2-138 東の国、再び







「ハルナ様、準備はよろしいでしょうか?」



「はい、マーホンさん。大丈夫です」





ハルナは、マーホンの後を付いて馬車の待つエントランスまで向かっていく。


今回は、王選に参加する精霊使い一名に対して馬車が一台用意されていた。

そこには本人以外にも、付きその二名も同伴することになっている。





「ハルナ、おはよう。昨夜はよく眠れた?」



「おはよう、エレーナ」





二人は挨拶を交わす。






「ハルナさん、おはようございます!」






クリエがハルナの傍に寄ってきて、挨拶をする。

しがし、マーホンがその様子を面白くないといった顔で見ていた。



その視線に気付いたクリエは、ハルナと腕を組んでマーホンを挑発する。




困った顔で見つめるハルナに、エレーナは静かに首を横に振った。







「ちょっと、クリエ。朝から何やってるの!?ハルナさん困ってるでしょ?」



「あ、ルーシーさん、ソルベティさんも。おはようございます」






ハルナは、ルーシーの登場によってハルナの周りの張り詰めていた空気が緩むのを感じる。






ルーシーに嫌々引き剥がされるクリエは、マーホンの目線を外さない。


二人の間には”視線を外すとやられる”といった野生の雰囲気が出ていた。






「何をやっているのだ、お前たちは?……そろそろ出発するぞ!」



「「はい!」」






後から来たハイレインの言葉に、一同は返事を返しそれぞれの馬車に乗り込んだ。



全員乗り込んだことを確認し、馬車はお城に向けて走り出す。










ハルナは直前の不要な気遣いで、やや疲れた顔で黙って座っていた。





「ハルナ様も、そろそろどなたが”良い”のかお決めになりませんと……」



「ちょっと、メイヤさん……止めてくださいよ!?」






そんな焦るハルナの反応を見て、メイヤはいたずらに笑った。






「メイヤ様。ハルナ様がお困りですよ?それに、個人の趣向について他人がとやかく言うのは無粋ではありませんか!?」



「そ、ソフィーネさん!?わたし、そんなことで困っているんじゃないんですけど……」






ソフィーネの的外れなフォローに対して困惑するハルナをからかうメイヤ。

二人の競い合うような険悪な空気のまま、馬車はひたすらお城に向かって走り続けた。



そうこうしている間に、一同は城に到着した。

そして、従者に案内されるがまま玉座の間に通された。




選ばれた精霊使い達は、玉座の前で横一列に並んで座った。

後ろには、それぞれの付添い人が並んでいる。

そのまま王の入室を静かに待つ。




そして、号令と共にその人物は現れた。






「――グレイネス・エンテリア・ブランビート王のご入場である。一同敬礼!」






騎士団長に続き、王が入室する。その後ろを女王と二人の王子が続いて入ってくる。





グレイネス王は玉座に着き、四人の精霊使いを見渡して敬礼を解くことを指示した。






「……四人の精霊使いとその他の者たちよ。この度はご苦労だったな」







その言葉に四人の精霊使いは、王に頭を下げた。





「王子たちからも話しを聞いておるが、本当によくやってくれた。そのお礼として、後程報酬を与えるとともに王宮内の施設を自由に使うことを許そう。騎士団や王宮精霊使いの者たちにも伝えておく、自由に使ってくれ。もちろん、後ろの者たちも……だ」






再び、一同は王に対して頭を下げる。




王家の横に立つ騎士団長の、ヴェクターが告げる。





「それでは、この度はご苦労であった。二週間後に王選に関する取り決めを行うゆえ、今はその疲れを存分に休めて欲しい。その間は自分の町に戻ってもよい……何か質問はあるか?」






王宮精霊使い長のシエラが辺りを見回し、特に質問が出ないことを確認してヴェクターに合図する。






「それでは、これにて解散する。……誠にご苦労であった」





グレイネス王がそう告げて、この場は終了した。



そして二週間後に再びこの場に集まり、今度は東の国の王選が本格的に始まりを告げることになる。
















「……母様。ただいま戻りました」





ヴァスティーユは、とある家部屋の椅子に座って背を向ける人物に声を掛けた。





「……ヴァスティーユかい?西の国はどうだった?それとフェルノールの奴はどうした?」





その人物はまだ背中を向けたまま、結果だけを確認しようとする。

ヴァスティーユは顔も見せない”母様”に不満を感じるが、そのことは表に出さずに聞かれたことだけを報告した。






「そうかい、フェルノールは消したのかい。あの子も、不憫な娘だったねぇ。本体を完全に乗っ取る事が出来ていれば……あぁ、やっぱりかわいそうな子だ」





その言葉は本当の感情なのか、ただの口先だけなのか。

ヴァスティーユは、自分の母が何を考えているのかがわからなかった。


考えがまとまらないまま、その場に立ち尽くしているヴァスティーユに話しかける。






「おや、まだ居たのかい?もういいよ、下がっても」







そう言われ、ずっと背中を向けてヴァスティーユは見ていない人物に頭を下げて退室した。






「ヴァスティーユ、戻ってきたんだ。……お帰り」






ヴァスティーユの目の前には、見知らぬ人物が立っていた。

だがその相手は、馴れ馴れしい態度で接してきた。






「……誰だお前は?アタシはいま、ものすごく機嫌が悪いんだよ。馴れ馴れしく話しかけてくると、消すぞ?」



「少し会わなかっただけで”妹”を忘れてしまったの、お姉さん……?」



「――あなた、ヴェスティーユ?無事だったのね!?」





ヴェスティーユはモイスティアでラファエルに消されかけ、ある商人の一家に乗り移って生き延びたことを話した。







「あの、ハルナっていう子がラファエルと繋がっている!?」



「そうなの、ヴァスティーユ。だから母様はあの娘を気にしているんだと思うんだけど」



「ふーん……そうなのね」






ヴァスティーユは上でを組んで、その話しを精査する。






「とにかく、あの娘は……邪魔ね」



「ヴァスティーユ、ダメよ。あの娘は消してはダメだって母様から言われているじゃない!?」



「でも……本当にそうなのかしらね?」



「……?」





ヴェスティーユは、その言葉に頭をかしげる。






「そろそろ東の国でも王選が始まるらしいから、今度は二人で行ってみない?」






ヴェスティーユは、ヴァスティーユからの提案を受け入れた。

そうして二人は屋敷の地下に消え、久しぶりの再会を楽しむことにした。






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