3-225 東の王国29






「いい……いいぞ!これが精霊の力か!?」




トライアは、攻撃が防がれたことよりも何か違うことで興奮している様子を見せている。






「お前は誰かの命令を受けていると言ってたな?」




ブランビートが、機嫌が良さそうな相手に話しかける。

何か情報を引き出すことと、体制を立て直すために時間を稼ぐために声を掛けた。


どのような状況になるか分からないが、試してみる価値はあると考えた対応だったが、トライアはその言葉に乗ってきた。



「あぁ……そうだ。俺の産みの親……母様は、全てを見通しておられた。この日のことも予測されていたのさ、お前たち精霊使いが生まれることもな。ここでお前たちを殺さなければ、お前たちは大きな力になってしまうとおっしゃっていた。だから俺は、その流れを断ち切るために生まれ、ずっとこの日を待っていたのさ!」




「お前を生んだ親……ずっと前から……大きな力……?それは一体何のこと……」


「うるさい、だまれ!おしゃべりは終わりだ。お前たちはこれから死ぬのだ……この俺に殺されてな!?」



トライアは少し苛立ちを見せながら、エンテリアの質問を遮った。

しかしエンテリアは、トライアを生んだものが預言者のような存在であるように思えた。

そのことを踏まえ、更に遮るトライアを抑えて問う。



「……俺たちが死ぬことも、その者が言うには”決まっている”ことなのか?」




その質問に対しトライアは明らかに動揺し、それを抑え込もうとしている様子が伺える。





「あ……あぁ。そうだ、ここでお前たちは俺の手に掛って死んでいくんだよ!!」







トライアは、急に声を荒げた。


それと同時にエンテリアとブランビートが、トライアに向かって走り出した。

先程の話で時間は十分に取れており、次に起こす際の準備は出来ていた。


二人は並び、一直線にトライアの方へ向かっていく。

トライアは片手を挙げて、二人に向けて瘴気を放出する。


それと同時にエンテリアとブランビートは左右に別れ、トライアの狙いを定めさせないようにする。





「――ちぃっ!!!」




トライアは舌打ちを一つした後、左側に移動したエンテリアに狙いを定めたて追い掛ける。

先程の攻撃で、装備にダメージを与えることができたエンテリアの方に絞った。


トライアは、エンテリアの二倍以上の速さで追い掛けてきた。

その前の急に後ろに現れた方法では追いかけてこない、そのことから動いているものに対しては力では追いかけることができないと判断した。





トライアは、通常では考えられない速度で後ろからエンテリアの姿を捉える。

その右手には黒い瘴気を纏い、エンテリアのわき腹を狙い打ち込んだ。



ガン!




突然目の前に現れた石の壁によって、トライアの強撃は防がれた。

防いだと同時にその壁は取り除かれ、再びエンテリアはトライアの姿をみる。


トライアの前腕は、関節を構成しない場所から折れ曲がっているのが見え、その場所に向かってエンテリアは剣で折れた箇所を切りつける。




ザシッ!





エンテリアが握る剣の柄に、今まで得られなかったいつも通りの感触が伝わってくる。

その結果を目で確認すると、信じられない光景が見えた。


トライアの折れ曲がっていた前腕部は、エンテリアによって切り落とされた……はずだった。

そこには粘質状の意思を持った液体が伸びて、落ちかかっている腕の先が繋ぎ止められていた。

その粘質はゆっくりと切り落とした腕を引き上げ、元の場所に戻っていく。





「ちょ、ちょっと!?な、な、な、なにアレ!!」


「し、知らないわよ!?」






セイラはその様子を見て、気持ちの悪いものを見たかのような声でエイミに確認した。

当然エイミもセイラと同じ気持ちで、いつも二人は同じ行動をしていたのでセイラが知らないことはエイミも知らなかった。


未知なものに対して慌てるエイミとセイラに対し、エンテリアとブランビートは冷静に対応する。

トライアを倒す絶好のチャンスを逃さないため、離れていたブランビートが後方からトライアの首をはねる。

しかしそれは、ブランビートの予測通り無意味とも思える結果となった。

切り落とされたそのまま地面に落ちかけた頭部は、またしても粘質の触手のようなものに捕まれそのまま元の位置に引き戻されていく。

誤って後ろ向きにつけられた頭部を、何ともなかったように先ほど切り落とされた腕を使って本来の向きに戻した。






「よくもやってくれたなぁ……これで分かっただろ?お前たちには俺を消すことはできないんだよぉぉぉぉぉっ!!!」




トライアは声を張り上げて、ブランビートとエンテリアに向かってくる。

二人を交互に攻撃し、それでも反撃させる隙を与えない程の速さで拳を繰り出す。

それでも完全に押され切れていないのは、ブランビートたちもトライアの攻撃を見切っているめ最小限の動きで攻撃を交わしていた。

無駄な体力を使わず、相手の攻撃を交わすことだけに専念をしている様子だった。


それはエイミとセイラにも、その攻撃を見せているようでもあった。

二人はどんな力を持っているのかわからなかったが、不思議な力がこの戦況が大きく変わる力であると信じていた。






「くそがっ!ちょこまかとうっとしい!!!」





トライアは自分の攻撃が当たらないことに、我慢の限界を超えていた。










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