3-31 受け継がれる歌





「いまあの娘たちここにいるんだって」



「そうなの?なんでこんな辺鄙なところにわざわざ……」



「そんなの、私が知るわけないじゃない!?それよりも、ハルナっていう娘を何とか懲らしめてやりたいわけ、あたしは!」



「あぁ、わかったわかった!……っんと、性格変わってなくてホッとしたわ……





ヴァスティーユは、後ろ頭をポリポリと掻きながら誰もいない暗闇の町の中を進んで行く。



二人は、人の格好をして旅する姉妹を装っていた。

実際に入る時はそこまで細かい設定を気にしなくてもすんなりと通ることが出来た。


仕事のしやすさを感じ、今日はひとまずどこかに泊ることにした。


ヴェスティーユはそんな必要はないし金の無駄だと騒いでいたが、そこは最初の設定の旅人の姉妹と説明するが我が儘な妹は言うことを聞かなった。


最終的にはヴァスティーユは我が儘を言う妹を叱り、姉の意見を押し通すことに成功した。















その数時間前……

場所はエフェドーラ家の中――








「申し訳ございませんでした、ステイビル王子。変なところをお見せしてしまって……」





老婆に代り、ここはエフェドーラ家の代表としてマーホンがステイビルに一族の騒動を見せてしまったことを詫びる。





「構わんよ。ああいう人物は知識や実力が無いのに、楽だけはしたがるからな。そういう人間があの手の詐欺に引っ掛かるのは、いつまでたってもなくなりはせんよ……それよりも」




「はい。もちろん、分かっております」






マーホンはそう告げて、自分たちがここに来た理由を忘れていないことを告げた。



そして、マーホンは老婆の方へ向いて話しかけた。





「祖母様、お聞きしたいことがございます」



「何だい、珍しいね?お前でも知らないこともあるんだねぇ」





老婆はノーランに注意されて、笑い方に気を使ってケタケタと笑った。





「私が幼少期の頃、祖母様に教えて頂いた歌がございます。それがどうしても思い出せなくって……」



「歌……かい?」



老婆は、さも記憶にないといった行動を見せていた。

エレーナは、これは部外者に聞かせてはいけない内容なのではないかと感じ、部屋を出るようにハルナたちに促そうとした。




「あ、それって。『ディバイス山脈が赤く染まり、町の畑が金色に包まれ……』っていう歌ですか?」






「あ、そうそう!それなの、ノーランさん知ってるの!?」




「もちろんですよ、わたくしもこの歌を祖母様に聞いて育ったんですから!」



「それで、その歌は我が家に代々伝わる歌と、母様からも聞いております。この歌は何か重要な意味が含まれているのではないかと思いまして……」





そこからは、話しの続きをステイビルが引き継いだ。




「いまわれわれは、王選の中にいる。これから、おとぎ話のような神々に会って加護を受けてこなければならないのだ。……だが、その存在がいるというのは判っっている。しかし、どこからどのように探していけばよいか、全く見当が付いておらんのだ。そこで、今回このマーホンに頼んで何か可能性でも見つかればと思いこちらに参った次第なのだ」





ノーランはまたしても、呆けた顔でステイビルの話しを聞いていた。

普段ならば、会うことも叶わない人物が目の前にいるだけでも正常な精神状態でいられないはずなのに、エフェドーラ家の歌が将来の王となるべく人物を左右するほどの意味がある可能性がある。



すでに、情報と現実が追いついていない状態だった。




そんな顔を一目見て呆れた老婆が、ステイビルの言葉に返した。






「そうでしたか……事情は理解しました、ステイビル王子。あの歌の意味ですが……」




その答えを前にして、この場、張り詰めた空気が流れる。

老婆を前にした一同は、老婆のことをただ見つめ言葉を待っていた。




「あの歌の意味は……残念ですが、何もございません」





「「えぇ!?」」





その答えに思わず、ノーランとマーホンが声を挙げた。






「だ、だってあの歌は代々伝わる歌だって……」





「あんなのは作り話じゃよ。この歌はワシの母様が作ったんじゃ。母様は、エフェドーラ家に嫁ぐ前は歌うたいじゃった。だもんで、そういう歌をよく作って聴かせてくれたもんじゃった」




「でも、まぁ代々ってい程長くはないけど、伝わってはいるわね」







エレーナは呆れた口調で、感想を述べた。





「そ……そんなぁ。申し訳ございません、ハルナ様、エレーナ様、ステイビル様」





マーホンは三人に向かって、深々と頭を下げた。



その様子を見て、ハルナがマーホンの肩に手を当ててマーホンの上体を起こした。




「いいんですよ、最初から可能性は低いけれどもっていうお話しだったじゃないですか。それに、その結果ノーランさんも助かったわけですし!」




「そうだ、マーホン。ハルナの言う通りだ。我々は闇の中て探りで道を探さなければならない状態だったのだ。他の場合でも、当然こういうこともあっただろうよ」



その二人の話しを聞いて、エレーナも優しい目でマーホンを見つめ、うんうんと頷いていた。






「皆さま……」





「確かに、我が孫娘のノーランを助けてくれたのだ。そのお礼はしなければなるまいて。のぉ、ノーブルや」




「左様でございますな、母様。皆さま、もしよろしければ、本日……いや、モレドーネの滞在期間中はこの屋敷をお使いになられてはいかがですかな?」





「それは助かる。馬車には食料も底を付いていたし、これから宿を探すのも手間だしそんなに宿もなさそうだったしな。……よろしく頼む」







ステイビルがそう告げて、ハルナたちはエフェドーラ家にお世話になることが決まった。







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