3-30 エフェドーラ家のルール
「え?」
ハルナは久々に間違われたことを驚いた。
この世界に来た当初、ウェンディアという女性に間違われていたことを思い出す。
老婆は、自分の勘が外れたことに気付き訂正した。
「おや、違ったのかい?……ほんっと私も落ちぶれたもんだね。人の顔を間違えるようになるなんて」
老婆は、今まで間違えたことなどなかった。
外れていそうなときには伝えなかったし、人の顔を見極めてここまでエフェドーラ家を保ってきた自負もあった。
外したことによる、ショックは隠せない。
「でも、この子。ティアドさんの娘にそっくりなんですよ……だけど、母親は一目で違うってわかってましたけど」
落ち込む老婆に対して、エレーナがフォローをする。
確かに、ウェンディアには似ていたのだ。
「やっぱりそうなのかい……だが、ティアドの娘は”ウェンディア”だろ?違うよ、私が言いたかったのは”カメリア”の方じゃよ。確か事故にあって亡くなったとは聞いているが、まさか娘がいたかと思うほど共通点や雰囲気が似ていたからてっきり……」
「そんなに似てますか?その、カメリアさんに……」
「そうじゃの、若い頃のカメリアの面影があるかの。わしも十分当時は若かったがの!がっはっはっはっはぁ」
「ちょっと、祖母様!その下品な笑い声はやめてって、いつも言っているでしょ?」
「おぉ、そうじゃったな。年を取るとつい物忘れがひどくてのぉ」
孫に言われてしょんぼり反省する老婆は、どこでもいっしょだなぁとハルナは思った。
「やっぱり、何かつながりがあるのかもしれんな……」
ステイビルが、つぶやいた。
「私もそう思います。これだけスプレイズ家の者と容姿が似ていることや、ハルナがしている精霊の指輪のことも何かある気がしてならないんです」
エレーナがステイビルのつぶやきに対して賛同する意を示した。
「ハルナさんって……なにかあるんですか?」
ノーランは人外の者を見るような目で、恐る恐るハルナのこと見つめる。
「ちょっとノーランさん……そんな目付きで見るのやめてください。もぅ、エレーナも!」
エレーナもノーランと一緒になって、ハルナのことを見つめていた。
ハルナに指摘され、二人はケタケタと笑い合った。
そして、表情を戻してエレーナがハルナのことを説明しようとした。
「実はハルナは……」
――バターン!!
勢いよく、扉が弾き飛ばされるように開かれた。
「おい、ノーブル!!祖母様に会わせろ!!お前は本家でもないくせに、偉そうにしやがって!」
その男は先ほどハルナたちが入ってくる前に、ノーランの父親、”ノーブル”に追い出されていた男だった。
「なんだい、騒がしいね。……お前は長女のところの婿どのじゃないかい?」
自分のことを呼ばれた老婆が、ノーブルの後ろからその男に声を掛けた。
「おぉ、祖母殿!本日は、ご相談があり参りました!……ぜひ、私に融資をして頂きたく!」
「融資って、お前。この前、長女から金貨五枚渡されていたじゃないか。あれはどうしたんだい?」
男はそのことを言われ、ギクッとした顔になる。
その話しを誰にもしていることはなかったはずだが、何故か老婆は知っていた。
「い……いや、あれは……じゅ、準備金として用意してもらって」
「ふーん、そうかい。それで、今回はいくら融資して欲しいんだい?」
「あと少しなんです。あと少しで新しい鉱山が発見できるんです!頼んでいる知人が、その山を掘るために少しだけ足りない様なんです……だから」
「あぁ。分かった、分かった。……で、あといくらいるんだい?」
「あ、あと金貨十枚程……」
「お前さんは、エフェドーラ家のルールを長女から聞いているのかい?」
「……ルール、ですか?」
男は初めて聞いたことのように、ポカーんと間抜けな口を開けた。
その男がこちらからの質問に対して返してきた質問をマーホンが答える。
「そう、エフェドーラ家のルールのうちの一つよ。”エフェドーラ家同士で融資を受ける場合は、その証を掛けなければならない。返却期限は三日”というルールよ」
「な、なんだそりゃ!?は、初めて聞い……」
「お前が持っていった金貨五枚はな、長女が祖母様に借りに来たものだ……そして、その返却期限は今日だ」
「??……その期限を過ぎるとどうなるんで?」
「エフェドーラ家を示す証は没収。その日から、我々とは”無関係なエフェドーラ”になる」
――!?
男は、ノーブルの最後の言葉の意味を理解した。
それが、”破門”を意味するということを。
男の顔は、徐々に青ざめていく。
エフェドーラ家の信用に置いて借り入れていた借金が、いくつかあった。
破門となれば、一気に取り立てに来ることは間違いなかった。
それ程エフェドーラの名前は、市場に置いて信頼度が高かった。
「ま……待ってくれ。金は用意できる、もうすぐ鉱山が手に入るんだ」
「調べたところによると、お前の言っていた山の発掘許可は王国には提出されていないよ」
「そ……そんな」
「お前は、一度でもそいつらの顔を見たことがあったかい?その山をその足で見に行ったことはあったのかい?」
「い、いや。担当者は忙しいと言って、代理の者が来てたし、山は危ないからって近付かない様に……と」
「最後に始めて会うが、お前に教えておいてやろう。”本当に儲かる話は誰にも言わずに自分一人でやっているもの”さ」
ステイビルは、その男に対して言葉を投げかけた。
「……ま、まさか」
「お前はね。騙されたんだよ、そいつらにね。長女もお前の頼みだからといって、自分の身を削ってまでお前の言うとおりにしたんだ。今度はお前が責任を取る番だよ」
男は両ひざから崩れ落ちて、涙をボロボロと流す。
ここに来てようやく、自分の過ちに気付いたようだった。
「た……助けてください、お願いします!お願いします!!」
「私も鬼じゃないさ……最後にチャンスをやろう」
男は、老婆の顔をハッと見上げた。
「借金は必ず返さなければならない、これついては手助けしないよ。助けるのは”家族”だ。お前と別れたら長女と娘は、エフェドーラ家に復帰させよう。ただし、二度と長女たちに会うことは許さないからね。もしくは、家族と一緒に過ごせるがエフェドーラ家を破門となり共に苦労していくか……さぁ、どっちにする?」
男は理解した、どちらを取っても”自分”にとっては地獄が待っていることを。
男の口は開いたまま、何かを話そうと少しだけ動いている。
が、その言葉は口に出せなかった。
「どうした、早く答えないか!?」
ノーブルが声を荒げて、答えを催促する。
男は目を開いたまま涙を流して、答えた。
「妻とは……別れ……ます」
「ふん、そうかい。帰ったら、早々に準備をしてモレドーネを出ていくがいいさ。もう、娘たちは、私の家に引き揚げさせる。あんたは明日の朝までに出ていくんだね、そうすればお前の情報は誰にも流さないよ。……必死に逃げるんだね」
そう言って老婆は、ポケットから銀貨一枚を投げて渡した。
男はその金を両手で大切にすくい、震えながら握りしめた。
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