな?灰を入れるだけだしそんなに大きくなくてもいいよね?」




エイミは家が並んでいる場所から離れ、山のふもとの森の入り口の場所まで移動した。

その場所を足の裏でバンバンと踏み鳴らし、その辺りの地面が硬い地面であることを確認する。

同じ場所をエンテリアも確認し、位置的には問題がないことを告げる。




「ここでいいでしょう。ただ、少し地面が硬いので作業が手間取るかもしれませんから、早速取り掛かりましょうか……道具はどちらに?」


「道具はいりませんよ、私に任せてください!」



「「――え?」」




エンテリアとブランビートは、エイミの言葉の意図がつかめなかった。

エイミは、掌を地面に向けると”こんな感じ?”などと独り言をつぶやきながら目を閉じて、数回深呼吸を繰り返した。



そして





「えい!」




エイミの掛け声と同時に、地面には掌両手分の直径の穴が出現しその場所を作っていた土や岩は空気の中に散っていった。





良く事情を呑み込めていない二人の口がだらしなく開いたまま、言葉にならない空気だけがそこから漏れ出していた。





「な……何なんですか、これは!?」



「え?これ?私の精霊の力は”土”と”風”なの」


「そう……そして私は”火”と”水”力を持っているの」




二人は、先ほどトライアにみせた精霊の力で、自分たちのことを化け物扱いされないことに気をよくしていた。

それに、セイラの炎が二人を巻き込みかけたことについても、自分たちのマイナスなイメージが付いたのではないかと心配していた。

先ほどの口論の根底には、”嫌われてしまったのではないか”という恐れからきていたものだった。



実際にはそんなことはなく、エイミとセイラに対して変わらず好意的に接してくれる二人に気を許していた。


エンテリアとブランビートも、秘密ともいえる話を聞いて”もしかして自分たちだから教えてくれたのではないか”という思いもあり、心の距離が近づけた気がしていた。





……ズズズ、……ズズ




何かが擦れて移動する音が、四人の傍に迫ってきていた。






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