3-224 東の王国28







「……お前たちは、死んでもらおうか!!」






その言葉と同時に発せられた瘴気は、圧力の風となり四人に襲い掛かっていく。

黒い瘴気に触れた蒼々とした草木は、一瞬にして枯れ腐っていった。



今まで抑えてきたものを一気に解放した様で、これまでとは違う未知なるもの気配を感じる。




「むぅ……これほどとは!?」






思わずエンテリアの口から、驚愕の言葉が漏れる。


その言葉を耳にしたエイミとセイラは、エンテリアの後姿を見つめる。

それは、自分たちが”人にはない力”を手にしているという情報をこのタイミングで伝えるべきかどうか。




しかし、突然こちらから告げても、それがこの状況でどのくらいの力になれるのか、実戦経験のない二人には想像もつかない。

万が一、トライアに全く通用しなかったり、二人の力よりも劣る近れであれば恰好が付かない……それだけでなく、エンテリアとブランビートが助けようとしてくれた命を無駄にしてしまう可能性も充分に考えられる。





「あ……あのぉ」






声を掛けようとしたその時、トライアから放たれた瘴気が収まった。


自分の首に手をかけクルクルと二回ほど左右に頭を回し、準備運動のような動きを見せた。





「喜べ、久々に俺の力を見せてやるよ。まぁ、手加減はあまり上手くないことは初めに言っておくわ」




言い終えたあとトライアは何かを思いついたように”くっくっくっ”と笑い、”どうせこれから死ぬことには変わりないから関係ないか”と独り言を口にした。




トライアは後方に跳躍し、四人とさらに距離を開けた。

その行動にブランビートは危険を感じ、他の三人の盾となるべく前に出て防御をしていたがエンテリアと対照的に傷やへこみのない盾を構え備えた。





「わっはっはっ!……いいぞ、その表情。恐怖を必死に抑え込む、俺の好きな顔だ……それじゃあ、いくぞ」




その間にも、トライアが造り出す瘴気の球は直径が十センチほどで止まっているが、その分内圧が上昇しているのが目で感じ取れる。



準備が整ったのか、トライアは粘着性の高い笑いを口元に浮かべる。






「……お前たちにこれが耐えられるか?」






トライアは黒い球を、ゴムボールのように掌で押しつぶした。




「そらよ!!!」





トライアが両掌を前に向けると同時に、いままで暴れることの許されなかった瘴気は押し込まれた圧力に反発するかのように一気に流れだす。


それらは十数本の槍状の形となり、ステイビルたちを狙って襲い掛かる。






(お願いだ、頼む盾よ!今こそ、その力を!)





ブランビートは腕に嵌めた盾に思いを込めるが、盾はそれに反応を見せる様子はない。







「ダメだ、エンテリア……発動しない!?」



「それは、マズい!?あれを防ぐにはその力が……!?」







その間にも黒い槍と化したトライアの瘴気は、四人の人間に襲いかかってくる。

どう見ても剣で弾いたりすることはできる数ではなく、何かの大きな盾や板で交わすことが正しい行動だ。




ブランビートの盾は、特別な盾であることは推測していた。

トライアの攻撃を受けてもエンテリアの盾とは異なり、その形状はダメージを負っているようには見えない。

さらには、特殊な力が備わっているのだろう。


だが、その力は発動しない。

その力が発動した場合でも助かることができるのかわからなかった。



エイミは迫りくる黒い槍からこの身を守ってくれようとする二人のさらにその前を意識して両手を突き出す。





「無駄だ!そんな小さな盾では、全てを防ぎきることなどできるはずもないだろ!大人しく串刺しになれぃ!!」





トライアは唾を撒き散らしながら、いままでに見せたことのない獣のような笑い顔でその瞬間を楽しみに待っていた。





しかし、その耳障りな笑い声は一瞬にして消えていく。

目の前にはいままでそこになかった壁がそびえ、全ての黒い槍を弾き飛ばしていた。




「な……なんだ、これは!?」




声を上げたのは、トライアではなくブランビートだった。


黒い槍が直ぐそこまで迫った時、目の前が突然闇に襲われた。

始めは闇の攻撃を受けたことにより、闇の中へとのみこまれてしまったのだと思っていた。

闇の次に襲ってくるのものは痛み。それに備えて息を止め奥歯を噛みしめて、痛みを堪える準備をする。




始めにチクリとしたものを感じたが、それ以降はそれはいつまで待ってもブランビートの脳に痛みの信号が届くことはなかった。



ブランビートは現状を確認するべく、堪えるために閉じていた目をゆっくりと開く。

まだ闇に襲われていた状態だったかが、次第に目が慣れてくると目の前にいままで無かった壁がそこに出現していた。






「ふー……間に合ったようね」




「エイミ、油断しない!……エンテリアさん、ブランビートさん。ここからは、私たちも手を貸します……だけど、初めてのことなので上手くよけてください」





「え?……あ、あぁ。ワカッタ!」





最初に聞こえた言葉が今までと異なり、なんとも頼りなく感じたがこの状況を理解してくれたと判断した。





「いいですか?壁を外しますから、警戒してください!」




次はエイミからの掛け声に、前衛の二人は驚きよりも危険だった現実に引き戻された。





エイミは、エンテリアの合図で土の属性で作った壁を解除した。

そこには、不敵な笑みを浮かべていたトライアの姿があった。









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