第三章 【王国史】
3-1 訓練所
――ガキーン!
道場には剣がぶつかり合う音が響き渡る。
何度も何度も剣と剣がぶつかり合い、時折火花を散らす。
かれこれ、数分間絶え間なく打ち合い体内の酸素が切れかかってくる。
しかし、二人の動きは止まらない。
――ガン!キーン!ガン!
二人の打ち合う速度は、さらに加速する。
その様子を見届ける男の前に置いてある砂時計の砂が、完全に落ち切った。
「――そこまで!」
二人は構えを解き、剣を腰と背中の鞘に仕舞いお互いに礼をする。
「試験の結果の結果、シュクルス・マイトレーヤを騎士団"見習い"として入隊することを許可する!」
「やったな、シュクルス!」
「シュクルス君、おめでとう」
アリルビートとアルベルトが、シュクルスに声を掛ける。
「有難うございます!……でもお二人は正式な団員として認められているのに……少し複雑ですね」
シュクルスは、素直に今の心境を口にした。
二人とも団員の中ではライバル関係になるのだが、ここに至るまでずっと訓練に付き合ってくれていたのはこの二人だった。
今回、王子からの働きかけで特別に作ってもらった”見習い”という地位は、シュクルスの年齢ではあと一年だけ入団に必要な年齢が足りなかった。
しかし、見習いという名ではあるが、実力としては入団試験時と同じものを行っている。
決して手を抜いた実技試験ではなかった。
今回の試験は純粋に、シュクルスの実力で勝ちとったものだった。
これについては、判定員の騎士団長であるヴェクターも認めるものであった。
シュクルスは今までハンドソードを使っていたが、あの剣を託されてから同じ大きさの両手持ちのロングソードで訓練を重ねてきた。
重さは同じくらいなのだがシュクルスが持つと軽く感じるとのことで、普通の剣で練習をすればあの剣も扱いやすくなるであろうと、アルベルトからの提案で練習を重ねてきた。
「これで……やっと」
シュクルスは小さく父親の名を呼んで、自分の目標へと一つ進めることができたことを素直に喜び感謝した。
場所は変わり、王宮精霊使いの訓練所。
ここでは王選に選ばれた四人の他に、ソルベティ、オリーブ、カルディも一緒に訓練をしていた。
事の発端は、ある夕食時のハルナの何気ない一言だった。
「私たちの実力って、どの程度なんだろうね?」
モイスティアや西の国の騒動で、ハルナは精霊使いとしての実力に不安があった。
今までは、魔物や精霊使いでない兵士たちを相手にする場面が多かった。
ヴァスティーユのように、同じような能力を持つ者と対峙した場合、どの程度実力差があるのか。
それに、この四人の中で足を引っ張っているのは自分なのではないか……
その一言を聞いて、ハイレインの髪の奥に隠れた片方の目が怪しく光った。
王選の旅が始まる前に、四人の実力を試させて欲しいと王宮精霊使い長のシエラから打診があった。
だが、ハイレインの考えで西の国へ送ることとなりその要望は、先延ばしにされてきた。
その結果見事に西の国から帰還し、森の中の問題もうまく取りまとめてきてくれた。
これが四人の実力の一端であることは、今回の件で分かった。
がしかし、シエラはそれだけでなく個々の実力も判断したいと反論してきた。
どう断ろうかとも思っていたが、ハルナの一言でハイレインの気持ちは固まってしまった。
(――シエラに預けてみるか)
西の国の王宮内では実力勝負の色が強かったが、東の国ではまだまだ貴族のプライドや派閥間の衝突が多い。
現在ハルナたちが宿泊しているハイレインが任されている施設でも、様々な思惑があった。
現在では、ハルナを気に入ってくれているマーホンの力によってハルナたちに対する嫉妬などはほぼなくなっている。
しかし、王宮精霊使いの中にはいまだにハルナたちの実力を疑う者も多くいた。
ここは四人に実力で黙らせてもらうしかないと考え、ハイレインは王宮精霊使いの中にハルナたちを預けることを決めたのだった。
そうした流れで、ハルナたちは王宮精霊使いの精霊使いたちとその実力を示すことになった。
方式は一対一で、まずは同属性同士で行われた。
まずは一定の距離で対峙し、それぞれの後ろにある十本の柱を守りながら相手の柱を全て壊すという訓練が行われた。
実力が均衡していると決着が着くまでに時間が長くかかってしまうが、それも持久力と自分の作戦について見直す必要があるため、あえて制限時間は設けていなかった。
そして、それは何セットか繰り返し行われた。
「――ここまで。では、ここで一旦休憩とする!」
エレーナは、少し疲れた顔をしているが、ハルナはにこにこしながらロビーの席に座った。
「なんで、あんたはそんなに疲れていないのよ……」
「え?これ、結構楽しくない!?私こういうの大好き!」
「私はね……こんなに同属性同士が辛いとは思わなかったわ」
「同じく……です」
クリエも、げっそりとした表情でハルナの席の隣に座り、ハルナの肩に頭を預ける。
ルーシーは独り言をブツブツとつぶやきながら、頭の中で何度か先ほどの訓練の結果をシミュレートしていた。
「……もう、完全にイジメよね。あれは」
ソルベティとオリーブはコテンパンにやられたようで唇が真っ白になっていた。
そして、あっという間に訓練が終わりもう一度集合の合図が掛かった。
カルディとハルナ以外の腰は重たく、訓練室に向かう足は重かった。
この訓練を三回程繰り返したところで、今日は解散となる。
帰りの馬車の中は、今までにないくらいに静かなものだった。
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