2-126 言い分






数日後、ボーキンの身体からは黒い物が感じられなくなったと、フウカがハルナに告げる。

その隣にはヴィーネも姿を見せており、フウカと同じように目を凝らしているが全くそういう者が見えないらしい。


フウカはそのことを各属性によるスキルの違いだと、ハルナから聞いた言葉をそのまま使って説明していた。

ヴィーネも負けず嫌いの性格からか、理解した振りをして適当な返事をしていた。




「ボーキンさん、お身体の調子はどうですか?」



ハルナは精霊たち二人の不毛な会話を受け流して、ボーキンに今の体調を確認した。




「あぁ、全く何ともないんです……その、黒い物とかが付いていたのも全く分からなかったくらいですし」



「でも、それが身体へ変化をもたらすようになっていれば、相当浸食された状態なんですからね!」



その言葉に、苦い記憶を思い出して反省するボーキン。




「あの、エレーナさん……もう少し、優しくお願い致します。ボーキン様はまだ、病み上がりですし」




エレーナにそう告げたのは、このところ調子が戻ってきたとのことでボーキンに通常の仕事の報告や相談に来ているエルメトだった。





「あら、これが普通よ。そんなに強くいった覚えはないわ。そうよね、アルベルト?」



部屋の奥にいるアルベルトはエレーナの声を余所に、シュクルスとお互いの領地攻め合うボードゲームをしていた。


二人の当面の目標である東の国の騎士団に入るに辺り、各党技術はもちろんのこと、頭脳面でも評価の材料になっている。

いかに戦況を読み、兵士の数と特性を最大限に生かして相手を攻略する。

その勘と知識を養うには、このボードゲームが最適であると、アルベルトがシュクルスにルールを教えて特訓中だった。




ちなみに、ルールはエルメトとボーキンにも教えている。

二人がやっているところを見て、エルメトが興味を持ち始めたのがきっかけだった。


そこからエルメトからボーキンに伝わり、ベットの上での退屈凌ぎで二人も始めだしたのだ。


最初の頃はエルメトが先に始めたことで有利だったが、数回やっただけで今ではボーキンと五分の勝負となっていた。


流石は、経験豊富な警備兵の隊長といったところだろう。


ただ、東と西の対決はお互いのプライドもあるため行わない雰囲気が自然とできていた。






一方シュクルスは、一週間ほど過ぎたがアルベルトに一勝もできていなかった。





「これで……お終いだな」





アルベルトが何の迷いもなく駒を進め、今回のゲームは終了した。



シュクルスは盤面上の状況を見つめ、もはや何が原因でこうなってしまったのかさえ分からない状況となっていた。

アルベルトとの経験の差も、大きな違いの一つだろう。



「あー、これ苦手です……」



「だが、これは基本が学べるのだぞ?まぁ、本当は同じレベルの者同士でやるといいのだが。それは国に戻ってからだな」



「そうですね……いつ戻ることができるんでしょうね?」




――ドン!



シュクルスの背中に、大きな衝撃が走る。

後ろで、姉のソルベティがシュクルスの背中に肘打ちしたのだ。



「な……どうしたんで……」



シュクルスは、ソルベティの先の視線にボーキンが申し訳なさそうにしているのが見え、言葉を詰まらせた。







――コンコン




丁度良いタイミングで、扉をノックする音が聞こえた。



近くにいたソルベティが扉を開けた。







「失礼します。ボーキン様、カステオ様とニーナ様がお呼びです」




従者はそう告げて、お辞儀をして部屋を出ていった。





その後、ボーキンはエルメトに手伝ってもらいながら着替えを済ませる。

王子と王女に面会するに相応しい服装になり、エルメトと一緒に部屋の外で待っていた従者と共に歩いて行った。




ハルナたちは、ただその後姿を黙って見送った。






静かな廊下を歩いて行きその間、誰ともすれ違うことはなかった。

従者は大きな扉の前で立ち止まり、カステオの扉をノックする。



中から入室を許可する返答があり、従者は扉を開けて中に入った。



エルメトはドアの前で待っていたが、カステオから声を掛けられ一緒に入ってくるように命令された。




ボーキンとエルメトが部屋に入り、扉の前で立ちどまる。

連れてきた従者はカステオにお辞儀をして、退室し扉を閉めた。



ボーキンは前を見ると、カステオとニーナの他に東の国の王子が二人いることに気付いた。

その視線に気付き、カステオは声を掛ける。




「今回の件、東の国の者にも迷惑をかけている。なので、この”事件”については知る権利があると考え同席してもらった……問題ないな?」




ボーキンは胸に手を当てて腰を折り、お辞儀をしてその問いに答える。





「はい、問題ございません」




「よし、ではこちらにきてその席に座るがいい」




ボーキンは指示された席に座り、その後ろにエルメトが立つ。

その前には四人が座っており、これからボーキンへの尋問が始まる。




「まず、最初に言っておくがお前への処罰は既に決まっている。だが、そのことを承知したうえで、これからの質問に真実を答えるがいい。当然誤魔化しても処罰が軽くなったりすることはないからそのつもりでな」




「はっ」



ボーキンは、短く一言だけ返答した。





「それでは、聞こうか。お前がどうして、あのようにな行動をとることになったのか……」








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