3-228 東の王国32








……ズズズ、……ズズ




何かが擦れて移動する音が、四人に迫ってくる。




――!?




黒い影が、波で巻きこもうとするがごとく襲い掛かってくる。


その異変に気付いたエイミが、岩の壁を作りだし防いでみせた。





「な……何なんだ!?」



急に現れた石の壁に、ブランビートの顔は険しくなる。

エイミが何者かから防いでくれたのではないかと気付き、その正体についてはすぐにたどり着いた。





「あー!壁が!?」





壁を見ると、中心から黒く染まり始め岩を闇が浸食しているように見えた。






「こっちだ!早く!!」




エンテリアは浸食される様子に驚いているエイミとセイラに声をかけ、その場所から移動するように指示する。

ブランビートは、既に元にいた場所に戻ろうとしていた。

それは、穴を掘るために装備をあの場所に置いてきたままにしていたのだった。

この襲撃で身を守るものも攻撃する手段すらもないため、ブランビートは急いで荷物の場所まで走った。

その場所はそんなに遠くもない、全力で走っても三十秒程度の距離だ。

しかし、その三十秒程度は無防備な状態となってしまう。



無防備な状態でこのまま進むか、もう十数秒かかっても確認しながら進むべきか。



その時、ブランビートの後ろからエイミの壁が崩れ落ちる音が聞こえた。

振り返らないが、あの二人はエンテリアに任せている。

自分は、それを信頼して装備のところまで一秒でも早く手にするために全力で走る。



それが、いまそれぞれができる最善の行動だと判断した。





更に数秒経過し、悍ましい声が叫んだ。





『どこだぁああぁああ!どこに消えたぁああああ!!!人間ごときがぁああぁあああ!!!こ、この、この俺様にぃこんなことをぉぉおぉおぉ!!!』






黒い粘質の単細胞生物のようなトライアが、壁の向こうに目標物が消えていることに大声をあげる。

不規則に波打つ身体をうねらせている、周囲を確認しているようだった。


そして自分の後方に、動く物体を数匹感知した。



『そこかぁああぁ!!!』



トライアの今の身体は前後左右がない状態で、身体の重心が反対側に移動するだけで正面を向くことができる。

その身体の体積が縮み、中央部が凹んでいく。

その次の瞬間、トライアはエンテリアたちに向かって跳躍し、その身体は地面から離れていく。



――ビチャッ!!



水が潰れるような音が鳴り、トライアは着地をする。

その距離は、装備を置いている場所から元の場所から半分のところに落ちた。

現在ブランビートは装備の直ぐそばまで来ているが、他の三人は残り四分の一という距離が残っており、次の跳躍でその捕獲されてしまう距離だった。


トライアは着地をしたエネルギーをそのままバネのように次の跳躍のためのエネルギーに変換する。

そして、その力で地面を弾き、最後の跳躍を行った。




ブランビートは振り向いて地面を滑らせ、急いで自分の盾とエンテリアだけの剣を持つ。

ブレーキに使った脚に貯めたエネルギーで、地面を蹴って三人に向かって地面を蹴った。

お互い向かってきているため、徐々に距離は狭まっているが、先に向かってきたトライアの方が一番後ろを走るセイラの姿を捕らえることになる確率が高い。




(――間に合うか!?)





ブランビートは諦めかけたが、必死に走る二人の女性の姿が視界に入り心の中に力が流れ込む。


その間にも距離は縮まり、先頭を走り手を伸ばすエンテリアに剣を渡してすれ違った。

次に、エイミがブランビートとすれ違うが、トライアはもう直ぐそこまで迫っていた。


ブランビートはセイラに向かって手を伸ばし、セイラもそれに応じてその手を掴んだ。

そしてブランビートは思い切り手を引き、トライアとの距離から離した。

ほんの僅か、トライアの触手がセイラの服を掠るが、溶けたり引き込まれたりすることはなかった。



だが、波が襲い掛かるように上から粘質の身体が襲い掛かってきた。

ブランビートは腕の盾に力を込め、その衝撃に備える。




(セイラさんは、俺が守って見せる!!)






すると腕に付けた盾が光り輝き、光が広がることでトライアの身体を防いで見せた。




『な、なにぃ!!!』




トライアは、不思議な力で攻撃を塞がれ獲物が遠ざ買っていくことに怒りを覚える。




『人間ごときがぁぁ!!!』




トライアは光の盾ごと取り込もうとするが、触れた箇所から瘴気が蒸発しているのが見えた。

しかしトライアの身体は、それだけでは消えることはない。

更に質量を増やして、押しつぶしたうえで飲みこむ作戦に出る。





「――ぐっ!?」




トライアの左腕にありえない程の重さが掛かり、前腕の骨が悲鳴を上げている。





――ザン!!





何かを切り裂く音共に、腕にかかる重さが軽くなる。

エンテリアが、ブランビートと同じく輝く剣でトライアの身体を切断した。





『なぜ、切れる!!今まで何一つ攻撃があたらなかったはずだ!?』



「この剣と盾は、偉大なるお方から借り受けたものだ。この日のためにな!!」






そう告げると、エンテリアは更に三度剣を切りつけると、トライアの身体が刻まれて小さくなっていく。





(ま……まずい!?)




トライアは、この場から逃げようと残った体の一部を瘴気で目隠しをし後方に逃げだした。

だが、後ろから光り輝く剣によって貫かれその場に崩れ落ちる。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る