2-137 同じ世界の人物






「フユミが亡くなって数ヶ月経った頃、フユミのことを訪ねてきたものが居たよ」



ハルナは、その訪ねてきた人物がこの世界の人なのか、それとも同じくハルナたちのいた世界から来た知っている人物なのか気になった。




「で……その方は、どんな方でした?」




マギーは腕を組んで、しばし記憶を掘り起こす作業に没頭した。





「うーん、思い出せないねぇ……なにせ随分と昔のことだからねぇ」





マギーは、思い出せなかったことを申し訳なさそうにハルナに詫びた。





「いえ、無理を言ってすみません。何か、記憶や記録に残っていればと思って」



「ハルナも、フユミと同じで違う世界から来たんだろ?そりゃ、同郷とのつながりを探したい気持ちは……あ」



「ど……どうしました?」



「そういえば、宿帳があったね!そこに名前が載ってるかもしれないよ!?」




マギーはそういうと、山を下り始めた。

ハルナも急いで、マギーの後を追っていく。



何故だか下っていくマギーの速度は、ハルナが追いつけないほど早かった。




マギーは宿に付き、自分の部屋に戻っていく。

そして、大きな箱の中から紐で縛られた紙の束を解き、本のようになっている紙を一束ずつ確認していく。


マギーはある時期の冊子に目を止めた。

手にした冊子を開き一枚一枚ページをめくり、その内容を確かめていく。



「これだよ……ハルナ、見てごらん。他の国の人物に見せてもなんて書いているか、さっぱりわからないんだって。もしかして、ハルナならなんて書いてあるか読めるんじゃないかい?」




近くのものを見るための眼鏡を外して、対象のページを開いたまま手にしていた冊子をハルナに手渡した。


ハルナは手渡された冊子を自分の方に向け、マギーが指さした場所をみた。





≪こんにちは おひさしぶり (ヴァスティーユ)≫






「こ、これは!?」




そこには氏名の欄に、この世界に来て初めて見た”ひらがな”で言葉が書いてあった。




「……なんて書いてあったんだい?」




「マギーさん、これは私たちの世界の文字なんですが、ただの挨拶でした。冬美さんのことを探していた人はあのヴァスティーユだったみたいですね」



「そうかい……それは残念だったね。本当はこっちにきた仲間が良かったんだろ?」





マギーは、ハルナのことを気遣った。

自分では気づかなかったが、それほどハルナの表情は落胆していたようだった。





「そ、そんなこと。……すみません」





マギーは黙ってハルナの手を取り、自分の胸元に引き寄せる。

それによって、ハルナの顔はマギーの胸の中に沈み、優しく身体を抱きしめてあげるとハルナは声を殺して泣いていた。










そして、数時間が経ちいよいよ出発の時がやってきた。




「マギーさん、ボーキンさん、スィレンさん、エルメトさん、そしてアーリスさん。お世話になりました」



「いやいや、こちらこそお世話になりっぱなしで申し訳ありませんでした」





エレーナのお礼に、ボーキンが答える。





「また是非いらしてくださいね!」



「絶対また来ます!」





クリエとアーリスが手を握り合い、再会の約束を交わした。




「それでは、そろそろ出発するか?」





シュクルスの合図に、みんなが一斉に頷いた。





先頭にはコボルトの長が同行し、山の中の進行を手助けしてくれた。

ハルナは少し登ったところで後ろを振り返ると、宿の裏の山が見えたが冬美の墓は建物の影に隠れて見えなかった。



その様子を見たエレーナが、ハルナを心配する。

だが、問題ないと告げ、再び前を向いて山を登り始めた。






日が暮れる前に一同は東側のふもとに、無事到着した。

そこには、あらかじめコボルトの伝達によって事前に知らせれていたドイルの兵が待っていた。



「お帰りなさいませ。ステイビル王子、キャスメル王子」


兵たちは、左右に並びステイビルたちを出迎えた。


「ご苦労、心配かけてすまなかったな」



「いえ、王子たちが無事で何よりでごさいました。王選の精霊使いたちもご一緒でしたし逐一報告がありましたので問題ございませんでした」



実は、メイヤが常に状況を東側に報告をしていたようだった。

さすがは諜報員だけあって同じ仕事のソフィーネ以外、誰もそのことに気付いたものはいなかった。



ハルナたちは、一晩この場所で過ごした。

翌朝全員で撤退することになり、大きな問題もなく無事に東の王国に戻る事ができた。













その数ヶ月後、西の国から連絡が入る。

次期王は、カステオに決定したとのことだった。


まだ、現王が在位しているため、カステオはその王が引退してからになる。


その先のことについては、今では何も不安はなかった。

あのカステオなら立派な王になり、国を治めてくれると信じている。


そして東の国とも友好関係を結び、お互い協力していくことになるのは、随分と先の話だった。



ニーナに関しては、カステオの補佐という位置付けで王政に関わることになる。

カステオに伝え辛いものは、ニーナの元に集まってくるという構図だ。

そこからカステオへ”ニーナからのお願い”という補正付きで伝わることにより、話しが通りやすくなっていたのだった。










時間は戻り、東の国に帰ったハルナたちは数日の休暇をもらい身体を存分に休めた。




――コンコン




「はい、どうぞ」



「ハルナ、随分と大変だったそうだな」



「ハイレイン様、ご無沙汰しております」



「うむ、よい。それより、王宮より連絡が来ておるので伝えに来た。”明日の十一時、精霊使い達は王宮に集まるように”とのことだ」



「わかりました、あのエレーナたちにも?」



「それは他の者たちから伝えるように言っている。では、明日その前に呼びに来るので送れぬようにな」



そう言って、ハイレインは扉を閉めた。






(同じ世界の人物……か)



ハイレインは、そうつぶやいてハルナの部屋から遠ざかっていった。







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