3-29 祖母様






マーホンはノーランの問いに対して頭を縦に振り、これで自分の名前に嘘をつかなくてもよくなったことにホッとしていた。

それと同時に、嘘ついたことに対する責めを受けることになるであろうと目を瞑り、胸の奥を強張らせ身構えた。




だが、いつまでたってもノーランから嘘をついたことへの責めの言葉は聞こえてはこなかった。




――?



ゆっくりと目を開けて、マーホンは目の前を見る。



すると、ノーランも胸の前で手を組んで目を瞑っていた。





「あ、あの。ノ……ノーラン……さん?」




「は、はい!?……あ、あの、本家様への今までの無礼、誠に申し訳ございませんでした!」





どうやら、ノーランも本家に対しての失礼な発言をどこかで気にしていたようだった。


ノーランは”メイルと名乗る女性が、マーホンであればよかったのに……”と、旅の後半は常に思っていた。

だが、今までの本家に対する失礼な言が全て聞かれてしまっていることになる。

小説のような出来事はそうそう起こりえないだろうと、自分の中で言い聞かせて処理していた。



が、今回はノーランの中で最も最悪な方向へと事態が転がっていってしまったのだった。






マーホンはゆっくりとノーランの近くに向かって歩いて行く。

黙って事態を見つめるハルナたちも、この先の展開を見守っていた。




「ひっ!?」




ノーランはマーホンから手を握られて、驚きの声を挙げる。





「ぷっ。なんて声出してるの、ノーランさん。できれば今まで通り仲良くやっていきたいんだけど……。もし、あなたが名前を偽ってたこと怒ってなければ……」



ノーランはその言葉に驚いて、目を見開く。




「お、起こってなどおりません!?こ、こちらこそ、よろしくお願い致します、メイル……いや、マーホン様!」



「もう、名前は本当の名前でもらいたいんだけど?それに様なんか付けなくてもいいのよぉ……」




その言葉に、ハルナもエレーナも勝手に頷く。

この数日間で、ノーランの人柄もよく分かったし一緒に過ごせて楽しかった。

だから、ここから畏まれるよりも今まで通りに接してくれた方がハルナたちは嬉しかった。





ノーランは父親の顔をみて、その指示を仰ぐ。

父親も、ヤレヤレといった感じの表情をする。




「わ、わかりました。マーホン……さん」



「そう、それでいいのよ。これからもよろしくね!」






マーホンは、今度こそしっかりと両手を握りノーランに挨拶をした。






「……ということは、もう王選は始まっておるのか?」




奥から、杖を突きながら前かがみで歩く老婆がこの場に姿を見せた。





「「祖母様!」」




マーホンとノーランが、その老婆の姿を確認した。




「ひさしぶりじゃの、マーホン。お前の父親、ワシの息子は元気にしておるか?」





「はい、今は王国の町を離れどこかで自由にやっております。年に数回顔を見せに現れますが、今はどこにいるかわかりません」






「ほっほっほっ。あいつは昔っからああいう性格の子じゃったからの。じっとしておるのが苦手なようじゃ。じゃから本家の役割はお早々に前さんに譲ったのじゃろうて」





「すみません、王国のことで手一杯となっておりましてこちらにお顔を出す機会も減ってしまって」




「いいのじゃよ、マーホン。その若さでお前はシッカリやっておるわい。現にお前は、後ろの王子ともよくやっておるではないか」




「王子?どちらの方ですか?ま、まさかアルベルトさまが!?」




ノーランは顔を真っ赤にして、興奮する。

自分の好みの男性が、実は国の王子様だったなんて。

物語のような、展開にノーランの期待は高まる。







「私のことを知っておるのか?老婆よ」





ステイビルは、話しかけられた老母に自分のことを確認した。





「もちろんですよ、ステイビル王子。よくご存じなのはあなたの御父上の方ですがね」





ノーランはまたしても知らない人物の名を聞いて、目を丸くする。

が、今回はマーホンのこともあり理解は早かった。




「父上だと?それはどういうことなのだ?」





「それは……」




老婆の話によると、前回の王選の際にもこのエフェドーラ家は協力をしていたようだった。

具体的な内容は当時の王子からは聞いてはいないが、王選のためにここによって何かを探していたという内容の話しを告げた。





(やはり、ここに何かあるのは間違いないな……)






ステイビルは、心の中でこれから合わなければならない神々とこの町に何らかの繋がりがあることを確信した。








「となると……そちらの女性のふたりは”精霊使い”かな?」




「ふーん……え、精霊使い!?誰が_?」





ノーランは、また新しい情報に対して困惑した。




ハルナたち自身は精霊使い本人であるためさほど驚きはしないが、この世界では精霊使いはよく物語にも登場する人物で、限られた女性しかなれないという憧れであり特殊な職業だった。



まして、モレドーネのように主要都市から離れて暮らしている国民には、滅多に出会うこともない遠い存在だった。






「お主……もしかして、アーテリアの娘か?」





老母はエレーナを見つめ、自分の記憶と一致する人物の名前を呼んだ。





「え?うちのお母様もここに来たことがあるんですか!?」



「もちろんじゃよ。お前の母も、王選に参加しておったんじゃろ?……にしても、若い頃のアーテリアにそっくりだねぇ、声もあの頃のまんまじゃないか」





エレーナはそう言われて、自分の顔をペタペタと触って確かめている。






「おや?お前さんは……」





老婆はハルナの顔をよく見るために、近づいてくる。

その雰囲気に押されて、ハルナは少し後ずさる。




距離を開けられると顔がよく見れないため、ハルナの両肩を持ってその顔を見つめた。





「お前さん……スプレイズの……娘……か?」









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