2-136 食堂




ボーキンの進退はステイビルから聞いていたが、改めてボーキン自身の口から説明したいとのことで、一同は食堂に集まった。



そして一通り経緯を説明し、その内容がステイビルから聞いたものと内容が同じであることを確認した。



「この度は、西の国での滞留などステイビル様たちには大変失礼なことをしました……罪は償うつもりです、この命でも構いません」



「ボーキン、何いってるんだい!?せっかくこの宿を盛り上げていくって話しをしていたところじゃないか!それに、この王子はそんなことしやしないよ。もう、充分に罰は受けたんだ。これからはうちの旦那に代わって、自分の人生を過ごしておくれ……」




マギーはボーキンの前に立ち、強く訴えかける。

その隣で見ているエルメトとアーリスも、マギーの言葉に頷いていた。





「そんなことを言われると、なぁ。ここで罰を与えると、私が悪人になってしまうな……実際、悪いやつなんだが」





最後のセリフに、この場の視線が一斉にステイビルに集まる。




「ステイビル兄、少しは空気を読んでよ……誰も反論できないんだからね」






キャスメルの言葉に、固まった空気が緩んでいく。





「ふん。私なりの冗談だったのだがな、少しキツ過ぎたようだ」



「……ということは、ボーキンさんへの処罰は?」



「心配するな、ハルナ。このボーキンに対して、何か罰を与えることなど考えてはおらん。ただし……」



「――ただし?」



「これは命令というよりも、お願いしたいのだが。この山の警備や連絡部隊としてお願いできないか?外部発注扱いになるが、キャスメルが言うには少しは予算を取れるというのだ。こんなことを言うもアレだが、収入は少しでもあった方がいいだろ?」




「す、ステイビル様……いいのですか?」



ボーキンは、驚きの声でステイビルに確認した。




「あぁ。このルートに問題があると、東の国の経済にも少なからず影響が出るからな。それとコボルトも話しをつけて欲しい。連絡網としては優秀であったし、ここで同盟を継続させておけば山越えのリスクも減るであろう?」





『うむ、その話し悪くないな』




その話を聞いていたのか、コボルトの長が姿を見せる。




「コボルトさん、どうしてここへ!?」




クリエは自分が、鈴を鳴らしていないはずなのにここに来ていることに驚いた。



『兄の黒いシミがな、随分と消えたのだ。今では前の状態にまで戻っている』





「それは良かったですね!それじゃ帰りにあの氷を溶かして……」




「それはダメなのよ、クリエ。あれはゆっくり溶かしていかないと息を吹き返せないの」




「え!?そうなんですか?どのくらいで溶けるものなんでしょうか」



「そうね、あのくらいだと三か月くらいは掛かるわね。日光の温度で時間をかけて溶かすの。火などで炙るとダメみたい。そして、氷だから割れやすいから、その辺りも気を付けないと……」




『むぅ……そうなのか。だが、兄がそれで元に戻るのであればその手間は惜しくない』



「どうやら、話しはまとまりそうだな。では、ボーキン殿。東に帰ってから、業務内容の打ち合わせをする人物をここに送る手配をする。その際には、ぜひコボルト側からも同席をお願いしたい」




『わかった、用意しておこう』




こうしてこれからのことの話しがまとまり、みんなで食事を採ることにした。

勿論、”おでん”もあった。



しかも、アーリスがおでんの味付けと具材をアレンジしたことにより、マギーやハルナも冬美が作った本物のおでんの味を知る者にとって全く同じものが出来上がっていた。





「なにこれ!この前食べたのものと全然違う!?」



といった後に、マギーに対して失礼なことを言ってしまったとエレーナは詫びた。



だが、マギーは笑って許した。




「いいんじゃよ。エレーナがそういう風に言いたいこともわかる。料理はするが、あたしじゃこんな味はどう頑張っても出せないよ。……ほんとアーリスが来てくれて助かったわい!」




そう言ってマギーは、手にしたグラスを掲げて、反対の腕ではアーリスを抱き寄せて大喜びしている。





食事は随分と盛り上がり、夜遅くまで続けられた。







――明朝


まだ、太陽が昇り切っていない頃、ハルナは宿の裏の山に向かって歩いた。

朝の冷たい空気よりも、坂道を登ったことにより身体が温まった頃に目的の場所に到着した。






「冬美さん……あなたもこの世界に来ていたんですね……会いたかった、一人で寂しかったでしょうね」





手を合わせながら、向こうの世界と同じ方法でお参りをする。

そして、知らない世界で一人きりだったことを思うと、胸が苦しくなってくる。


記憶をなくしていたというのが、せめてもの救いだったのかもしれない。



ハルナは、冬美の墓標の前でずっと祈っていた。




「おや、早いねぇ。……眠れなかったのかい?」




ハルナは後ろから声を掛けられて、閉じていた目を開いて振り向く。




「マギーさん、おはようございます」




マギーの手には、摘んだ花を持っている。

ハルナは、マギーが毎日ここに来ていたのを思い出した。




マギーは三つの墓の前に、一把ずつ花を置いていく。





「あの、冬美さんのこと……本当にありがとうございました」





「あたしは何もしていないよ。ただあの子が困っていたから、あたしは手を貸しただけ。それに、前にも言ったけど私はフユミがいてくれて本当に助かったんだ」




そういうと、優しく微笑みハルナを安心させる。




ハルナは、一つ思い出した。

あのフェルノールが冬美の姿に似ていたことを。




「あの、マギーさん。冬美さんが他の方を探していたり、反対に誰かが冬美さんのことを探していたとかはありませんでしたか?」





ハルナは王宮内で冬美にそっくりな魔物と出会ったことを話した。

魔物の身体は、人間の身体を乗っ取る事ができるとハルナたちは考えていた。

何か冬美と接点を持った事がある人物がいないか、マギーに聞いてみた。




「そうだねぇ……あ!」



「何か思い出しました!?」



「あぁ。あれはフユミが亡くなって数ヶ月経った頃だと思ったが。フユミのことを訪ねてきたものが居たねぇ」







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